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三話 修復される関係
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トイレを出ると、大分時間が経ったようで廊下には誰も人がいない。
時折、窓の外から運動部の叫ぶような声が聞こえてきた。
「なぁ、どこ向かってるんだ?」
由那の向かっている方向に千優もついて行くが、その先に二人の教室はない。このまま進むと一年の教室があるだけだ。
「今日エッチ解禁日なんだ。ヒイロってば今日バイトだからって後輩に僕の事任せたんだよ。
だから一年の教室。皆とエッチしてきてね」
由那は悪びれもせず千優に笑いかけた。代わりにセックスをしてこいと言っているのだ。
「ざけんな。絶対、死んでも嫌……!」
千優は逆方向に逃げ走った。教室に戻って鞄を持って帰ってしまえば由那は諦めるだろうと考えたのだ。
だが、体格差もあり由那に追いつかれて、腕を掴まれてしまう。
千優は普段インドア派で、部屋からほとんど出ないのが意外にも筋肉は付いているようだ。由那の筋肉の方が無いとも言えるだろうが。
「やだ、なんで俺がっ!! つか、どうして飛び降りたんだよ? お前が飛び降りなきゃ流れ星の願いだって無効になってたかもしれないのに……!」
流れ星に願っただなんて妄言を信じてはいない。
躓いたとか、階段を踏み外したとか、事故だろうが、由那が階段から落ちてこなければ……。
そんな恨みにも似た黒いものが胸の奥からこみ上げてくるのだ。
だが、由那の言葉によってその黒いものは一瞬で消えた。
「突き落とされた」
「……は?」
「階段降りようとしたら、背中を思い切り押されたんだ」
それは誰かが由那に怪我をさせる為に、階段の上から突き落としたという事だろうか。
それ以外考えられないのに、千優の思考は追いついてくれない。
「仕方ないんだよ。人気者の三人を俺が独り占めしてるんだもん。誰に恨まれていてもおかしくないよねぇ。
ごめんね? 落ちたのは俺も不本意なんだよ」
陸上部部長で後輩に慕われて、他の部活の助っ人もこなす宇田尚睦。
図書委員でミステリアスな雰囲気の、隠れファンが多い小桜詩。
頼りがいがあり漢気があって、男なら誰しも男惚れをしてしまう剛一蕗。
その三人は由那に惚れており、由那の親衛隊として常に近くにいる──というのが千優が知っている情報である。
「あれ、ていうか、今日は親衛隊は?」
「ナオは部活。ウタは図書委員の当番。ヒイロはバイト」
それで由那が帰りのHR(ホームルーム)に出ていないというのに、誰も探している気配がないのだ。
「三人とも俺の恩人なんだ」
「恩人?」
「そ。いつも心配ばっかりかけてるから、出来れば入れ替わりの事は知られたくない。
だから君が俺のフリしてエッチしてくれた方が俺も助かるんだけど。ごめん、無茶言ったね」
ナオ、ウタ、ヒイロの話をする時の由那は慈愛に満ちた表情を浮かべていたが、千優にはそれが恋愛感情ではないように思えた。
「とりあえず、一年の教室行こ? 待っててくれてる人に断りをいれなきゃ」
千優はまた由那に手を引かれて、一年の教室に向かった。
今の身体が由那のものがなんだろうが、千優は知らない男とセックスなんてしたくないのだ。
断れるならそれに越したことはない。
「いいよ、断って。俺のファンは無理矢理する人いないから、断れば引き下がってくれる。それに今日は予約じゃない、ヒイロの代わりだし」
そこで千優は、由那とのセックスは予約制だという事を思い出した。
全く関わりがないから忘れていた事だ。
「安心出来る要素がないぞ。それで引き下がらなかったら?」
「俺が助けるよ」
「来須が……」
「そう。俺が君を守るよ」
トイレでの出来事を思い出す。
好きでもない男、自分の姿をした由那にイかされた事は、おぞましい以外の感情を持てない。
だというのに、何故こんなにも胸が切なくなるのか……。その感情の名前を千優は知らない。
由那はにっと歯を見せて笑顔を見せた。
千優にとっては自分の顔だが、それがいやらしく色艶のある笑みに見えるから、おかしな感覚だ。
「ごめんな」
「え、なにが?」
「来須の事、ただのセックスジャンキーだと思ってた」
「あながち間違いじゃないでしょ」
由那が浮かべる笑顔は、楽しいから浮かべているようにはもう思えなくなっていた。
「でもさ違うだろ? セックス依存性っぽいの治そうと頑張ってるみたいだし、ファンの事信用してるの偉いって思うし、俺の事嫌いって言いながらこんなに気遣ってくれてるし。
まぁ入れ替わったのは許さないけど、でも、お前の事少し見直した」
「ありがとう。さっきは意地悪言っちゃったけど、俺千優の事嫌いじゃないよ?」
「え?」
「嫌いな人を下の名前で呼ぶわけないでしょー?」
何故か一瞬、千優の目には由那が輝いて見えた。
どんな姿になろうと、陰気オタクキャラの姿になろうと、彼が向ける微笑みは、宝石のように綺麗だった。
こうなって初めて由那のファンになる者の気持ちが分かったような気がした。
「俺、由那ファンには……なれないけど、でも、応援はするよ」
「ありがとう! じゃあ俺からもエールを送るね。頑張って一年生に断りを入れてください!」
由那は頭を下げた。もう彼に不快感はない、千優は強く頷いたのだった。
一年の教室は、もうほとんど人が残っていなかった。
由那空き教室になった今は物置と化している教室の前で立ち止まった。
「ここ。今日のヤリ部屋。じゃあ待っててあげるから行ってきなよ」
もしかして、断ったら強姦されるかもしれない等ゴチャゴチャ考えながら、千優は意を決して教室の扉をガラッと開けた。
中には見た目不良にしか見えないチャラついた男が三人。
「あっ、ユイさん。遅かったですね」
「さっさとしちゃいましょ。学校閉まっちゃう」
「どんなプレイがいいですか?」
見た目は突っ張っているのに、なかなか従順な態度を示す多分後輩三人に、千優は少したじろいだ。
「すまないが、今日気分じゃないんだ。今日はナシでいいかな?」
絶対に由那が言わないような言葉を使ってしまって、冷や汗が滲む。
相手は後輩だ、先輩の言う事を聞いてくれる事を祈った。
「ええっ? 大丈夫なんですか?」
「ヒイロ先輩から、ユイさんがSOS出したって聞いたんですけど」
「無理はいけませんよ?」
だが、予想に反して三人が三人とも心配そうに千優の顔を覗き込んできた。
心配されると思っていなかっただけに、千優は困惑する。
「ユイさん、無理は禁物です。もう我慢出来なくて辛そうにしてたってヒイロ先輩から聞いてますよ?」
「前みたいに倒れたら……俺、ユイさんが心配です」
「俺ら、無理させませんよ?」
ただやりたいだけの反応ではない。何かを心配されている。
ここで彼らに大人しく従ったら、尻に彼らの性器を突っ込まれるのか……と、その恐怖が強い。
千優は絶対やりたくないのだ。
「したくないものはしたくないんだってば!」
まずい、つい声を荒らげてしまった。
相手は不良のような出で立ちの怖そうな後輩だ。
「……ユイさんがそこまで言うなら……なぁ」
「うん。無理強いはしませんけど」
「辛くなったら、ちゃんと親衛隊の皆さんに言ってください。焦る気持ちは分かります。でもすぐに解決できる話じゃないですし、それでも我慢すると言うなら俺らは応援してますから」
不良達三人は、大人しく鞄を持って教室から出ていった。
全てが分からない。なんの話なのか。
由那が言っていた、定期的にセックスをしないと体が辛くなる事と関係があるのは分かるのだが……。
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