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四話 良い友人に……
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「ありがとね、嫌な役回りさせてごめんね」
一年の教室を出ると、由那が待っていた。
「いや。来須の言う通り、色々騒がれたけど引き下がってくれたし。
なぁ、断ったらあいつらお前の事、凄く心配してたんだけど。どういう事?」
「うん、そう思うよね。説明する」
俺と由那は鞄を取りに俺らの教室へと向かった。三年は四階に教室があり、一年の教室がある二階から階段で昇っていく。
「俺さぁ、さっき千優が言ったようにセックス依存症らしいんだよね」
「皆と毎日やってるから……?」
「違うよ、全然違う。セックス依存症になったから、皆にセックスしてもらってる。
まぁ依存症になったのも、ヤリまくってたからだけど、ファンの人達は違うよ。彼らは俺を道具扱いしないから……」
語りだした由那の声は、先程までと違って暗いものだった。
「三年前、ある出来事があって俺はこんな体質になったんだ。それを助けてくれたのがあの三人。
今の立ち位置を作ってくれて、したい時に皆とエッチ出来る環境を作ってくれた」
由那は階段を登りながら自分の話をする。
想像する事すら出来ない。中学三年生の頃、急に人気者になった由那に何が起きたかは知らないし、興味もなかった。
知っていれば、あんなに嫌う事はなかったのだろう。
「そうだったのか」
「そう。理解出来ないだろ? これでも少しずつ良くなってきてるんだよ。
前に欲求不満が高まって、頭おかしくなって、誰か知らない奴とセックスしてた事もあってさ」
困ったような笑顔。窓の外はもう日が沈んで暗い。その翳りは、由那の顔を更に儚げに見せる。
千優の顔でも見せる表情は由那のものなのだ。
「息が出来ないくらい苦しくなって、体の奥がペニスを求めてやまなくなる。ねぇ千優、苦しくなったらいつでも連絡して。出来るだけ俺がフォローするから。俺じゃ嫌かな?」
「いんや。さっきイかせてもらったし、もう嫌悪感もない。むしろ来須なら抵抗が無い」
「良かった……」
「つか、今まで辛い思いしてたのに、勝手な偏見で嫌って悪かった」
千優は頭を下げると、由那は「いいよ」と微笑んだのだった。
二人で教室に戻り、お互いの鞄を交換した。
スマホもお互いのものを持つ事にした。
もし知り合いから連絡が来たらどう返すかを、お互い連絡し合ってから返す事になったのだ。
といっても、千優宛にメールや電話が来る事はないので、主に由那に来たものを相談する事になりそうだが。
「そういや俺の事話してなかったけど、来須、俺の事知らないのに大丈夫なの? それに来須の家族とか親衛隊の人達だって……」
「うちは一人暮らしだし、家族とはほぼ連絡取らないから問題ないよ。俺は完璧千優になりきれるから安心してね」
「どうしてだよ」
自信満々な由那に納得がいかない。
千優は明日から来須がしていたように語尾にハートのつくような喋り方なんか出来ないのだ。
それなら中身が違うと分かってもらった方がやりやすいのではないか、そう考えた。
「ずっと見てたし」
「そういう冗談、ついていけないんだけど」
「えへへ。とにかくお願い千優! あの三人に知られたくないから言わないで欲しい。心配かけたくないっていうのもあるけど……」
しなっと儚げな目をしている見た目千優だが、中身が由那というだけで、か弱い男子に見えるから不思議だ。
千優はオロオロと困ってしまう。
「でも、それだと俺んちが……。内情とか知らないだろ?」
由那はきょとんとしている。
「千優は四人家族の長男、姉が一人。母親は専業主婦、父親は外資系企業の役員。
チヒロは二年前あたりから反抗期に入ってて家族とはまともに会話は全く会話をしてないよね?
ゲーオタで学校から帰ってからギャルゲー三昧、夜中は深夜アニメを見てから二時に就寝、七時に起床。
朝早く学校に来て寝たふりしてクラスの観察……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ……何故それを? ストーカーっぽいぞ?」
ニコッと優しく俺に微笑む由那は、やれやれと首を左右にゆるゆる振った。
「悪い。俺に嫌がらせしてくる犯人特定の為、俺を嫌ってそうな人は大体調査させてもらったんだ」
「そこまでしたのか」
「うん。でも……怪しい人はいなかった。もしかしたら俺の事好きなフリしてる人かも……」
そこまで調べていて犯人特定が出来ないのか。千優は開いた口を閉じる事が出来なかった。
「そっか。俺も出来るだけ周りを見てみるよ。なぁ俺ら、良い友人になれたら、なんてな。元に戻ったら、前と同じに戻ろう」
「俺は、良い友人になれるって思ってるよ」
そう言いながら由那は、今までで一番優しい微笑を見せたのだった。
千優も由那を信じた。ファンにはなれなくとも、きっと良い友人になれるだろうと。
だが、千優は一つ気付かなければならない事を見逃した。いくら調査したからといって、一人の調査内容の細い情報など普通は覚えている筈がないのだという事を……。
教室からそれぞれ時間を空けて下校をすることになった。
千優は由那に言われた通りに、学校から最寄りの駅から電車に乗り、二十分ほど車内で揺られて、歩いて一分もかからないマンションに辿り着いた。
基本的に恋坂高校の生徒は富裕層が多い。由那がどこかの会社の御曹司でもおかしくないと、千優は予想した。
鍵を使ってマンション内に入り、十階までエレベーターで上がっていく。生まれてこのかた一軒家にしか住んだことのない千優にとっては初めての経験だ。
1002号室。ここが住んでいる部屋だ。由那は一人暮らしをしていると言っていた。
まず玄関のドアを開けて、靴を脱いで部屋に上がり、広いリビングを抜けて、寝室らしき奥の部屋に入った千優は顔を顰めた。
異臭がする。嗅いだことのあるような嫌な臭いだ。
気持ち悪さを堪えて進んでいくと異臭の原因が分かった。
「うっ……これ……」
八畳程の部屋の隅を見る。ベッドの脇にネットでしか見る事のない器具が沢山散らばっていた。俗に言う大人の玩具だ。
小さい楕円形のものから線が伸びスイッチに繋がっているものや、男性器の形を模したもの、洗濯クリップに似た木製のクリップなど。
その周りに丸まったティッシュが散らばっている。
床はきっと何かで濡れたのだろう、白い何かが固まっていた。汗が乾いて結晶化されたものかもしれないし、それ以外のものかもしれない。
「うっ…………おえっ」
吐き気を我慢するだけで精一杯で、それに近寄れない。気持ち悪さだけが込み上げた。
だがどうにかティッシュはゴミ箱に捨て、玩具は洗面所に持って行って洗った。
「なんだってこんな事」
確かに由那への嫌悪感はないが、それとこれとは別だ。
仮に、家に帰って食べ終わった弁当を出した時、何故か知らない人の食べ残しの弁当が出てきて、それを片さなければならないとしたら、嫌な気分になるだろう。それと同じである。
後片付けを終え、消臭スプレーがあったので、それを部屋全体に振り撒いた。
ようやくやるべき事を終え、由那のスマホを使って自分のスマホに電話をした。
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