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八話 千優の好きな人
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ヒイロの熱い視線から、あの少女を思い出した。
「あの……」
たどたどしく声を掛けてきた白いワンピースの女の子。千優は、最初迷子だと思った。
「どうしたの?」
「……あの、あなたが好き……です」
震える手足、頬を染める可愛い顔。
泣きそうな顔で必死に告白してくれた女の子……。
ヒイロが恋をしていると分かる瞳が、あの女の子に似ている。だから思い出したのだ。
「じゃあこのまま何日禁欲出来るか試してみようか」
過去を振り返っている間に話が進んでしまっていた。
そんなウタの声で千優は我に返る。
禁欲の言葉に疑問を感じた。
由那はオナニーをしていた。禁欲は出来ていないと認識している。
「今日が七日目だから、このまま続行ね。予約の調整は任せて」
ナオがノートを取り出して、うんうんと悩み始めた。
「但し、無理は厳禁。適度に抜いておけよ」
とヒイロ。
禁欲とは何か。セックスはしないけれど、オナニーをするのは禁欲という事になるらしい。
納得がいかないが納得するしかなかった。
ウタも真剣な目で千優を見つめてきた。ヒイロのような熱い眼差しではなく、普通に心配している様子だ。
「ユイ〜。辛くなったら俺に言うんだよっ?」
ナオにギュッと抱き着かれた。触れたところが電気が走ったかのように痺れる快楽を感じてしまうと、思わず声が漏れた。
「んぅっ」
千優の様子にすぐに気付いたナオが手をパッと離した。
「ごっ、ごめん!大丈夫?」
「うん……」
コクコクと俺は頷くが、大丈夫に見えないようだ。オロオロとナオが心配そうにしている。
大丈夫と言いたいが、実はかなりキツい。
今は全身が敏感になっていて、触られたら力が抜けてしまう。これで禁欲なんて本当に出来るのだろうか、千優には分からない。
だがするしかない。解禁は知らない男とのセックスとイコールとなるからだ。
「みんな……ありがと。大丈夫だから」
三人とも平等にしなければ、と気も使う。特にそれが厄介である。
「とりあえず今日と明日、予約入ってる分はキャンセルしてもらうね」
由那とセックスするのは予約制だというのは有名だ。千優はほっと安堵した。
今日と明日予約があったなら千優はセックスをしなければならなかった。
では明後日はどうだろうか。明後日セックスせざるを得ないなら、覚悟を決めなければならない。
由那をアイドルではなく、ただの一生徒に戻すと。由那は嫌がるだろうが、恨まれても他人に身体を許したくないのだ。
それから三限目までいつも通りに過ごしていた。
ノートに書く時は書いて、退屈な時は寝る。
だが、休憩時間に由那からスマホにメッセージが届いた。
『授業聞いてるふりくらいしろよ!』
『そっちだって寝てるじゃん』
すかさず千優は返事を返した。
由那も机に突っ伏して寝ているというのに。
『俺は普段のチヒロをちゃんと演じてる。チヒロこそ、俺のフリちょっと頑張って。ね、お願い!』
普段由那がどんな風に授業を聞いているか、千優は知らない。
それより全身が疼く。尻の奥が切ない。
こんな状態で真面目に授業なんか聞けるわけがない。
射精したいと考えてしまうと下半身に意識がいき、ペニスが若干反応してしまうのだ。
由那に返事をせず、ハァと溜息をつくと左隣の席に座っているナオに心配された。
「次、移動教室だけど大丈夫? 南棟の四階まで階段登れる?」
今いる教室が東棟四階だ。化学実験がある日は面倒だ。一度一階に降りてからまた四階に登らなければならないのだ。
「うん。逆に運動したらスッキリするかも」
千優がそう言うとナオがクスクス笑った。
「え、何?」
「それ、体育の時いつも言うよね。運動部入ったら? 俺が見てやるし、性欲忘れるくらい疲れるよ、きっと」
それならその方が良いのだろうが、勝手に由那を運動部に入れるわけにはいかない。
「考えとく」
「前向きにね!」
由那の体は軽いお陰で階段の昇り降りは今まで以上に楽だった。逆に千優の体になった由那は辛いだろう。
移動後の教室でゼーハー息を切らしている来須がいた。軽い体から重い体になったのだから当然だろう。
『大丈夫か?』
と、千優はメッセージを送った。
『うん。俺も千優の生活頑張るよー』
すると、由那からそんな返事が返ってきた。
ぶりっ子だが良い人ではあるのだと千優は評価している。
今までの嫌悪感はなんだったのかと思う程だ。
千優は由那の身体を気遣う。
『無理すんなよ』
『うん! 千優もね。負担かけて悪いけど、無理はしないでね』
『サンキュー』
久々の友達との普通のやりとりに、千優は感動した。由那は友達だとハッキリ言えるくらい好感度は上がったのだった。
授業が終わり、千優はナオ、ウタ、ヒイロの三人と移動先から教室へと戻っていた。
いつも一人でいたからか、千優は常に誰かが近くにいる状態に疲れ始めてきた。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」
千優グループから抜けようとするとヒイロが、
「俺も付いて行ってやろうか?」
なんて言い出した。
千優的には連れションなんて冗談じゃない。
「ありがとう。気持ちだけで充分、一人で大丈夫だよ」
三人ともあっさりと了承した。
トイレくらいは由那も一人で行っているのだろう。
自然な流れでウタが俺の教材とペンケースを受け取ってくれた。
千優は階段を登りきると、三人から離れてトイレへ向かった。
廊下の先なので少し歩くが、昼休みだから気持ちに余裕がある。
廊下の途中、階段から人が登ってきたが、俺はその人に気付かずぶつかってしまった。
「わっ……」
可愛い声が漏れた。その声の主は千優ではない。
目の前にいる男子生徒に千優は胸が止まる思いだ。
ぱっちりした二重の目と柔らかそうな唇は千優を誘惑してきている。だが、無垢な身体が穢してはならない崇高な存在なのだと千優のリビドーを無に返す。
彼こそが千優が恋し続けている相手──木元俊(きもとすぐる)だ。
木元は、いたたと可愛い顔で千優を睨んでいる。
睨む顔も可愛いと千優の鼻の下が伸びた。
いつもなら木元はもっと下にいるが、身体が由那だから普通に立っていて目が合う。
自然と笑みが零れていた。
「うわ……きたなっ。身体に沢山の男のザーメンが染み付いてる奴がボクに触るなよ」
木元はそれだけ言うとその場から去っていった。
「……来須の奴ぅっ!」
千優は由那に対して木元に罵られた悲しみをぶつけた。誰もいない虚空に向かって。
だが、すぐに考えを改めた。絶対に受ける事のない「木元の罵倒」を受けられたのだからむしろ幸運ではないかと。
「ごめん、来須。やっぱありがとう」
誰とでもヤる由那ことユイに、誰にもヤらせない俊ことスグ。
正反対の二人であり、両者とも学校内のアイドルなのだ。どちらかのファンが被らないようクラスが分かれている程である。
だというのに、何故か千優は由那のクラスに割り振られてしまうが。
それは置いておくとして、由那と俊は学内の人気を二分化していると言って過言ではない。
木元は自分のファンを睨む事は一度としてない。
中学生の頃からのファンである千優が睨まれる事は絶対になかったのだ。
そのレアさに千優は興奮したのだった。
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