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十話 感じ過ぎる辛さ
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「お前っ! ユイから離れろ!!」
由那が千優から引き離される。胸倉を掴まれ、今にもヒイロに殴られそうだ。
さすがに由那も、防御体制に入ったようである。
「待って、暴力反対」
「お前っ……榛名? お前はこんな事をする様な男だと思わなかったぞ……」
という事は、少なくともヒイロには卑怯な事をしない男だと認められていたという事だ。
ヒイロとは特に関わりがなかったのに、悪く思われていなかったいう事が不思議だと感じた。
「その認識で合ってる。俺は三組の奴らから来須を助けただけ。だよな、来須?」
千優は必死に頷いた。もしヒイロに殴られたとして、その身体は千優のものだ。
「……ん。二人がかりで襲われたけど、千優が助けてくれた」
ヒイロが胸倉を掴んでいる手を離した。
「そ……う、だったのか」
「今それ辛そうだから助けてやりな」
由那はその場から立ち去ろうとしたが、ヒイロが腕を掴んで彼を引き留めた。
「すまない、榛名。今までお前の事、根暗で他人に無関心な冷たい木元バカだと思っていた。訂正する。榛名はユイの恩人で、友人だ」
ヒイロが真面目な顔をして深々と頭を下げた。
それがおかしいのか、由那は千優に目配せをしてヒイロを指さして声を立てずに笑っている。
もちろんそれは当人には見えていない。
「ヒイロ……」
千優は無意識にヒイロを求めた。
頼りがいのある男、ヒイロについ頼りたくなってしまったのだ。
「ユイ……」
由那は、千優がヒイロを求めていると気付いて、トイレから出ていった。
残された二人。ヒイロが千優の乱れた服を正して、ズボンも履かせる。
何故分かってくれないの? と千優の中で不満が募る。自分が何を考えているのか分からなくなっていた。
「ちがっ……そう、じゃないっ!」
声を荒らげた。服を着せるなんて酷いと。
体の奥が熱くて思考がぐちゃぐちゃなまま纏まらない。
犯して欲しいと思いながら心の奥で強く拒絶している千優がいる。
苦しさから涙が溢れた。全身が男を求めているのに、心は拒絶している。
「ユイ? 我慢出来ないの?」
ヒイロのその声で、現実に意識が戻った。
今我慢出来ないと言えばヒイロに抱かれてしまう。抱かれる身体は由那のものだろうが、意識は千優のものだ。
「ごめん。我慢する、我慢できるからっ」
セックスはしたくないと激しく拒絶する。ヒイロから見ておかしいと思われるだろうが、構わなかった。
ヒイロが眉をひそめて千優の顔をまじまじと見ている。
「ごめ……俺、我慢するって言ったのにこんな事になって。我慢出来るから」
「無理は厳禁とも言った」
ヒイロの見つめる目も、声も優しい。
せめて事情を説明して味方になってもらいたいと考えた。それをしてしまえば困るのは由那だ。
だが、由那に義理立てする必要性を感じられない。
ヒイロ一人なら、黙っていてくれるだろうと思った事もある。その時だった──。
「ユイ、ヒイロ!」
「大丈夫か?」
ナオとウタもトイレに入ってきた。
これで千優は口を噤んだ。
「今、ユイが襲われた。けど、榛名に助けられた」
ヒイロが説明している間に、千優は立ち上がる。
服が擦れて感じるが、意識しなければ多少の我慢は出来た。
「榛名って、あの榛名?」
ナオが首を傾げる。
目立たないのに存在を認識されている事に千優は驚いた。
「榛名千優か。木元ファンだけど、無害な男だよね。木元以外興味無いと思ってたんだけど」
ウタも意外だと唸っている。
そんな風に人に見られていたのかと、千優は恥ずかしくなった。
「良かったね、ユイ」
にこっとナオが千優に優しく微笑んだ。助けてもらえて良かったね、という意味だと思って頷く。
その言葉の本当の意味を分かっていなかったのだ。
そしてようやく教室へ戻る事が出来た。
あと二十分で昼休憩が終わってしまう。それまでに一階の購買まで行って、ご飯を買わなければならない。
だが、クラスの男子達が昼ご飯を用意してくれていた。
パンが数種類とおにぎりが数種類、飲み物も二種類あって、全て来須の好みで選んだそうだ。
「ユイ君! 昼ご飯買う時間ないと思ったから好きなの買っておいたよ」
「好きなのだけ取って。残ったら俺らで食うから」
由那ファン達はニコニコして千優に食べ物を差し出している。それが千優にとって申し訳なく感じた。
「お金払うよ、いくらだった?」
千優が財布を取り出すと、彼らは顔を真っ赤に染めた。
「そんなっ! いいよ! 俺、ユイ君に貢げただけでもう幸せだから!」
「そうそう! 皆で折半してるし、気にしないで。もう、ユイ君はお金の事は真面目だよね。今日はお弁当じゃなくて良かったよ」
つまり由那も奢られるのは抵抗があると言うことだ。普通の感覚だと思うが。
千優は聞き捨てならない台詞を無視できなかった。
「俺が弁当持ってきてないって……」
「鞄の重さで分かるよ〜」
ある意味気持ち悪くも感じたが、千優は笑顔を作った。
「皆、ありがとう」
千優がクラスメイトとそんなやり取りをしている間、ナオとウタが由那の元へ行って頭を下げていた。
由那は怠そうな顔で相手をしていた。
食事は辛かった。パンを口に含むと、口全体が感じて、力が抜けそうになる。
特に舌と上顎が一番ジンジンと感じてしまっている。
辛い感覚をどうにか我慢してパン一つだけ食べられた。いつもならこの量では足りないが、由那の体はそれでも充分足りているようだった。
その後、行く先行く先知らない男子生徒に声を掛けられ「禁欲頑張れ〜」と応援される。
中には「俺、応援してるから。いつまでも待つよ」と熱い目で見つめられ、「記録更新頑張れ!」ガッツポーズをしている者もいる。
気疲れをしていた千優は駅へと一人で帰った。
今日はヒイロはバイトで、ウタとナオは気付いたら教室からいなくなっていたので、逃げるように帰ったのだ。
電車通学が最高に怠い。今までは徒歩二十分で学校に着いたというのに。
各駅電車一本で徒歩の時間を含めると自宅まで四十分、時間の無駄としか言いようがない。
せめてもの救いは空いている事だ。逆方向は混雑している。
電車内の隅に座っていると、席は沢山空いているのに、千優のちょうど左隣に座る男性がいた。
スーツ姿の、真面目そうなサラリーマンだ。
その男の右手が伸びてきた。
なんだ? と疑問を抱く間もなく、男は俺の太腿に手を置いた。
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