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十二話 ウタの来訪
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目が覚めると十九時を回っていた。
由那が運んだのだろう、布団の中にいて、寝心地の悪いパーカーを着ている。いつ着替えたのかは記憶にはない。
変な着ぐるみのような部屋着を着ているだろうという事はなんとなく分かるのだが、他の記憶がボヤけている。
だが段々と頭が働きだすと、帰ってきてからの記憶が蘇ってきた。
「ヤバい、来須に見られた……」
玩具を使って自慰をしているところを由那に見られて介抱された記憶が映像のように頭に浮かんできた。
すぐに由那に謝ろうとスマホを探すと、当のスマホのバイブ音が響いた。
体を起こすと、スマホは枕元にあった。
電話だ。画面を見ると、ウタと表示されており、千優は電話には出なかった。
話したとして、由那にしか知らない二人だけの会話だとボロが出るからである。
これがメッセージであれば由那に指示を受けて返信するのだが……。
電話が切れると、千優は由那に電話をかけた。
「もしもし、来須?」
「やっほー。さっきは可愛かったよ」
「茶化さないでくれ。今ウタから電話が……」
「分かった、近くにいるからマンション戻るね〜」
由那がマンションに戻ってきて、千優はウタに電話を掛け直した。由那にも声が聞こえるようにスピーカーにしている。
「……もしもし?」
「もしもし、ウタ?」
「うん」
「……さっきは出られなくてごめん、どうしたの?」
たわいのない談笑が目的かと思ったのだが、千優の想像とは真逆の台詞をウタは吐いた。
「あのさ、ユイ。今から遊び行っていい?」
「へ?」
「ユイんち遊び行っていい?」
三人平等、その言葉が脳裏に浮かんだ。
トイレで襲われた時、由那に助けられ、ヒイロにも助けられた。だがそれだけで明日気をつけるように由那に言われた。
それならば、ウタ一人を部屋に招くだけでも危険なのではないかと考えたのだが……。
ウタを部屋に上げるのか? と視線で聞くと、由那は真剣な顔でうんと頷いた。
「うん、いいよ」
「じゃあ、一時間後行く」
「待ってるね」
電話を切ると、千優と由那は急いでウタを出迎える準備を始めた。
電話からきっかり一時間後、ウタは時間通りに部屋へやってきた。
「お邪魔します」
ウタは礼儀正しく、きちんと靴を揃えてから部屋に入った。
学校とは違う私服姿だが、清潔感のある真面目そうな雰囲気は、学校でも外でも変わらない。
千優は彼をリビングに通し、由那に言われた通りアイスコーヒーにミルクだけ入れてウタの前に置いた。
「いつも悪いな」
「ううん」
よく遊びに来ているという事だろうか。
「こんな夜に家は大丈夫なの?」
「もう高校生だし、うちはあまりうるさくないからね」
「へぇ、いいな」
「一番自由な奴が何を言う」
言われて気付く。今一人暮らし真っ最中だという事を。
『ちょっと、いい加減にしてよ。怪しまれるだろ』
千優は今Bluetoothを利用したワイヤレスイヤホンを付けて由那の通話中なのだが、そのイヤホンから由那の喚き声が聞こえてくる。
ウタが来るにあたって、由那は千優が下手な事を言わないように指示を送ることになった。
由那は別の部屋に隠れている。
千優はというと、イヤホンは着ぐるみ部屋着のパーカーを被して隠した状態だ。
何故クマに擬態しなければならないのか、不本意ではあるが仕方ない。
「で、どうしたの? 話なら電話でも良かったのに」
千優は自然な感じで聞いた。
怪しまれないように由那の真似をしながら。
「直接聞こうと思ってさ。今日ユイの様子が変だったから。大丈夫?」
「……大丈夫だよ。そんなに変だった?」
「うん、ものすごく」
「どこが?」
「皆に対する笑顔がぎこちないっていうか、皆体調悪いんじゃないかって心配してたよ。まるで違う人間みたい、まさか双子とか言わないよね?」
ドキッと胸が跳ね上がる。
『十二歳離れた弟はいるけど、双子はいないよ、笑顔でサンハイ!』
由那はふざけた言い方で指示を出す。
どうして楽しめるのか、千優は不思議でならない。笑顔は作らなかった。
「弟はいるけど、双子はいない」
『迂闊に変な事言うなよ。特にウタの前では』
だが由那にしてはいやに真面目な声だ。それはそれで緊張が走る。
「セックスしなくて本当に大丈夫? 皆に内緒でしてあげようか? それともヒイロとした?」
「だ、大丈夫。ホラ、しちゃったら記録の意味ないだろ?」
「そうだよね。さすがユイは真面目だな」
『ウタこそどういうつもりか聞いて。わざわざうちまで来た理由』
イヤホンから聞こえる緊迫した由那の声に、俺まで気が張る。
「う、ウタこそ、なんでうちに?」
「別に。そろそろ限界かと思っただけ。我慢出来るなら余計なお世話だったね」
「ううん、心配してくれて嬉しいよ」
「ユイの為だからな」
ニッコリと笑ったウタは、本当に由那を心配しているようにしか見えない。
『俺がヒイロとしたか、心配になった? って聞いてみて』
「お、俺がヒイロとしたのか、心配になったのか?」
「なんで? ヒイロは関係ないだろ。心配してたのに、なんでそういうこと言うんだよ。
ユイの顔が見たくて来ただけだよ。お邪魔して悪かったな」
「えっ! そんなつもりじゃ……ごめんね」
「あ……いや。こっちこそごめん」
明らかにウタはおかしかったが、すぐに平静に戻った為、流れで談笑になった。
そして、アイスコーヒーを飲み干したウタは、お邪魔しましたと帰っていった。
通話を切った由那が奥の部屋から出てきた。いつになく重々しい顔をしている。
「お疲れ様」
「あ、うん。どうかしたのか?」
「なんでもない。ありがとね」
無理に笑顔を作ったようだが、千優にバレバレだった。由那は笑顔で感情を表している時があるが、無理に笑顔を作ると不自然極まりない。
だが、きっと由那とウタの間に何かがあるのだろうと、千優は追求しなかった。
その代わりか、急に真面目な顔をして警告してきたのだ。
「チヒロ。明日、君は怪我をする」
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