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十五話 怪我と冷戦
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「うん、俺は皆好きだからね。一人に絞らないよ」
ベストアンサーだろう。由那ならそう言うだろう事を言う。とにかくウタの近くに居たくなくて、足早に校舎へと向かった。
下駄箱に着くと、他の生徒に上履きを用意されいた。ここまでされると気恥しいものを感じるが、由那の為に我慢をしてその上履きを履いた。
何かが左足の裏に引っ掛かった気がした。
歩き出すと、まるで石でも入ってしまったかのような違和感。このまま上履きを脱いで石を落としてから履き直すのは由那らしくない様な気がして、千優は我慢して歩く。
が、痛い。まるで石の角が足に刺さったような、そんな痛さに立ち止まって座り込むと、皆がどうしたの? と心配しながら近寄ってくる。
痛みを我慢出来ず左足の上履きを脱ぐと、白い靴下には血が滲んでいて、何かが刺さっていた。
「ガラス片っ!?」
ウタがそう言って、俺の足からガラス片らしきものをそっと抜いてくれる。
「いっだああああ!! もうだめ、痛っ、いたいっ」
確かに痛みはあるが、大騒ぎする程ではない。それでも由那に言われたり大袈裟に騒いだ。
誰かが仕込んだものなのだと分かる。そして犯人が誰なのかも……。
「大丈夫?」
ウタが千優の顔を覗き込んできた。優しい笑顔だ。
疑っていなければ、千優を安心させる為に笑顔を向けてくれているのだと信じたであろう。だが、一度そういう目で見てしまうと、笑いを堪えている笑みに見えてしまう。
由那はずっと我慢してきたのだ。
友人と、そして親衛隊と称して近くにいて、危害を加える男を……。
「だ、だめ。痛い」
騒いでみせると、ヒイロに抱きかかえられた。
お姫様抱っこをされるなんて、赤ん坊の時はあっただろうが、千優の記憶を辿るに初めての経験だ。恥ずかしくなる。
ヒイロはすぐに医務室に駆け込んだ。元々俺の周りにいた者だけでなく、たまたま廊下を歩いていた者も、抱えられているのが由那の姿だと分かると後についてきた。
大人数で入ろうとしたからだろう、医務室へはヒイロ、ウタ、ナオと千優以外は追い出された。
病人が一人寝ているからうるさいとの事だ。
カーテンが閉まっているベッドが一つあるからそこに病人がいるのだろう。
カーテンを何気なく見ていると、ザッとカーテンが開いた。
「なぁに、騒がしいね」
こちらに顔を覗かせている人物を見て驚く。
それは由那だった。
「あれっ!」
千優は驚いて声を上げた。驚きのあまり口をパクパクさせる。
「あらま、来須と親衛隊の皆様。どったの?」
わざとだろうか? 千優なら絶対言わないような言い方で、由那は質問してきた。
椅子に座って養護教諭に手当を受けている間、ヒイロが千優の頭を撫でながら由那に事の次第を説明する。
「実は、ユイの上履きにガラス片が入ってて、ユイの可愛い足が傷物に……」
「ヒイロ!?」
気持ち悪い物言いに、千優は反射的に露骨に嫌そうな顔をしてしまった。
その瞬間、由那が千優に笑顔を向けた。笑っているのではない、怒りを感じているのを笑顔で誤魔化しているのだと千優はすぐに分かった。
「ふぅん、ガラス片ねぇ」
「足の裏は皮が厚いから治りは早いよ。体育は見学してね、私からも担任に報告しておく」
養護教諭は柏田という男性だ。
女顔で、線が細く、平均男性より小さい体は、少しの衝撃で折れてしまいそうだ。陰気臭そうな雰囲気が、人を近付けさせない。
その苦手意識もあってか、千優が医務室を利用するのは数少ない。まじまじと見ると顔だけは由那に似ている気がした。
「そういえばさ昨日の放課後、ヒイロはバイトでしょ? ナオは部活無くて後輩君と早く帰ったの見たけど、ウタはどうして来須と帰らなかったの? 昨日図書委員の当番じゃないよね?」
由那は急に口調を変えてウタに話し掛けた。
千優は確信した、由那はウタを疑っていると。
「……俺が放課後残ってユイの上履きにガラス片を入れたとでも言いたいのか?」
ウタは怒気を含んだ声で由那に返す。それが犯人であるとでも言っているかのような台詞に、千優は身体が強張る。
彼が犯人だというのなら、それ相応の証拠を見つけなければならない──だというのにこれでは証拠がない。
「んーん。何してたのかなって。単純に興味。ナオもそうだけどさ、昨日来須の事一人で帰したのが珍しいなって」
千優は知らない内容に驚きを隠せない。
つまり、由那はいつも一人では帰っていないという事だ。誰かと帰るという発想がなかった。
ナオは途中まで帰る方向が同じだが、他二人は学校の最寄り駅までは一緒に帰っているという事だろう。
バイトがあったヒイロは一緒に帰れないとしても、ナオかウタは一緒に帰っていた筈なのだろう。
ウタの行動は知らないが、ナオは途中降りた駅で会っている。その時後輩君とやらはいなかったが。
「馬鹿馬鹿しい。そんなの無関係の榛名には関係ない。俺らは常に一緒ってわけじゃないし。榛名も昨日からなんか変だな」
ウタが迷惑そうな顔を由那に向けるが、由那はウタを見てニコッと笑ってみせた。
千優には、由那が結構怒っていると分かる。
「ウタってイメージと違って饒舌なんだね。ごめん、変な事聞いて」
医務室に入ってから由那は好戦的だ。はっきりと疑っているという目をウタに向けている。
なんにせよ、今日で決着をつけようとしているのは確かだ。千優は由那に任せる事にした。
最初は嫌いな相手だったが、今はそれだけ信用している。
千優は三人と共に医務室を出た。刺さった左足を庇いながら歩く。周りが支えようとしてくれるが、千優はそれを拒んだ。
これ位で支えられるのは恥ずかしい。
医務室の外には、「ユイ」を心配して待っている人でいっぱいだった。
上履きを用意した生徒が平伏し、泣きながら謝っている。
「ごめんなさい! 俺がっ……俺がもっとちゃんと確認していればっ!」
もし木元にこんな事が起きれば、木元のファン全員で責めた事だろう。そしてその生徒はもうファンを続ける事が出来なくなる。
木元が許しても周りが許さないのだ。
だが、千優の想像とは全く違っていた。
謝っている彼の周りの生徒が、千優に懇願してきたのだ。
「すみません、俺ら皆ユイ君が生活に困らないようフォローしますから」
「石田の事許してあげてください。わざとじゃないし、ユイ君の上履きにガラス片を入れるような奴じゃないんです」
「ユイ君……!」
皆、縋るような眼差しで俺の心配をしながらも、彼を許すよう訴えている。
「足の裏は治りも早いっていうし、フォローは大丈夫。石田君、上履き用意してくれたの嬉しかった。君がこんな事する人じゃないって分かってるから」
どうにか笑顔を作れた。どうした方が由那らしいのか分からないので、千優は自分が思う由那像を作る事にした。
問題が一つあった。
皆、千優の怪我や上履きを用意した石田を心配して、一件落着落ち着いたようだが、千優だけはそうはいかない。
さっきからじんわりと、下半身が熱いのだ。半分勃起している。ガラス片が刺さってから、痛みに呼応するように男性器が反応している。
千優の身体であれば、時間が経てば落ち着いたのだが、この体は別だ。放置すれば放置する程、感度が上がる。痛みを感じれば感じる程、男性器はそそり立ってしまう。
こうなったらトイレで抜くか、と考え昨日襲われた事を思い出す。
親衛隊にどうすればいいか聞くのは恥ずかしい。
教室に入り少し落ち着いてから由那にメールを送る。
『勃起した、どうしよう』
『教室でストリップでもしたら皆抜いてくれそうだよね』
『そういう冗談やめろよ』
困ってメッセージを送っているのに、由那からはそんなふざけた返事しか送られてこなかった。
それから由那からのメッセージは送られなくなった。
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