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十六話 思わぬラッキー
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一限目は体育だ。HRが始まる前から全員体操着に着替えており、準備万端だ。
千優は本来の自分の席を見るが、空席のままだ。
由那は今日一日医務室にいるのか、それともウタを追い詰める準備をするのか。
あまり休んで欲しくはなかったが、事情が事情なだけに許さざるを得ない。
HRが終わり、皆ガヤガヤ騒がしく教室を出ていく。俺もナオ、ウタ、ヒイロと一緒に体育館へ向かう。
左足を庇っているので、動きが遅いが授業には間に合うだろう。
「……にしても誰だろうね」
ナオが苦渋の色を浮かべた顔で悔しがった。
「許せん」
ヒイロもゴゴゴゴという音が聞こえそうな迫力で拳を握りしめている。ガタイが良いだけに味方で良かったと思える程だ。
「ユイ、心当たりは?」
ウタも心配そうな顔で千優を見つめる。そこまでの白々しさに感心する。
だが、千優は由那の準備の邪魔をしてはならない。知らない振りをした。
「ううん、ないよ」
千優が困ってみせると、ナオがヨシヨシと頭を撫でてきた。
昨日よりはマシだが、頭皮も性感帯だ。触らないで欲しいのを我慢する。
「あ、いけない。俺体育の教科係だった。準備しなきゃ」
ウタがまずったという顔をする。
体育の教科係は、一番不人気の係だ。準備が必要な授業の時は始まる前に先生の手伝いをしなければならない。
今日の体育はバレーボールだから、ネットを掛ける準備を係がやるのだ。
ジャンケンで負けた者に課された悲しい宿命、それが体育の教科係だ。
「俺も手伝う」
と、ヒイロが早歩きを始めた。
「いいよ、ヒイロはユイを……」
「面倒な係なんだ、手伝うさ。ナオ、ユイの事頼んだぞ」
「はぁい。ユイは怪我人だからゆっくり行こうね」
ウタと共にヒイロが早歩きで進んでいった。加害者と思わしき人と離れられてようやく力が抜ける。
ナオがにこっと優しく微笑む。
陸上部部長であるナオは、いつもは頼りがいのあるしっかりした顔を見せるが、千優の前では優しい目をする。これが包容力というものだろうか。
左足を庇って歩く千優をナオが支える。
「ユイ、大丈夫?」
「これくらいで駄目なんて言えないって」
千優はハハハと軽く笑うが、
「ユイにこんな事……酷いよね。ユイがどれだけ辛い思いしてきたか知らないんだ。だからこんな事出来るんだろうね」
ギリ、とナオが歯を食いしばった。
「やっぱ、今日から一緒に帰るよ。ユイは気を利かせて俺を親衛隊から抜かそうとしてるけどさ。それ以前に友達じゃん!」
「ナオ……」
「尚睦(なおちか)先輩!!」
千優が言いかけた瞬間、背後から声がした。
振り向くと、知らない男子生徒がいて何故か千優を睨みつけている。
「あ、レオ君」
睨んでいる彼と、明るい笑顔のナオは対照的だ。
先輩と呼んだという事は、ナオの後輩なのだろう。確かに、陸上部特有の足の筋肉の付き方をしている。
細いのに筋肉だけが詰まっているような硬そうな脚だ。
「先輩、またその人にベッタリ! ユイ先輩もっ尚睦先輩から離れてくださいっ」
思考停止する。
足を怪我したから支えてもらっているのに、離れろと言われても困る。
ナオは、困った顔というより照れる様に顔を赤くして、未だに睨む顔を緩めない彼を見つめている。
千優が反応出来ずにいると、彼は千優とナオをそれぞれの腕で掴んで引き剥がした。
「尚睦先輩に触らないでくださいっ! 淫乱が移るんで!」
「こらレオ君!」
捲し立てる彼を、ナオが止めた。
「すみません……でも……」
「誤解だよ。ユイは今足怪我してるから支えてるだけだよ」
「えっ! 大丈夫ですか?」
「歩きづらいだけだから」
「すみません。俺、先走って……。ユイ先輩お大事に。じゃあ尚睦先輩、また部活で」
「ああ。また後でな」
彼は千優とナオに頭を下げると、来た道を引き返していった。
「えっと?」
「可愛いよな、レオ君」
「えっ……まぁ、後輩って可愛いものだよね」
「そっちの可愛いじゃないって! またそうやって茶化して」
ナオは照れているのか顔が赤い。千優は気付いた、ナオはレオ君とやらが好きだという事に。
「……そしたらナオは、レオ君の近くにいるべきじゃ
?」
ぼそっと声に出していた。失言だったと千優は口を噤み、ナオを見る。
「学年違うからいつも一緒には居られないの。だから最近は放課後だけレオ君と一緒にいるようにしてるでしょ。
でも、ユイが危険な目に遭うなら部活がない日だけでも……」
「大丈夫。ウタもヒイロもいるし。レオ君一人にしたら可哀想だよ。帰りは大丈夫!」
「ユイは本当はどう思ってるんだ? 早く親衛隊やめろって言ってくるけど、本音は?」
本音と言われても、千優には分からない。
由那が建前を使う時が大分分かってきているが、本音までは……。
「そ、それが本音だよ」
「その言葉信じるぞ。なぁ、俺今日告白しようかと思ってるんだけどいいかな?」
「なんで俺の許可が必要なの? 早く告って幸せになってよ」
「おうっ」
顔を赤くさせたナオは千優の体を支えながら、体育館へ向かったのだった。
体育の授業が終わり、千優は教室に戻るとすぐに由那にメッセージを送る。
『ナオ、今日告白するって』
だが、返事は無い。既読もつかない。
千優は次の準備をしようとスマホをしまおうとした時、メッセージが送られてきたのでスマホを開いた。
由那からかと思いきや、違う人からだ。名前には『スグ』の文字だ。
「すっ……!?」
スグと聞いて思い浮かぶのは、木元俊しかいない。
メッセージを開いて、千優は硬直した。
『ユイ君、昨日酷い事言ってごめんね。分かってるとは思うけど本心じゃないから。それで、今日会って話がしたい。昼休み、地学準備室に来てもらえないかな?』
千優はすぐさま由那にメールを送った。
『きもとからメール!木元から!!なにこ』
『なにこれ、木元って来須の事嫌いじゃないの!?』
途中間違えて送信ボタンを押してしまい、メッセージを二回に分けて送った。
千優の焦りが分かるだろうか、かなり動揺している。
だが返事は無い。
こればかりは由那の指示を仰がないと無理だ。
さすがの親衛隊達も、由那と木元が連絡を取り合っているのを知っているだろうと思った千優は、まずヒイロに聞いた。
「あ、あのさ……ヒイロ」
ヒイロに声を掛けるのも小っ恥ずかしい。恋愛感情の目を向けてくる彼にどんな目を向けていいか分からないのだ。
「どうした?」
「これ、スグから来たんだけど」
スマホの画面を見せると、ヒイロは「あぁ」と、何事もなく頷いた。
「いつものところだな」
「行ってくるね」
「一人でか? いつも通り全員でいいだろ。他の生徒は二人が学校の人気を二つに分けてるライバル同士って思っている。
それが実は仲良しで、お互いにお互いのファンクラブ入ってるなんて……バラしても面白そうだが」
ヒイロの爆弾発言に千優は固まった。表面上はニコニコと笑顔で頷いているが、内心冷や汗だ。
「スグのツンデレ可愛いし、スグファンは喜びそう……かな」
「えっ、珍しい。木元のツンデレの温度差が激しいってよくキレてるのに。でもいつも二人きりで会うとデレるから絆される〜って悔しがってるよな?」
「あ、たまには可愛く見える時もあるなって、あはは」
千優は知らない情報だ。ショックも大きいが、木元が、今まで千優が敵視していた由那のファンという事も驚く。
木元のファンが知れば、きっと由那のファンとも仲良くするだろうに。秘密にしている理由はなんだろうかと悩んだが、答えは見つからなかった。
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