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十七話 突きつけられた現実
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千優はナオ、ウタ、ヒイロに連れられて、地学準備室まで向かった。
ナオとヒイロは良いが、ウタへの警戒心が高まる。なんだって移動は全員一緒になるのか。
とりあえずヒイロの隣にさえいれば、ウタはヒイロの反対側に回るので隣を歩く事はない。
地学準備室は昼休み、ほぼ人がいないので密会にはうってつけである。
部屋の前まで着くと、廊下に木元と同じクラスの男子生徒が二人いた。同じ顔と体付きをしているので見分けが付かない。
彼らは双子で木元の幼馴染みだ。来須でいう親衛隊みたいなもので常に木元と一緒にいる。
ガタイのいい体はヒイロと近いものを感じるが、双子の方が優男っぽい。
「ユイさん、ご足労いただきありがとうございます」
「すみません、うちの俊(すぐる)が……」
双子がそれぞれペコペコと頭を下げている。
親衛隊というよりも親のような態度に、千優は笑いそうになった。
スグファンなら誰でも知っている事であるが、この双子は木元が危なっかしいのでいつも世話を焼いている。
そんな三人の姿が尊いと専ら評判である。
「いえいえ、こちらこそ……」
ナオとウタまでペコペコと頭を下げた。
本当に木元と由那は仲良しらしい、お互いのお守り達も仲良さそうに笑顔を向けあっている。
千優は大人しく突っ立っていたが、
「……ユイさん、今日は大人しいんですね?」
と、双子の一人が突っ込んできた。
教室での由那は視界に入っていたからどうにか真似は出来たが、こういう時はどうしたらいいのか分からないのだ。
「えっ、まぁ、あはは……」
「すみません、色々周りの目もありますので、俊との面会は手短にお願いします」
まるで芸能界のマネージャーのようだ。
いや、実際そうなのだろう。木元というアイドルの世話を焼くマネージャー。
由那もセックスの相手を予約制にしたり、三人がマネージャーの役割を担っているという事なのだ。
「分かりました」
双子の敬語が移った千優はペコリと頭を下げ、地学準備室へ入っていった。
「……き……スグ?」
木元と言いかけて直す。
由那はスグと呼んでいる筈だと思い直した千優は、間違えないように気を引き締めた。
固くなっていると、突然横から現れた人物に、前からギュッ……と、抱き締めらる。
「ふぇっ……!?」
抱き締めてくる手が俺の背中を触れ、その腕が俺の二の腕に当たり、胸が俺の胸に密着し、顔が俺の肩に沈む。
当たっているところ全てが感じて、千優は力が抜けるのを感じた。
「あっ……んっ……や、やめっ……」
「ごめ……ごめんなさいっ、ユイ君大丈夫?」
パッと木元が俺から離れると、千優は支えを失い床にヘナヘナと膝を付いて座り込んでしまった。
特に木元に触れられたという、千優の精神的な悦びから身体はいつも以上に熱くなる。
心臓がバクバクと脈を打ち、痛い程だ。
「……スグ、大丈夫。大丈夫だから……」
「そんなに辛いんだね。今禁欲中だっけ? ごめん」
木元がそこまで知っているなんて。一体由那とどういう関係なのか千優には想像もつかない。
昨日の木元とは打って変わって優しい。
「こんな時にごめん。でも時間が無いから……」
「うん、何?」
千優は大丈夫だから心配しないで、と出来る限り笑ってみせた。少しホッとした様子の木元が笑顔を向けてくれる。
天使の笑顔、もう召されてもいいと思う程。
「真面目に聞いて欲しい。今日は僕も照れ隠ししない様努力はする」
木元の顔が男らしくて千優は赤面してコクンと頷く。五年近く木元のファンだが、こんな男の顔をする木元は初めて見た。
「……二年前かな、ユイ君は覚えてる? 僕とセックスした事」
千優はブンブン勢い良く顔を左右に振った。気を引き締めた事を忘れ、由那が覚えていようが覚えていまいがお構い無しである。
「やっぱり? あの時ユイ君、目の焦点合ってなかったもんね。終わったら気絶しちゃったし」
「前に欲求不満が高まって、頭おかしくなって、誰か知らない奴とセックスしてた事もあってさ」
と一昨日由那が言っていた事を思い出した。
それがいつの話かまでは聞いていないが、由那が発情し過ぎて朦朧とした時、偶然近くにいた人を襲ってしまったのだろう。
もしかしたら木元以外の人にも、そういう事をしたのではないかと勘繰った。
「あの時から、僕はユイ君の事好きなんだよね。まぁ初めての相手だからっていうのもあるけど」
木元の初めてを由那が……。それを聞いただけで千優は悲しくなった。
初めては木元と、と思っていた。それが出来なければ一生童貞でもいいとすら思える程好きだったのだ。
そう思っていた相手が一歩先に大人の階段を登っていた事に、驚きと悲しみが入り交じる。
「木元……」
「それからユイ君の事、知れば知る程気になっていった。あんな事があったのに、前を向いて頑張っているユイ君を尊敬してる。もし、君を助けたのがあの三人じゃなくて、僕だったら……って何度も考えた」
由那に何かがあって、それを助けたのが親衛隊の三人という事は分かる。
この入れ替わりが終わったら、友達として教えて貰えるのだろうか、千優はその一心で探りを入れないようにしていたのだ。
今は友達の由那の代わりを務めている。おかしな言動はしないようにしっかりと木元の話を聞いた。
「それで色々考えたんだけど、僕らが付き合えばいいって思うんだ。僕の相手だけして。僕がユイ君を守るよ」
木元の熱い眼差しは、それだけで木元の愛がいかほどのものか想像出来てしまう。
ずっと木元を見てきた。ずっと木元を応援してきた。だが、何も見えていなかった。何も知らなかった。
「それって……」
「うん、告白してる。僕はユイ君が好きだって……」
どう答えればいいのか検討もつかない。言われているのは千優自身だが、木元が告白している相手は由那だ。
責任を持って、由那として答えなければ……。
「ごめん……考えさせてもらっても、いいかな」
由那の好きな人が誰なのかもはっきりしていない以上、ここで答えるのは得策ではないと考えた。
せめて由那にどう答えていいか聞かなければ──。
というのは建前だった。由那の体である今なら、木元と付き合えるだなんて思ってしまった。
由那の体のままなら木元とセックスが出来ると、打算的な考えをした。
だが、その考えはすぐに打ち消す。
それに今日問題が解決したら元に戻れると聞いている、自分の欲を優先する事は出来なかった。
確定した失恋を前に、由那を演じる事も出来ずに教室に戻ったのだった。
『木元に告白された、どうしよう。返事は先延ばしにした』
すぐに由那にメールを送ったが、既読は付いたのに返事がない。
そろそろ昼休みも終わって授業が始まってしまう。
相変わらず千優の席は空席のままだ。早退か欠席か。由那の行動が分からない。
特に由那の姿でいると、自由に一人で動き回れない事が難点だ。
千優は残り二時間授業を真面目に受け、足が痛いという理由で医務室へ向かった。
今は誰もが清掃中だから襲われる事はないだろうという事で、親衛隊三人の付き添いはなしだ。
コンコンとノックをしてから医務室に入ると、中には養護教諭が一人と、ベッドが並ぶ場所に一箇所カーテンがかかったままになっているベッドがあった。
朝由那が寝ていたベッドだ。
「どうした?」
養護教諭が陰気な目を千優に向けてきた。その顔は暗く、養護教諭は向いていないと思える程だ。
「榛名君、いますか?」
「いや?もう帰ったが」
「じゃあ、あのカーテンは?」
「……違う病人だ。君には関係ない、帰りなさい」
養護教諭に冷たく言われ、苛立ちが込み上げる。
何故そこまで言われなきゃならないのか、と思うと言う事を聞かずにあのカーテンを無理にでも開けたくなった。
由那のフリをしなければならないのに、理性が働かない。
「なんか無理に俺を遠ざけようとしているみたいですね」
「バカを言うんじゃない。足の怪我は数日で治る、負担をかけないよう早く帰りなさいと言っているんだ」
不満を抱えたまま医務室を出た。
ポケットに入れていたスマホを見るが、やはり由那からは返事は来ていない。
千優は教室に戻って途中から掃除に加わり、その後HRも終えるが、メッセージを見ても既読にはならず由那がどこで何をしているのか、全くもって分からなくなった。
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