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二十三話 由那の過去③
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全てが終わった後、男は由那に写真を見せてきた。
性行為の最中の写真だ。
「これ、ばら撒かれたくなかったらまたここに来いよ」
何も言えなかった。
ただ頷くことしか出来ない。脳裏に浮かび上がった父親と母親の事を考えたら、この事は知られてはいけないと思ったのだ。
自宅に帰り、スマホを見るとウタから何件も着信が来ていた。
電話して何を話そうか考えあぐねていると、ウタから着信が来た。
「も、もしもし?」
「ユイどうしたんだよ帰ってこないで。今どこ?」
ウタの声に安堵したらまた涙が流れた。
「あ、あはは、ふ……振られちゃってさ、ごめん」
折角準備してくれたのに、折角協力してくれたのに、折角応援してくれたのに。
ただ振られただけなら良かった……。
何故こんな事に。
「そんなに好きだったんだな」
「うん」
「今は泣いて、明日になったらユイの笑顔見せてよ」
ウタの優しい声が体に染み渡る。
大事な友人。
……だからこそ、言えない。
「うん! 話聞いてくれてありがと」
由那は電話を切ると、風呂場で何度も何度も体を洗った。
洗っても精液の臭いが鼻について離れない。
気持ち悪くて吐きそうだ。
それから由那は呼び出される度に体を開いた。
男達の顔ぶれは毎回違うが、最初に由那を連れ去った男だけは毎回いて、いつも上から由那を嘲笑った。
男達は、最初は由那の男性器が見えないようにしたり、布で隠したりと、少しでも女に見えるようにしていたが、次第にそこを弄られるようになった。
体が慣れるにつれ、勃起をするようになった。
「由那ちゃん、勃ってるよ。きもちいの?」
「はぁ……んっ……気持ちいい」
「可愛い」
「……もっと、してください」
由那が気持ちいいと言うと、男達は優しく扱うようになった。
逆らえば痛い思いをさせられる。少しでも従順でいなければ。少しでも男達を喜ばせなければ。
こんな形で精通させられ、性技を覚えさせられ、心が壊れないわけがなかったのだ。
それでも何週間に一度は限界がきて、抵抗してしまう事があった。
「いやだああっ! やだっ、したくないっ」
誰にも触られないよう暴れる。
そんな時は薬を飲まされた。違法薬物だろうが、嫌悪感がなくなるのならなんでも良かった。
「あれ……あの薬をください。今日はあれがないとっ……」
涙ながらに訴えると、男は粘ついた嫌な笑みでそれを飲ませた。
ドラッグと知っていて飲んだ。そうしなければ、崩れそうになる自分を支えられなかった。
その薬は次第に由那の生活をも蝕み始めていた。
「なにがあった?」
隆が学校内だというのに由那の肩を掴んでまで声を掛けてきた。
隠している訳では無いが、由那と隆が親族という事は誰も知らない。
「何もないですよ」
笑ってみせるが、隆にはそう見えない。
心配そうな顔をして由那の顔を確認している。顔色の確認をしているようだった。
「大分痩せたろ、今日は私の部屋に来なさい」
「大丈夫だってば!!」
「大丈夫じゃないだろう!」
「……本当に大丈夫なんです。お願いします、お父さんだけには言わないで。自分でどうにかしますから」
由那は隆の静止を振り切って走った。
今日も呼び出されている、行かなければ。毎日のように行為を写真に撮られるのだ。
あんなの、もし知られてしまったら。
それでもし父親に嫌われてしまったら……。
本当の意味で、実家での居場所がなくなってしまうような、そんな気がした。
勝手に実家を出たのが悪いと責められてしまったら。
悪い考えだけが頭に浮かんた。
隆だけでなく、ナオ、ウタ、ヒイロも由那の事を心配していた。
体重を測ると5キロ減っており、元々小柄だが更に小さくなったように見えているようだ。
「ユイどうしたんだ? 最近おかしいぞ〜。言ってくれよ、力になるし」
ナオが気を使って笑いながら接してくれている。
ウタは悲しそうに眉を垂らし、ヒイロは眉間に皺を寄せて睨んでいる。
仲良くなったばかりなのに、迷惑はかけたくなかった。
「大丈夫、ありがとう」
父親にも知られたくないけれど、この三人にも知られたくない事だった。
「全然大丈夫じゃないだろ! なんだよその隈。それにそんな痩せ細っておかしいじゃねぇか」
ヒイロに胸倉を掴まれて怒鳴られる……が、不思議と怖くなかった。
開いた口の端から笑い声が洩れる。
「ははっ、普通だよ。俺はいつもこうだよ」
何故皆が変な顔をするのか分からない。
由那は自分のどこがおかしいのか分からなかった。正常に日常を過ごすように振る舞えている筈なのに、と思っていた。
だが、上手く出来ていないと知ると由那の縋る先は、由那を駄目にした男しかなかった。
「薬……あの薬ください。犯して、ねぇ、いつもみたいに……!」
「お前、そろそろ終わりだろ。ヤク漬けになったガバマンなんてよ、誰がヤりたいと思うわけ? ……最後に公園の公衆便器にしてやるよ。嬉しいだろ?」
男の言っている意味が分からなくて泣きじゃくったが、うるさいと言われ、口をタオルで縛られた。
うまく頭が働かない由那は、公衆便器に縛り付けられ、何人もの男を相手にした。
もう薬はないと言われたからか、嫌悪感が激しく襲う。
吐きたいのに、吐けない。知らない男が口の中に性を放つと、すかさず違う男が口に性器を捩じ込んだ。
薬さえあれば不快感などなくなるのに、それがない。由那は叫ぶ事も暴れる事も出来ずに、道具として扱われ、捨てられた。
これで地獄は終わったかのように見えた。
いつの間に失神していたのか、目が覚めると気持ち良いふかふか柔らかい布団の中にいた。
「──!!」
目の端に男の姿が見えた。由那は咄嗟に掛け布団を頭から掛けて震えて錯乱する。
「いやぁっ、もうしたくない!! もうしたくありません!! 犯さないでえええ、セックスしたくない! したくないです!! ごめんなさい! ごめんなさい!」
掛け布団の上から抱きしめられた。
優しくて温かい、強い腕。
その腕が緩み、俺は布団から恐る恐る出ると心配そうな、けれど悔しそうな表情をしているヒイロが目の前にいた。
ヒイロの後ろにはナオとウタもいて、由那を心配している。
「……もうしなくていいんだ」
その言葉だけで十分だった。
由那はようやく自由になれたのだと、心から安堵した。
直接的な地獄は終わったが、由那の本当の苦しみはここからだった。
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