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二十六話 由那の実家
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ナオとヒイロから由那の住所は聞けなかった。
二人とも知らなかったし、ナオが由那にメッセージを送ったのだが、由那は話を逸らして教えなかった。
クラス担任に聞いたところで、個人情報を教える筈もない。だが、医務室にいる養護教諭の柏田隆が由那の親戚だと思い出した千優は、すぐに医務室に向かった。
昼休みはあと数分で終わる。授業はサボる気満々で帰り支度までしている。
住所が分かり次第、早退するつもりだからだ。
「失礼します」
千優が医務室に入ると、柏田は露骨に嫌そうな顔をした。昨日の柏田の態度はおかしかったからすぐに分かった。
由那とグルだったのだと。
「なんだ?」
「柏田先生は俺と来須が入れ替わってた事知ってましたね?」
「何を馬鹿げた事を」
「昨日、俺は来須の姿で医務室に行った。その時先生の態度は変だった。来須の世話をする親戚の伯父とは思えない態度でしたよね」
「……由那が言ったのか?」
「いいえ、来須は何も言っていません。でも知っているものは知っているんです。教えて下さい、由那の居場所を」
説明するのも面倒で強引に納得させる。
それくらいでないと柏田には通じないだろう事を、千優は由那の過去を見て直感した。
伯父として由那を溺愛していると。
「由那は君に会うのを嫌がっている。誰が教えるか」
「俺は来須に用事があるんです。会って言わなきゃいけない」
「由那が傷付くと分かっていて、会わせられる筈がないだろう」
「絶対傷付けません! お願いです!」
千優は床に膝を着いた。そして、両手を床について土下座をする。ここまでして由那に会う必要があるのか、と問われればNOだ。
ただ、千優は我慢ならないのだ。初体験の相手にヤり逃げをされた気分のまま、退学したから全て終わるなんて事実は、受け入れ難い。
「俺、アイツに犯されたんですよ! 文句言う権利ありますよね!? あなた保護者としてどう考えてるんですか!?」
千優は「保護者として」というワードで大人が逃げられないように攻める。自分が被害者だと訴えれば無視は出来ない筈だと賭けをした。
由那に会うには嘘も方便だ。千優は必死に頭を回転させて柏田を脅迫する覚悟をした。
「お……犯された?」
「そうです。俺にはアイツに会って、謝罪を受ける権利があると思いませんか!?」
「だが、由那は君のせいで……」
「それもおかしいです。そもそも、来須がセックス依存症になったのって俺のせいじゃないですよね。
確かに俺は来須を振った、でもその後酷い目にあったのは、俺関係ないと思いますけど。
なのに俺は勝手に恨まれて、勝手に犯された。俺程来須に会う権利を持ってる人っていないと思います!」
「分かった分かった。由那に会わせてやる。甥が悪い事をした、すまない」
柏田は千優に手を差し伸べて立たせると、頭を深く下げて謝罪をした。
そこまでされると思っていなかった千優は、胸に罪悪感が込み上げた。
「あっ……でも、そこまで怒ってないっていうか。犯されたのは気にしてないけど、その後勝手に退学していったのは良くないなぁ〜って」
「早退するから、ここで待っていてくれ」
柏田は、自分の家族をネタに最低な嘘をついて早退した。千優も体調不良で早退をし、柏田の車に乗りこんだ。
「ここから車で二時間ほどだ。寝ていていいぞ」
「眠くないです」
「そうか……」
柏田の車は白い普通車だ。乗り心地は良く、寝るつもりはなかったが、眠くなってくる。
千優は柏田の横顔を見た。少し由那に似ていなくもない。
「……なんだ?」
ジロジロ見ていたせいで、柏田から不満そうな声が聞こえた。
「あ、いえ。来須っていつから退学を決めていたんですか?」
「先月だ。目的を果たした後、学校にはいられなくなるから、と早々と準備を進めていた。
それと退学じゃなくて転校だ。実家近くの公立高校に転入が決まっている」
「そうだったんだ……。目的って、嫌がらせの相手を見つける事ですか?」
「いいや。あ、そういえば。由那のやつ、君が忘れられなくなるくらい、自分の存在を脳に植え付けると言っていたな。
レイプ……そういう事だったのか。入れ替わりといい、何をしているのやら」
伯父であっても由那の事は理解出来ないようだ。
強姦は嘘だが、由那の元へ連れて行ってもらう為の脅迫なので、まだ訂正は出来ない。
「来須、流れ星に祈ったから願いが叶ったなんて言ってましたけど」
「はは、まさか。流れ星というのは宇宙を漂う砂粒程のゴミが地球の大気に突入した時に発光する科学現象だ。願ったところで何も起きない」
「デスヨネー」
「ただ、あいつは昔から魔法とか信じているところがあった」
「子供の頃は信じますよね」
子供向けのアニメを見て育てば、もしかしたら自分も出来るかもしれないと思ってもおかしくないだろう。
けれど、結局アニメと同じ事は起こらず、段々と現実を知っていく。
「それが子供らしい魔法から、黒魔術に興味が移ったと言ったらどうだ?」
「……え」
黒魔術と言われれば話は別だ。魔法と同じ様に作り話と言われればそれで済むだろうが、歴史を見ても黒魔術や白魔術といった内容の話は数多くある。
だが、それが全て嘘とは言いきれないから、半信半疑といった中途半端なものとなっている──というのが千優の見解だ。
もしかしたら……が有り得る可能性が出てきてしまうのだ。
だが、既に千優は知っている。由那が悪魔を召喚して自分の望みを叶えたと。
「考えすぎだと思うがな。さすがに由那一人で出来る事じゃないだろうし」
「デスネー」
由那一人でやった事は千優の胸の中に留めることにした。
「着いたぞ」
車は近くのコインパーキングに停めて、柏田の後について行く。閑静な住宅街だ、今の時間は子供達は学校に、大人達は仕事であろう。
主婦や老人の姿は見えず、しんとしている。
大きな住宅が多い。ここは富裕層が住む街なのだろう。
その中でも大きなタークグレーの家に『来須』と表札が掛かっている。
柏田もそこで足を止めたから、そこが由那の家なのだろう。
柏田はチャイムを鳴らすと「はーい」と女性の声で応答があった。
「柏田です。急にお尋ねしてすみませんが、由那はいますか?」
「……はい、ちょっと待ってくださいね」
二、三分程して女性は由那と共に玄関から出てきた。
困った顔をしている女性と、悲しそうな顔で柏田を見る由那。千優とは目を合わせない。
「ちょっと由那を借りていいですか?」
「え……由那君、大丈夫?」
堂々とした柏田に、オロオロと女性は柏田と由那を交互に見る。だが、由那はあっさりと千優に目を向けた。
「俺と話があるんでしょう? 準備するから待ってて。隆さんはゆっくりしていってね」
ニコニコと笑う由那の心も笑っていると、千優には思えなかった。
すぐに階段を駆け上がり、少しして駆け下りてきた。ボディバッグを背負った由那は、千優だけを連れて家から離れた。
「どこ向かってるんだ?」
「話をするのにうってつけの場所」
どんどん住宅街から離れていく。千優は何も言わずに由那について行った。
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