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二十八話 由那の好きな事
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千優と由那は手を繋いで家へ帰った。
家には母親の穂花が由那の弟、由季と子供向けの教育番組を見ており、柏田もそれを眺めていた。
「あの、柏田先生。嘘ついてすみませんでした」
まず千優が柏田に頭を下げた。由那に犯されたという嘘を謝罪したのだ。
「本当に由那は榛名に何もしてないんだな?」
「えっ、あ、いや……はい!!」
何もされていないという訳ではないので、正直な千優は一度否定しかけてから頷いた。
「隆さん、犯してはいないけど迷惑掛けたのは本当なんだ。
千優、ごめんな。俺の為にありがとう」
「いや、俺こそ。今までごめん」
「ううん……こちらこそ。これからはよろしくね」
「うん、よろしく」
千優と由那はお互い顔を赤くして照れた。
お付き合いをする事が二人にとって初めてなのだ、どういう顔をしていいか分からないというのもある。
柏田は二人が何も言わなくても、付き合いだしたのだと気付いた。
ひとまずは落ち着いたのだと、柏田は立ち上がって帰り支度を始めた。
「じゃあ榛名、そろそろ帰るぞ」
「えっ!」
「えっじゃないだろ。明日も学校あるし、親御さんにも……」
「あの、親には連絡するので、来須と出掛けてもいいですか? 帰りは一人で帰ります」
「そういう訳には……」
「お願い隆さん! 八時までには帰るから!」
頭が痛いと、柏田は額に手を当てた。
亡くなった妹の忘れ形見である由那には弱いのだ。
「分かった。但し、榛名を一人で帰すわけにはいかない。ここで待ってるから出掛けてきなさい」
千優と由那は喜んで柏田にお礼を言った。穂花と由季にも「出掛けてきます」と声をかけてから、二人で夕暮れの街へと繰り出したのだった。
「今日は来てくれてありがとね、あと色々とごめん。殺そうとしたし」
由那は優しい笑顔を千優に向けた。罪悪感で苦笑しているが。
その可愛さに千優は胸がドキンと跳ね上がった。学園アイドルをしていたのだ、格別な可愛さは分かっていたのだが、こうして付き合ってみると余計可愛く見えるのだから仕方がない。
「ううん。話を聞いてくれて良かった。ナイフを出してきた時はどうなるかと思ったけどね」
「ふふっ。でも、千優がもし浮気したら殺しちゃうかもしれないから、気を付けてね?」
優しい笑顔だった筈の由那が、殺気立っている目に変わる。そういうところはゾッとするが、それも受け入れるしかないのだ。
朝、由那のファンである吉澤が言っていた台詞が頭の隅にちらついた。
「中一の時からユイファンしてるから言うけどさ、あの子の愛って本当に重いんだよ、君に受け止められる度量があるとは思えない」
──と。
確かに千優にそんな度量はないのかもしれない。だが、受け入れられるようにならないといけないのだ。
千優の背中には脂汗が流れる。
「その、殺すとかやめよう? 怖いし」
「ん? あぁ、大丈夫。殺したら俺も死ぬし」
何が大丈夫なのか。千優は本当に由那を受け入れて良かったのか、頭を悩ませた。
一度決めた事だ。決意を改める。
「大丈夫の使い方違うからな」
「えへへ〜」
にこっとウインクをする由那、それだけで許してしまうのだから千優も甘い。
「はっつデート、はっつデート。ね、千優どこ行きたい?」
「来須は、いつもどこに行くんだ? 好きな場所とか知りたい」
「えっ……!」
由那はかーっと顔を真っ赤にさせた。
「えと、千優が行くところかなぁ」
「俺?」
「うん。許してくれる? 俺、千優が出掛けたらいつも跡つけてた」
きゃっと由那は照れているが、千優は顔を青くさせた。ストーカーをしているとは知っていたが、そこまでとは思わなかったのだ。
「えー……恥ずかしいなー、あははは。じゃあ俺の跡つけてなかったら、どこ行くのが好きなんだ?」
「……千優が好きなところは俺も好きだよ」
そう言われると青くなっていた顔が真っ赤になる。確かに愛は重いが、そこまで愛してもらえるのも悪くないとも思えた。
結局商店街まで行き、千優が好きなゲームショップへと二人で行く事にした。新作のゲームは買ってしまっているが、見ているだけでも楽しい。
今まで一人で見る事ばかりだったので、誰かと一緒というのも不思議と嬉しいものだ。
「千優が持ってるゲーム、全部知ってるよ。これと、これと、あっこれは先週買ってたやつだね」
「全部知ってるのな」
「うん。好きな人の事全部知りたいから」
「俺も一緒だよ。来須の事知りたいんだ。俺の事ばかり知ってもらってばかりじゃ不公平だろ?」
ぷーっと頬を膨らませた由那は、千優を連れてゲームショップを出た。
ズンズンと進んでいき、商店街から外れた道へと進む。
「千優、俺の事を教えられるとしたら、これしかないかなって」
由那について行き、辿り着いたのはラブホテルだった。古い建物だが、壁はピンクで可愛い城に見えなくもない。
「来須。今日は……時間もないし」
「でも、俺の事知りたいんでしょ?」
「そういう事じゃないよ。来須が好きな事を知りたいんだ」
「同じ事だよ。俺の身体全部見て、触って、知って欲しい。俺の身体で気持ち良くなってもらいたい。俺と付き合うメリットってこの身体くらいしかないでしょ?」
千優は由那を抱き締めた。自分勝手で自己中心的なのに、結局は千優をメインで考えていて、いつも千優が優先なのだ。
「もう俺は来須のものだ。メリットとかデメリットとか、そんな事考えて付き合ってないよ。
俺抜きの来須自身が好きな事とか、したい事とか、そういうのが知りたいの」
「……分からないんだ。
実家戻って、千優の事忘れようと思った。そうしたら何していいか分からなくなった。
自分が何が好きで、何をしたいのか、何も分からないんだ。でも、千優と付き合えるなら、千優が好きな事が俺の好きな事だよ。
それじゃダメなのかな?」
ぎゅっと、由那が千優の背中の服を握った。
千優はそれじゃダメだなんて言えなかった。
涙を浮かべて千優を見上げる由那が愛しく思えてキスをした。
「んっ……唇、気持ち良ぃ。スイッチ入っちゃうよぅ」
「あ、ごめん。でも、俺の好きな事と来須が好きな事は別な筈だよ。
好きな事、見つけてごらん。次に会う時までに見つけたら俺に教えて」
「うん、千優大好き」
由那からキスをされた。柔らかい唇に胸がドキドキと高鳴る。
大好きと言われた事も、嬉しさで胸がいっぱいだ。
「……由那、俺も由那が好き」
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