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最終話
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それから千優は由那と遠距離恋愛を続けた。
学校では由那ファンは解体したが、千優にも友達が増えて、由那の話題が登る事が多い。
まず仲良くなったのが吉澤で、吉澤のいるグループに入れてもらえる形となったのだ。
「惚気じゃないんだ、聞いてくれよ。由那と毎日電話するんだけど、必ず好きと殺すって言葉を聞くんだ。本当に殺されそうで怖い」
「うわぁ……」
「惚気じゃねぇかよ!」
「いいなー。ユイ君と付き合えて幸せ者だね」
吉澤と山部と川口だ。全員由那の初期からのファンである。
千優が由那の話をすると、困っているという相談内容でも惚気と捉えられてしまう。
「心を広くして付き合う事だね。真面目に君が裏切ったら殺しかねないし」
「分かってるよ、はぁ」
吉澤は由那を理解していて、自然と千優はよく相談してしまう事が増えた。
「ヤンデレ萌え」
「ユイたん……殺されたい」
ポーっとニマニマしている他二人の趣味嗜好はスルーした千優だった。
そして、彼らとは別に千優に声を掛けてくる人物がいる。ヒイロだ。
「ユイは元気か?」
「えっと、凄く元気だよ」
ヒイロも由那から連絡を閉ざされてしまった。
振った相手で、友達でい続けるのは由那が辛いそうだ。
千優が由那へ橋渡しをしようとした時、由那は……
「もう友達じゃないから。あ、あとスグもね」
の一点張りだった。千優としては無理強いはしたくないので、ヒイロに由那の近況を話すだけにしている。
唯一連絡を取り合い、たまに遊んでいるのはナオだけだった。
だが、ナオは後輩のレオ君と付き合いだした。由那は遠慮しているようで、ナオとも少しずつ疎遠になってきている。
「せめてただの友達に戻れたら良いんだけどな」
と、ヒイロが残念がった。
寂しそうな顔だ。あれだけ毎日一緒にいて、ずっと守ってきた。それが告白と共に友情もなくなってしまうとは。由那の性格を分かっているだけに、ヒイロも予想していたであろうが、離れてしまうと寂しいものだ。
「ヒイロ……なんかごめん。由那の代わりに謝る」
「いいんだ。そもそも俺が好きになったのは、榛名が好きだって追い掛けてたユイだから。告白したら関係は終わる。
そうならないよう、ずっと自分を誤魔化してたんだが、無理だった。それだけの話だ」
「そっか。ウタとはもう仲直りしたんだ?」
ヒイロは、ウタが由那にしてきた事を怒った。ウタが登校して顔を合わせた途端、殴りかかったのだ。
ウタは殴られる覚悟はしていたようだ。ナオからも頭をペチッと軽く叩かれていた。
ウタに関しては、元々の信頼度が高過ぎたのだ。裏切られた反動が大き過ぎて、好き嫌いや、許す許さないの問題ではなくなってしまった。
仮に裏切ったのが吉澤ならまだショックも大きくなかっただろうが。
「ようやく、な……。これでも幼稚園の時からの付き合いだし、悪い事したからって縁切れる程浅い関係じゃないんでな」
「それなら安心した。ウタも反省してくれたらいいよ。由那には落ち着いたら話そうと思う」
「そうしてくれ。俺も今はただのファンだ。いつかまた友達に戻れたら良いと思ってる」
そう話すヒイロは優しく微笑んでいた。
「俺も〜! 最近連絡しても話続かないの、つまらないって伝えて!
レオ君の事は気にするな、ダチだろって伝えといて」
いつの間に話に入ってきたナオが両手を合わせて千優に頼んだ。
「まぁ、由那は由那で新しい高校で忙しいみたいよ。友達も出来たみたいで、楽しいって言ってる」
「それなら仕方ないなぁ。自分の生活の方が大事だもんなぁ」
由那が残したものは大きく、毎日のように由那の話題が上がるが、それも徐々に減っていくだろう。
最近は千優のゲームオタクとしての立場が確立されてきており、ゲームの話になる事が多い。
千優も学校が楽しいと思えてきた。
家に帰ると、母親と姉に「ただいま」を言う。もちろん、「おかえり」の返事がある。
今まで帰ったらすぐに自室に閉じこもっていたが、家族の時間を大事にするようになった。
「ちーちゃん、ほら早く座って。アニメ始まる!」
「分かったよ」
母親が夜ご飯の準備をしている間、姉と千優でテレビを見て、ご飯が出来たら二人で盛り付けの手伝いとテーブルを綺麗にする。
じきに父親が帰ってきた。
四人で囲む食卓が幸せなものなのだと、千優は今更ながら実感した。
以前由那が 「普通なんてあっという間になくなる。片手で砂を掴んでいるようなものだ。失ったもの(砂)は戻らない」と言っていた。
その通りだ。幸せだと実感しても、今の幸せは砂上の楼閣だ。何かのきっかけですぐ壊れて崩れてしまう、脆いものなのだ。
千優は以前まで、砂が崩れても新しい砂を集めればいいと思っていたが、簡単な事ではないと思い直した。
それは幸せが何かを知ったからだ。
今ある幸せを大事にしようと思うようになれたのは由那のお陰だった。千優はそんな由那を幸せにしたいと考えている。
家族の団欒が終わると、自室に戻って由那に電話をする。これが一日の習慣だ。
「もしもし! 元気か?」
電話では顔が見えない為、出来るだけ声に感情を乗せて話すようになった。
由那はいつも明るい声なので、どこかに演技が入っていないか聞き逃さないようにする。それを怠ると、また一人で悩みを抱え込んでしまう場合がある。
面倒ではあるが、千優にとっては大事な事だ。
「元気だよ〜! 千優の声聞くと、もう一日が終わるんだなぁって思うよ」
「俺も。一日の最後に由那の声聞けて嬉しい」
「えへへ。俺も〜。千優との電話が待ち遠しくて一日が長いんだ。早く会いたいよ〜」
「ようやく明日だな。行きたいところとかある?」
千優と同じところならどこでも……と言いそうだと思ったが、予想は外れた。
「この前友達とカラオケ行ったんだ〜。千優とも行ってみたい!」
「うん! 行こう! 好きな事とか見つかったのか?」
「これっていうのはないけど、あっ今日演劇部に入ったんだよ。見た目だけで誘われた感じなんだけど、俺演技力ないから心配」
「いや、あるだろ」
「ないよ〜? 俺演技とかした事ない」
「……絶対嘘。まぁ、学校生活充実してるみたいで何よりだ。じゃ明日楽しみにしてるよ。おやすみ、ちゅっ」
「うんっ! おやすみ〜ちゅうぅぅっ!」
付き合いは順調だ。お互い受話器越しにキスをして電話を切るのが習慣となった。
新しい事が増えて忙しくなり、千優も楽しい事や煩わしい事が増えた。
それでも大事に毎日を享受しようと思うようになったのは、大きな後悔をしたからである。
もし三年前由那からの告白を受けていたら、もし由那の転校を知っていたら、もし悪魔召喚などさせる前に由那の身近に居れたら……考えたらキリがない。
だが、もっと周りを見て、大事な人を見つめられていたら、由那への嫌がらせも、悪魔召喚も、転校も起こらなかっただろうと、思わざるを得ない。
「由那の為に、俺……」
そう決意した千優は、もう過去を嘆いて内に閉じこもる子供ではなく、未来を切り開く力を持とうとする一人の男であった。
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