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終わったこと
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「だから、背負わないで。俺のぶんまで、背負わないでいいんだ。誰かの感情は誰かのものだ」
藍鶴色は俺を撫でながらゆっくりと言い聞かせる。
「背負う必要はない。終わったことだ。俺は俺がどうにかする、から。だから」
背負わせたくないのは、きっと、遠ざけている家族に対してもなのだろうという気がした。
学費などの関係では、どうしても身内の承認が居る。
自己管理の甘さだと責められる可能性さえある。
相手が、悪意があるとは限らない。それに、色の思い込みだとも限らないし、言われればそうなってしまうわけで。
実害が出ない限りは、誰にも対処出来ない。
だから、どこにも吐きだそうと思えなかったのだろう。そして、はっきりと突き放すことが、どうしても出来なかった。
『母、さん――!』
俺は、ぼんやりとなにかの記憶を思い出しそうになった。必死にかき消す。それは、優しさじゃない。
いつか誰かにも言われたっけ。そんなことを、相変わらずくりかえしている。
「だから、泣くな」
わかんないよ、そんなの。誰にだって事情がある。誰だって、理由がある。
どこにも居られなかった俺は、同じような寂しい人を見つけるのが得意で、いろんな心を読んで、それに合わせてきた。
会話をするのもどうにか得意になった。
癖になった。
楽しいことも沢山あるし、楽しい間はすごく楽しいから、多少のマイナスは気にしていない。
だってまた楽しいことをすればいいんだ。
だから、だけど溜め込んでしまう。自分では消化したつもりでも、どこかに小さな残骸が溜まっていたりするもの。
ぽろ、っと雫が溢れた。苦しい。
ああ、苦しいってこんな気持ちだったっけ。
俺、苦しい、よ。ずっと、悲しかったんだ。
自分のために、本当は、溜め込んでしまったんだ。だって。
「あはは。俺は、そういうとこが嫌いだよ」
額に何度も口づけて、そいつは笑った。
「他は好きだけど」
俺がぼんやりしていると、いや、違うな……と聞こえる。
「そこが、いいところなのかな。でも、自分のことは、あまり人のせいにしない方がいいし、他人のことは他人のせいだ、そうだろう?」
「そ、う、だけど」
もごもごと、口をどう動かしたものか考えていると、色は言った。
「わかんないなら、
俺、こういう人間だからその気持ちがよくわかんないんですけどって、そのまま言えばいい。
あまり耳を塞ぐと、逆に心に残るじゃないか。
対立したら、自分の主張にうまく持っていけばいいし、わかりあえないなら、そういう考えもあるねとまとめればいい」
「それさえ、だめなら……」
「ん?」
ぐりぐり、と胸板に頭を押し付けてきて、そいつは微笑んだ。
「甘えろ」
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