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耳鳴り
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「その子が、耳鳴りがするっていうと、いっつも地震が起こるの。占いをしてるんだけどね?」
「それは動物でも人間でもあることですよ。占いで決めているわけじゃありません。気圧とか、地球が出している微弱な磁力、そういうのの、些細な変化を感じられると言われていますね」
「えー、そうなの? 確かに、ドジョウとか犬とか、占いしてるわけじゃないわね。もー、ブレスレット買おうかと思っちゃった!」
「占いは学問ですから……」
「なぁんだー、そっかー。つまんないのー! 安食さんって詳しいのね」
――うわ……めっちゃくちゃ居心地悪ぃ。だから占い師って苦手なんだよ。
他人のことあれこれ分析してインテリ気取るから。
――インテリか知らないけど、わかる。既に帰りたい。
――ちょっと眠くなってきたな……。
夜の式場(ホール側)は、もはや宴会場と化していた。
テーブルのセッティングは同じはずなのに、酒とつまみとオヤジとオバチャンが増えるだけで、こんなに様変わりするのか。なんだか悲しくなってくる。
あぁ、冒頭の会話はオバチャンたちだ。こっちもこっちで、ちょっと嫌な感じ。出入り口付近の席は主に彼女たち、反対の、ステージ側にオヤジたちが群れを成している。
「なんか、前の事件のこと、言いがかりだーとかって言ってますけど、どうも、それだと納得いかない部分があるんですよ。今のこれも、どう思います? 」
「あー。いつものですよ。先に上乗せして、全部没案に持ってく手口。いっつもそれで対立を起こしてはしばらく勝手に喚きますから。人が命懸けでやってることをなんだと思っているんでしょうかねぇ?」
「本音を言うと、いちいち付き合ってられないんですけど、家にまで回り込んできます。なんか、しわしわのじじばばが、新聞片手に家の前立っとんですよ。あれは怖いですよ連中。平気でポスティングまでしおる」
「それ、違反で訴えたら良いんじゃないですの?」
「恥なんか、奴らにあったら、やっていけるわけないない! それくらいやりますよ。近所にまで出てきますからね」
「まぁ、一杯どうぞ」
「どうもどうも……」
「どうしてそんなにまでして、対立が好きなんだろうか?」
――なんの話だろう?
――さぁ……
.
「あ、麻美さん! 麻美さん! 今度ね、ドラマがやるそうよ。青木さんの。ベールに包まれた“公安警察”ドラマ。『没入して、没頭して、夢中になって観てほしい』ですって」
安食さんたちはいつの間にかドラマの話をしている。
「なんの話ですか?」
橋引がオバチャンたちの中に入って普通に聞きに行く。
少しして戻ってきた彼女とともに、一旦ホールの外側に出た。
「なんか、超能力の人権協会側が一部のメディアとかのあり方が人権の搾取だって言って聞き取りしてるみたいで、それが嫌な、ゆう子さんたちの側が反発してるって感じ」
「嫌がらせはそのためか」
「うん……前に、全盲の透視? 遠視? 能力者が、能力を切り売りされた事件、あったでしょ?」
「処分した記事、確かに、そういうのもあったな」
色が静かに思い出す。
俺は外回りが多くてよくわからないけど、二人が言うならあったのだろう。
「目が見えない代わりに、能力で補って生活してた人が居たんだよ。
それを、儲けになるからっていって目を付けた人が居て、ゆう子さんみたいに。それで重点的に、化け物って叩いて、それでいて、そういう能力系の小説とか漫画とかが、流行った」
「ひでぇ話だな、結局それはどうしたんだ?」
「確か能力が使えない、使うとメディアに囲まれるからって、
なるべくやらないようにして、でも周囲の物が見えなくて、生活に支障が出て、それで裁判を起こしたんだけど、相手側は『言いがかりだ』の一点張りだった」
目に浮かぶ。やつらは、『目で見たものしか信じない!』 が口癖だから、平行線となったのだろう。果てには、証明してみろだの言いだして、公開処刑で火あぶりにする。
「そう、結局、『目に見えないから』『証拠が無い』って、向こうが有利になった。 そもそもそうなるときに裁ける法律が無いからって、俺たちは争わないように過ごして来たんだ……それを……」
『いつもの』『先に上乗せして、全部没案に持ってく手口』
『対立を起こしてはしばらく勝手に喚く』
命懸けでやってることをなんだと思っているのか。
此処に集まっているのは能力者関係が多く、無視できない議題だった。
「いや、そもそも、没って、人をなんだと思ってるんだよ。他人の命を強引に弄んでるなんて、俺たちの心を……」
こんなの法律で通すとかってやってるんだろ?
確かに、人権協会の問題になるだろう。
だけど、わからない。そもそもの、人権ってなんだ?
「あ。あのテーブル、美味しそうなチキンとかある。また頼んだのかな」
俺がやや苛立っている横で、色は呑気につまみを眺める。
「うわー。どっかにピザない? 遠くから見る限り、カタログが散らばってるけど、まだ来てないわね」
橋引もはしゃいでいる。
おいおい……
掴んだ色の指先から、陰険な事件とは全く関係ない心が伝わってくる。
――自由に何か、思って良いなんて、視界に映して良いなんて、幸せ!
不謹慎なのはわかるけど、
事件でもなければ、こんなに自由に、行動出来ない! えへへ。
「……しょうがないやつらだ」
橋引と二人、あちこち見渡している色を見ながら、なんとなく息を吐く。
(2022年2月12日9時59分) ー2022年2月15日20時43分
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