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ピザと…
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さみしい。
いたい。
こわい。
さみしい。いたい。こわい。目が回る。じっとしていたら、見えない空気の圧力に押し潰されそうだ。あらゆる言葉が皮膚を突き刺すようだ。目眩がする。
胸が、ずきずきする。張り裂けそうだ。
痛くて、痛くて、痛みで、胃の奥まで震える。こんなに、心が痛いと、いつか立って居られなくなるんじゃないかとよく思いそうになる。
ううん。
いっそこのまま眠って、そのまま目が覚めなければ良いのに。
そしたら、もう、こんな想いをすることも無いんだ。
心が、渇くのは、空腹に似ている。けれど、なにを食べても全て埋ることはない。
あらゆる刺激が、突き刺すように向かって来る。それを受け止めるだけの感覚が、俺にまだ残っているうちだけが、
「────」
(……いや、余計なことを考えても
考えなくても、同じか)
ぼんやりとした感覚──産まれて20年くらいは付き合っている感覚に身を委ねたまま、会場から外に出る。
頭の奥で、叫んでいる自分の声がする。
暴れて、暴れても、収まりはしない。
なにを叫んでも意味などない。
俺の心は、俺が失くした。
心という名を付けず、未来と決め付けて、
世界に投げ捨てた。
(しかし、はっしー、なかなか戻って来ないな。
無用心だった。夜だし、酔っぱらいが多いっていうのに……)
夜中の真っ暗な会場。
人気のない、冷めた廊下を歩きつつ、辺りを確認する。
どこかから、バイクのエンジン音がした。
カタタタタ、カタタタタ、カタタタタ、と独特なリズムを刻んでいる。
バイク趣味が無いから、音だけで車種を当てられないが、もしかしたらこれは。
「──ピザ」
廊下を歩き、最初に此処に入ってきた出入口を目指す。
あのときも、ピザが見えた、気がする。
時間、日付、土地、全てが見えることはかなり稀で、断片的なものだったけれど、
「いーろちゃん」
後ろから声をかけられ、思わず肘を張りながら振り向く。
「あ。界瀬」
笑顔のまま何事もなく肘をかわした角度から抱きついてきた彼を眺める。
「全く、お前まで見えなくなるから、びっくりした」
なにも言わず、頬を横に引っ張る。
ぐにー、とそこそこ伸びた。
「いひゃひゃひゃ……な、なに、なに」
「…………」
こういう感情はなんて言うんだっけ。
腹が立って、ムカムカする。
なんでなんだろう。わからない。
「そういえば、また置き去りにしてたな。悪かった」
「ならなんで引っ張るの……」
指を放すと、頬を軽く押さえながら、界瀬は大袈裟に眉を寄せた。
「わからない」
わからないって、と何か言おうとした彼に、耳を傾けかけたときだった。
──外から、内側に足音が近付いて来る。
誰か入って来るのを感じて急いで、ほぼ到着していた出入口の方に向かうと、エントランス付近の柱の裏に回った。
.
ピザ屋の制服の男がドアを開けて中に入ってくる音を感じる。
遠くからそっと観察しているものの、見つかったら代わりに払わされそうでちょっとびくびくする。
配達が電話でもかけたのだろう。しばらくして、さっき歩いてきた廊下から、ピザの受け取りの為か、三人か四人程の男性が話しながらエントランスに歩いてくるのが見えた。
酔って気が大きくなっているのだろう。赤ら顔のまま、大声で話している。
「公務の車をバンバン使って、自衛隊の特別機やらバンバン使っているでしょ」
「世論から、バッシングを受けるとしたら、ここが、1番問題視されますなぁ」
「秋弥君でしたっけ」
「あぁ、そんな名前だったかもしれん」
「公の乗り物、飛行機が使用されたというという主犯格!元上司の指示によるもので、わたくし達には、一切、関係ありませんて、通じるかな」
「無茶だろ、だってあれ、浪花、浪花、神戸、なんだっけ、リスト回されてると思いますよ」
「奴の仕業だと証明するには、どうしたらいいか。元上司の権力は、市内、頑張っても、茨城県内でしか発揮できないでしょ。ここを、狙うんですわ
」
秋弥……か。
なんとなく界瀬の方を見上げる。
「んー?」
わかってるのか居ないのか、笑顔を張り付けたままこっちを見つめていた。
「…………」
「俺も好きだよ。愛してる」
「…………」
やっと、わかった。
心が満たされている人を見るのは、苦しいんだ。
少し離れておくことにした。
20224月5日10:45――2022年4月7日4時05分加筆
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