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ジンと陽炎
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14年程前。
ネットが普及し始めたのに合わせて、超能力者の誘拐が流行るようになった。
ネットの普及、はただ単に、市民にも情報を獲得する場が拓けただけではない。実際、表に出せない情報もあちこちで探しやすくなっていた。
──本物の心霊写真だとか。
──特別な、日記だとか。
探している人が、居たのだ。
最初、本来は表に出しづらいはずのそれらは面白半分で持て囃されるテーマとなった。
昔、占い・超能力ブームの火付け役だったバラエティー番組でも、ある人を指して「ブログに書かれた人が災難に見舞われる」と、ネタにしたり、ブログの持つ特性──個人が反映される意味について弄っているし、「書かれた人が死ぬ」というようなテーマの漫画、映画も流行っていた。
その裏で、
誘拐が流行った。
詳しくは、ネットで知り合った、恐らくは『ある特徴』を持つ人たち、またはそう疑われた人が誘拐あるいは殺害された──そう、当時報道されている。
報道より数ヶ月ほど前から、ブログサイトが海外のサイバーテロ組織の大量アクセスを受ける、などが相次いでも居た。
報道はカムフラージュで、実際には宗教的、組織的な犯行が背景にあったのではないかとも噂されている。ただし、これは、外交上の理由から公にはされていない。
幸い俺は誘拐自体はされなかったけれど、
それでも、紙を破り捨てられ続けた。
『彼ら』『彼女ら』が、個人の持つ情報を
未来と名付けて、あるいは、能力と名付けて、リアルだろうがネットだろうが、目を光らせて居たのだと、思う。
「そう────あれは──本来ならば、無法者が使ってはならないものでした……色様の力と同じ、繰り返せば歯止めが効かず永遠に広がり続ける」
「被害者を──増やすだけなのにな……俺のせいで、みんな、死んでく……なのにまだ、コピーばかり作ってさ」
コピーは所詮、コピーでしか無いんだ。
生きるふりしか出来ない、些末な存在。どんなにプライドを持とうと、あっけなく折れてしまう。
「彼らが一時の欲望の為だけに、それに手を出した……それがいけないのです」
「そう──だとしても、やっぱり、俺は──、いや、なんでもない」
薦められた酒、を、さすがに断る。
業務に支障を来すから我慢だ。
代わりに、並んでいた酢の物とか、さきいかとか、クラッカーとかを食べた。
猪口を煽りながら、りくさんは上機嫌でいる。
(8月4日(木)AM4:52)
「彼らは、理想の妹を、探していたのでしょう。女性が多かったような気がします。 殺された何人か、『うち』にも、来たことがありましたよ。突然、未来をみてしまった、ですっけ……」
いつもそうだったような気がする。
俺が、殺されなかった代わりに、俺の代わりになった人が死んだ。
代わりに、視てしまったそれを、■■■■は、何人も、殺した。
それでも、彼らはそれに拘って頑なに返したがらなかった。
頑なに、それを持ち続けた。そして、何回でも何回でも自滅した。
何回でも何回でも、敵の居ない空中に向かって、あるいは、市民だらけの街中に向かって、銃が乱射された。犯人は誰だ、と叫び続けた。
「あのブログの件を調べたときは驚いた。―――ずっとずっと、何が起きるか分からないから、何も書くな、と言われてきたのに。まさか俺から盗み出したそれをレモンの代わりに転売していたなんてな」
その狂気は、結局のところ、裏側から『尊師』や『指導者』に留めを刺したものと同じ、あるいは真逆のものなのだと思う。
正気とは思えない判断を下すようになるときの一説に語られている、精神異常か、何らかの干渉によるものかを、証明する手段などはどこにもないけれど、少なくとも、 『あの人』にしても、俺からそれを取り上げることに、異常なほど『憑りつかれて』いた。
その異常さが、ただ指示に従っているだけとは思えなかったことは事実だ。
かつて、カルト宗教が世の中に蔓延った頃の、修行者のあの目と、どこか似ている。
人間が抗う術など無く、だからこそ、のめり込むほどに身を滅ぼしてしまう。札束でも手にしたように、目をギラギラさせて髪を振り乱し、「こんなことはやめて」と言ったあの人。
――――どうしようもないほど大規模な殺人事件でも起こらないと、彼らの暴走は止まらないのかもしれないと、半ば本気で考えている。
「ほんとは、未来と言うより、「俺の心」なんだけどね」
別に内緒にしなくてもい気もするが、喧騒に紛れる程密やかに呟く。
彼は聞き取れないようだった。
何もかも未来だと言うのなら、俺の心は、現在の思考は何処にあるというのか。何回も馬鹿にしたそれを改めて思う。
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