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忘れさせない。
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「 はー…ただいま…… 」
帰ってくることの無い返事を期待して、今日もただいまを言うけれど。
それにレスしてくれる人は、いなかった。
そして、テーブルに置かれた使い回しの置き手紙と1万円。
『 2人とも仕事です。お夕飯適当に済ませてください 』
とだけ、書かれている。
「 適当にって、どうすりゃいいんだよ…ったく 」
アクセサリーで飾り立てられた腕で、頭を掻く。
母と父は2人とも職場結婚で、毎日夜遅くまで仕事が忙しい。
一人っ子の俺が、1番寂しい時間だ。
「 …あ、そうだ、二星先輩に聞いた、佐々木先輩の電話番号…合ってんのか確かめてみよ 」
俺と二星先輩は同じ放送局で、ホラーゲーム紹介のコーナーを2人で担っている。
よく話す先輩と後輩。そんな関係だった。
そして、二星先輩の口からよく出てくる、佐々木 良介という人物。
話す口ぶりからして、きっと二星先輩は佐々木先輩のことが好きなのであろう。
だけど。
話を聞くうちに、俺の方が好きになってしまって。
電話番号を聞いたのは一週間くらい前、直接会ったのはついさっきのこと。
…思ってたよりずっとかわいくて、
かっこよくて、雰囲気あって…ついキスしちゃったけど…嫌われ、て、ない…よな……?
佐々木先輩の前ではあんなにガンガン攻めてんのに。不安になっちゃう俺が、しおらしかった。
二星先輩から教えてもらった電番を打ち込む。
電話の向こうから聞こえてきた、低音の
『 …もしもし 』という声に、安心を覚える。
「 あ!番号合ってましたか!清川でs 」
ツー、ツー、ツー。
やばい。切られた。あああ絶対に怒ってる。
すぐにかけ直す。謝らなきゃ。
「 なんで切るんですか! 」
『 …清川だからだ 』
…そんなに俺嫌われてんのか…。
ちょっと趣向を変えてからかってみよ。
『 えぇー?俺のこと考えてたくせに 』
もっと怒るだろうか。
一瞬、後悔するけど。
『 …っ!!なんで、知って、 』
え。本当に、俺のこと考えてたんだ。
「 あれ、当たりでした?適当こいてたんですけど
」
かわいい。そう思って、つい笑みがこぼれてしまう。
『 …電話切るぞ 』
あ、やば。ほんとに切られるやつ。
…はぁ。会いたいなぁ。
そんな気持ちからか、つい。口が滑る。
「 怒らないでくださいよ先輩。ね、先輩今から俺の家来ませんか 」
寂しくて。先輩の声を聴くだけじゃ、飽き足らなくて。
『 は…? 』
部屋の時計が指していた時間は、19時10分。
「 まぁもう19時過ぎですけど 」
『 …分かってんなら答えも分かってるだろ、行かない。俺はお前と違って真面目なんでな。
要件はそれだけか?切んぞ 』
今度こそ本当に、切られてしまう。
寂しい。寂しいんです。先輩__。
『 待ってくださいよ、先輩。俺今家に1人なんすよ… 』
だからなんだ、と先輩が言った。
「 ……言わせますかフツー。…寂しいんですよ 」
寂しい。ただそれだけだった。不純な動機なんて、一切ない……はず。
『 …………っ…はぁ…子犬かお前は………… 』
「 道端に捨てられてる可哀想な子犬なんで俺の家来てください。待ってますから 」
少しおちゃらけて、通話を切った。
来てくれる、よね。
先輩が来たら__まず、謝るんだ。
けっこう怒ってるみたいだし。
幸いなことに、母さんも父さんも24時を超えた頃に帰ってくる。
有名アクセサリーブランドの社長の父さんとと、敏腕秘書でありデザイナーの母さん。
俺の付けてる指輪とかは、だいたい父さんが作って、母さんがデザインした一点物だ。
ほとんど顔を合わせなくても__
このアクセを付けてると、二人といつも1緒なんだと思って安心する。
でも。
アクセサリーなんて、所詮冷たい金属で。
アクセサリーが人肌をくれたことなんて一度もなかった。
だから。寂しさを誰かで埋めたいんだ。
「寂しい」だなんて感情、先輩が知ったら笑うだろうか。
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