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「おいっ。貴雄。お父様のお帰りだぞー」
怒鳴り声が聞こえ、俺は体をびくりと震わせた。
「やばい。親父だ。何で、こんな早くっ」
「おい、貴雄。てめえ、一家の大黒柱を出迎えもしないつもりか?誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ」
階下からの声に俺は泣き出しそうになった。
「ごめん。俺ちょっと行ってくる。正臣はここから出ないで」
俺は急いで部屋を飛び出し、玄関に向かった。
「お帰り。父さん。いつもより随分早いから驚いた」
「けっ、森崎の野郎が飲みすぎだから帰れってうるさくてな。二、三発部下を殴ったくらいであいつも大げさなんだよ」
父さん、社員の人にまで手を上げたんだ。
自分の顔が青ざめていくのが分かった。
「あ?なんだその目は。お前も俺のやり方に文句があんのか?」
「そんなこと言ってな」
父は俺を突き飛ばすと、蹲る俺に容赦なく拳を振るった。
「てめえ、ふざけんな。誰のおかげでこんな立派な家に住んでいられると思ってんだ」
俺は自分の頭を両手で庇った。
腹や腰に父の拳がめり込む。
ふいに暴力がやみ、顔を上げると、そこには無表情で父の手首を握る正臣がいた。
「てめえ、誰だ。警察呼んでやるからな。大人しく」
正臣が父を押すと、父の体は玄関の扉にぶつかり大きな音を立てた。
「父さん」
俺が慌てて尻餅をつく父に駆け寄ると、大きないびきが聞こえた。
ショワショワと音がし、アンモニアの饐えた匂いが辺りに充満する。
俺は恥ずかしくて、顔を上げることができなかった。
「正臣。悪いけど今日は帰ってくれる?」
「でも、一人じゃ」
「いいから、帰って。俺はこういうの慣れてるから」
正臣はコートを持ってくると、俺を見て眉を寄せた。
「また殴られそうになったら、何時でもいい。連絡しろ」
「ありがとう」
俺はそれだけ言うのがやっとだった。
正臣が帰るというのに立ち上がって見送ることさえもできない。
家庭内の恥部を知られ、泣き出しそうな心境だった。
玄関の扉の閉まる音が聞こえる。
さっきまで幸福の絶頂にいたはずなのに。
そんなことをぼんやりと思いながら、濡れた父のスーツを俺は脱がし始めた。
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