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ようやく俺が泣き止むと、二人でマットに座った。
人前でこんなに泣いたのは子供の頃以来で、気恥ずかしい。
「前のこめかみの傷……あれも親父さん?」
正臣に聞かれて、俺は黙って頷いた。
「いつも殴ってくるわけじゃないよ。お酒飲んだ時だけ」
慌てて俺が言うと、正臣は憤怒の表情で口を開けたが、結局何も言わず、むっつりと黙り込んでしまう。
「正臣?」
気を悪くさせたかと俺が顔を覗き込むと、ふいに抱きしめられた。
「許せねえ」
そう呟いた正臣の声はとても冷たくて、俺は黙って正臣の背中にしがみつくことしかできなかった。
正臣にはもしまた父親に殴られたら、絶対に自分に言うことを約束させられた。
しかし俺は家庭内のごたごたに正臣を巻き込みたくなかった。
痣ができるほど殴られるのは稀だし、親に少し小突かれる程度ならどこの家でも起こることだ。いちいち正臣に言うのは気が引け、ばれない限りは黙っておこうと思った。
ある日長い廊下の先を歩く、正臣と本条を見かけた。
二人ともクラスでは普通に仲が良いが、人気者の二人が誰にも囲まれていないところを見るのは珍しかった。
俺が駆け寄ろうとすると、正臣が本条の胸倉をつかみ、壁に押し付けた。
俺は驚きのあまりその場から動けず、固まってしまった。
正臣が本条に何か言い、足早にその場を去る。
正臣の姿が見えなくなった瞬間、俺は金縛りが解けたように本条に走り寄った。
「どうしたんだよ」
床に座りこむ本条に手を貸し、立たせた。
「あっ、見てた?」
本条はははっと笑うと、自分の制服の汚れを手で払う。
「あいつ、そうとうやばいよ。ちょっと揶揄ったら殴りかかってくんだもん」
「小糸はそんな簡単に、暴力をふるうような奴じゃないと思うけど」
「まじだって。なに?貴雄、俺より、あいつの味方すんの?」
冷めた目で見られ、言葉に詰まる。
「そういうわけじゃないけど」
はあと息を吐いて本条が伸びをした。
「ああいう一見爽やかそうな奴こそ、怖ーい裏の顔をもってたりするんだって。貴雄もあいつのことあんまり信用しすぎない方がいいんじゃない?」
本条にそう言われ、俺はムッとしたが言い返すことはしなかった。
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