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1章『少年の見る景色』【side キルシェ】―ep.2―「うっとうしい蔓」
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キルシェはまず、傍らに立つ同い年の男を見やった。
「蔓」のRanke(ランケ)。
彼は言わずと知れたジュニア団員トップで、このメンバーと肩を並べても何もおかしくないどころか、「次期エース」という言葉が似合うキラキラとしたフレッシュさがある。
…ただ、素の彼はあまりに元気が良すぎるというか、はっきり言ってしまえば度の過ぎたウザキャラで、誰かれかまわずとにかく鬱陶しい絡み方をしてくるからかなわない。
そんな性格が功を奏して面白い役ばかりが回ってきた結果、「個性派」の肩書きを得て注目を浴び、ジュニアトップまで駆け上がっていったのだった。
存在自体が冗談みたいな男だが、憎たらしいのは実はよく見るとルックスが滅茶苦茶良いということなのだ。
座長に言わせれば「黙っていれば劇団の歴史の中でも一番の男前かもしれない」。しかし彼が黙る時は死ぬ時だろうという付け足しの一言も忘れなかった。
勿体ないと取るべきか魅力と取るべきかはキルシェにはわからないが、そんな点も彼が一筋縄ではいかないと言われる所以だろうと思う。
それにしてもランケの絡み方は本当に鬱陶しい。
所構わずベタベタくっついてくるわ、変なちょっかいを出してくるうえ怒ると喜ぶわ、小学生みたいなしょうもないイタズラを毎日のように思いついては試してくるわと、とにかく相手をするのが非常に疲れる。
この前はシャワーを浴びて脱衣所に戻ったら、キルシェの下着が真っ赤なふんどしにすり替えられていた。
怒ってバスタオルを巻いたまま稽古場に乗り込み、ケタケタ笑いながら逃げるランケを追いかけて走り回っていたら、ちょうどそこへ先輩達がやってきて二人でしこたま叱られた。
そんな調子でいつも迷惑を被っているキルシェだが、本気で拒絶したり嫌いになったりできないというのも自分でよくわかっているので、ランケに関してはもう諦めている部分が大きかった。
イタズラが成功した時の楽しそうな笑顔や、小さな子供のように甘えてくる仕草を見ていると、どうしても温かい気持ちになって自然と笑みがこぼれてしまう。
初めて入った劇団で、毎日すごい緊張感の中でも楽しくやってこられたのは、他でもなくランケのおかげだ。
同じ日に入団した同い年の彼がいつも傍にいてくだらないちょっかいをかけてきてくれるから、今日もこうして笑っていられるのだろう。
先程から自分をしつこく海に落とそうとしてくる彼を軽くあしらいながら、何だかんだ楽しい夏休みになりそうだなとキルシェは胸を踊らせていた。
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