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君、還る場所 26
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*****
土曜日。
蒼大は学校が休みの日は開店から夕方の6時までのシフトでバイトをしている。
ヨウ君がうちに来てから10日程経ち、留守番もいくらか安心してさせられるようになっていた。
昼間は、散歩に出たりして過ごしているようだ。
シャツが泥だらけになっている日もあるから、きっと野山を駆け回っているのかもしれない。
野生動物は、外が好きなのだろう。
やっぱり、早く自然に返してあげた方がいいんだよな……。
でも、着物がクリーニングから戻って来たらと約束している。
そのクリーニングが出来ていない。
せめて、綺麗にはならなくても汚れを落とした着物を持たせて返してあげたい。
いつの間にか、蒼大はそう思うようになっていた。
*****
バイトが終わり、帰路につく。
歩道橋で大きな荷物を下げて、よろよろと階段を上る、小柄なおばあさんと出くわした。
蒼大はちょうど反対側から渡り、階段を下っていた。
すれ違って、ふと振り向く。
その人は、いくつもの紙袋を持ち、途中途中休みながら階段を上っていた。
大きな環線道路に掛かるこの歩道橋は、最寄り駅に向かう人が利用する。
人通りはけっこうあるのに、行きかう人は階段の隅で休むおばあさんには目もくれない。
…………。
自分もここで知らない顔で通り過ぎるのは、なんだか許せなかった。
蒼大は、下りてきた階段をまた駆け上がる。
「あの!荷物持ちますよ」
手摺に寄りかかるようにして休んでいるおばあさんに、声をかける。
おばあさんは、一瞬驚いた顔をして、軟らかく微笑んだ。
「まぁ、申し訳ないわ。でも、お言葉に甘えていいかしら?お心遣いありがとう」
とても上品な口調だった。
蒼大が預かった紙袋は、重く、しかもかさ張って、小柄のおばあさんには、さぞ扱いにくかっただろう。
「どうもありがとう。助かりましたよ」
歩道橋を渡りきり、おばあさんが礼を言う。
けど……。
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