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君、還る場所 56
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外へ出ると、鼻を突く焼ける臭いは、むせ返りそうなほど強烈だった。
アパートの前の道をまっすぐに進み、大通りへ出るとたくさんの野次馬が目の前を走って行く。
蒼大も同じ方向へ向かった。
その先は、この辺では珍しい、ちょっとおしゃれな高級マンションだった。
警察の『立ち入り禁止』の黄色いテープが張られた外側に、すごい数の人だかりができている。
蒼大は少し下がった位置から燃え盛る炎を眺めていた。
微かな風は熱風となり上昇し、火の粉を高く舞い上げる。
でも、この様子なら周辺への被害はそうなさそうだ。
ふと向けた視線の先で、女の人が警官数人と揉み合い暴れている。
取り乱し、必死に何かを訴えていた。
「中にまだ子供が居るらしいよ」
「可愛そうに…」
蒼大の周りの野次馬の中からそんな声が聞こえた。
…この様子じゃ、助からないかもしれないな……。
気の毒に思いながら、泣き叫ぶ女を見る。
彼女の横顔を見て、蒼大は驚いた。
…あの人だ!
いつだか、ヨウ君に石を投げつけた子供と一緒に居た母親!
あの時の、ツンと取り澄ました雰囲気など微塵もない。
髪を振り乱し、子供の名前を叫びながら、ただ哀れに泣き崩れていた。
…じゃぁ、燃え盛る炎の中に取り残されたのはあの子なのか……?
悪ガキだったけど、賢そうな顔をした男の子だった。
ただでさえ可愛そうで堪らないのに、それが良い事ではなかったにしろ、言葉を交わした事がある子だと思うと胸が締め付けられ苦しくなった。
いてもたっても居られなくなって、蒼大は人込みを掻き分け前へと前へと進む。
黄色いテープを潜り、揉み合う人達の横をすり抜け、建物へ向かって全速力で駆け出した。
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