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君、還る場所 60
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「坊は…坊は、元々は人間に福をもたらす童子だった。 屋敷に憑き、そこへ富と繁栄をもたらす」
え……?
「それって、もしかして…座敷童子……?」
「そうだな、人間はそう呼ぶ」
「でも、座敷童子って子供だろう?」
蒼大も詳しくはないけれど、一般的に座敷童子は小さい子供の姿をしているのだという事くらいは知っている。
ヨウ君は、どう見ても20代から30代の青年だ。
座敷童子のイメージとは程遠い。
「…坊は、もぅ見た目も変わり果ててしまったがな……。それに、富や繁栄をもたらす妖力は、もぅ備わっておらぬようだ」
「…………」
…それって、どういうこと?
「あれは…坊は、自身が担うものの認識が甘すぎた」
アマメが目を閉じ、静かに語る。
「―――我(ワレ)がある村を訪れた際、坊は大きなお屋敷の軒先で退屈そうに膝を抱えて雨空を見上げていた。我を見つけた坊は、それは嬉しそうに笑った。それからしばらく、我はそこへ滞在し、その後、その場を去った。ところが…だ。ふと気が付くと、坊が付いて来ておった。聞くと、屋敷の主人が子供の頃はよく一緒に遊んでいたが、家督を継ぎ、大人になるにつれ、相手にしてもらえなくなった。存在すら気が付いてもらえなくなり、つまらないのだと言った。 我はすぐに坊を連れ、屋敷に戻った…。けれど……我らの一時は、人間にとっては一時に値せぬ。 童子が去った屋敷は落ちぶれ、荒れ果てた。 そして、あろうことか坊が戻ったその時に炎に包まれておった。坊は、我に懇願した。『雨をもたらせ』…と。 そして、焼け落ちる屋敷の中で床に臥せて逃げ遅れた主人の元へ助けに向かった。ちょうど先ほどのように、炎の中へ……」
「……じゃぁ、ヨウ君の体にある火傷の痕って………」
「痕が……あるのか?」
蒼大の呟きに、アマメが問う。
「火傷だけじゃないよ……。体中…痛々しい傷だらけだ」
すべて、人間によって付けられた傷痕。
「そうか…。坊は、我が身の傷を完全に治癒する力すら…もう持たぬのか……」
え……?
「その件以来、坊は屋敷に憑くのをやめた。そして人に憑き、低俗な者共の様に成り下がってしまった…。その結果がどうだ、人間の邪気にあてられ、姿を童子に留めることも出来ず、人間どもに傷付けられても治癒すら出来ぬとは…あわれ、妖怪でいて妖怪に非ず……」
突然、人々の歓声が上がる。
火の消えた焼け跡から、ひょろりと背の高い人影が現れ、ゆっくりとこちらへ向かって歩いて来る。
その人は、腕にしっかりと子供を抱えていた。
「ヨウ君!ヨウ君!!」
それは、紛れもなく少年を抱き抱えたヨウ君の姿だった。
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