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艮くんの受難。
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***
渡辺は所謂優男だ。
「そうかなあ。これでも剣道有段者だよ?」
栗毛の髪がサラサラで、はにかんで出来るえくぼがやや幼くて、女みたいにまつ毛の長い渡辺はそれでも身長があるからか女にモテにモテ、朝から呼び出しが絶えない。しかも残念なことに断り方が優しいので勘違い女は増えるばかりだ。
「剣術なら艮くんにも負けないと思うなあ」
渡辺は人気者だ。男女問わず人好きされる性格なので周りに絶えず人がいる。
「…聞いてる?」
そんな渡辺だが昼になると必ずと言っていいほど人を撒く。あの手この手でひとりになっては屋上へと足を運ぶのだ。だから本当は渡辺に会いたいなら昼に屋上へ来たら良い。
非常に迷惑だが。
「…渡辺」
「なに?」
「てめえさあ、」
「ん?」
「顔が近けえ、離れろ」
グギッと相手の首が折れるほど押しのけた。
「イタッ!ちょっと、暴力反対!」
「暴力だあ?てめえのが酷ェだろ!」
「え?なにが?」
「毎回毎回、何かと噛みつきやがって。」
「あれは…何か堪らなくなって…?」
「ふざけんな!」
痛めた首に追い打ちをかけるようグーで横面を殴る。
「痛い痛い!でもさ、艮くんも悪いよね?」
「はあ!?」
「こんな匂いさせてさ」
渡辺が殴った拳を握って関節に軽く歯を当てる。歯を当てたまま上目遣いで見上げられてゾクンと背中が粟立った。身体が動かない。
「ダメだよ。退治屋てさあ、僕だけじゃないんだから」
鼻先三寸の場所で渡辺は余すことなく拳を舐め上げてゆく。指の間を這わせた舌先で爪をなぞって咥えて。赤い舌が蛇みたいだ。丸呑みされたら粟立った背中にまたゾクゾクと何か駆け上がって、正直目も当てられない。
「…ッ、」
「…そんな顔しちゃダメだよ…」
渡辺だっていつもの優男ぶりとは随分かけ離れた顔をしてる。
渡辺が言うには俺は鬼らしい。
「純血てわけじゃないから、きっと家系にそうゆう人がいるんだね」
「信じ…、」
「なくても良いよ?別に」
にっこり笑う渡辺。渡辺が嘘をついてるとは言わない。だがある日突然「お前鬼だから」て言われて「わかった」とは、どんなに頭の悪い俺でも流石に無理だ。第一に、
「匂いって…」
「ん?」
「鬼って……匂うのか?」
「え?」
渡辺がキョトンとする。舐め上げられてた拳を振り上げる。
「て、てめえが匂うって……!」
「ああね!匂うよ、人間じゃない匂い」
「…あっそう…」
「甘い、退治屋にしか判らない匂い」
首筋に渡辺の顔が近づいた。そのまま犬みたいにスンスンと鼻を鳴らしながら顔を埋める。
「血が血を呼ぶんだ」
「…何だそれ?」
「艮くんの匂いが僕を呼ぶの。食べてって」
「呼んでねえ!」
「本能だよ。僕と命のやり取りをしたがってる。だから餌を撒くんだ」
イケナイコ。
耳朶を甘く噛まれてそう囁かれて背中がゾクゾクする。寒い。目の前の男をボコボコにしたい。けど身体は動かなくてひたすら心臓だけが動く。
ああ。
あの白い喉仏を噛みちぎって、
「本能が出てきちゃってるよ」
いつの間にか剥き出しにしていた八重歯を渡辺になぞられて我に返った。俺、いま何しようとした…?
「まあ、簡単にやられてあげないけど」
渡辺はいつも通りニコニコしてそう言った。
「僕が君に釣られたように、僕の血も君を釣るんだ」
「……」
「油断したほうが負け。スリリングでしょ?」
ああ。日頃の喧嘩なんか目じゃねえ。
首筋に噛みついた渡辺の顔面に拳をめり込ませながら俺は素直に頷いた。
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