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渡辺くんの事情。
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***
渡辺家は由緒ただしき家柄だ。
「見ないうちに雰囲気変わったな、綸」
「そう?」
「ハツラツしてる。餌でも見つけた?」
「まさか」
「だよな。最近じゃ混血を見つけるのも難だ」
コミュニティパーティーの端っこで出された食事に手を付けながらぼんやりと話を聞き流していた。会場の中央では混血を討ち取ったとかで若い男がスピーチをしている。一撃で仕留めたとか何だとか。あれもそのうち絵本になるのだろう。総じて絵本とゆうのはああいった自慢話で出来ている。
「今や混血もオークションで出回ってるとか」
「買ってどうするの?」
「討ち取るんだろ」
「反則でしょそれ」
本末転倒てこうゆうのを言うのね。
「でもまあ、鬼退治は名誉な事だから」
「形はどうであれ打ち取れば同じと」
「そうゆうこと」
「世知辛いねえ」
そんな仮初めの名誉を背負ってまで生きていかなきゃならないとは退治屋とゆう肩書きが阿保らしくなる。第一このパーティー自体が既に阿保らしい。みんなで近況を語り合って褒めあって。誰が得をしてるのかサッパリ解らない。
「綸も本家なら煩く言われてるだろ」
「まあね」
「早く討ち取って小言から解放されないとな」
あーあ、解ってない。早く討ち取るなんて何の意味もないんだ。本当に出会ってしまったらそんなことはどうでも良くなってしまう。
「はあ…早く帰りたい」
「何だよ、藪から棒に」
藪から棒じゃないよ。このパーティーが始まったときからそれしか考えてない。
「一度で良いから拝んでみてえ」
「そうだね」
出会った鬼は想像以上だった。
「いてえ、つってンだろ!」
お馴染みの顔面パンチを華麗に避けると腹部に鋭い蹴りが入った。流石は百戦錬磨のヤンキー。対応力が違う。
「性懲りもなく、てめえは毎日毎日!」
「いやあ、誘惑には勝てなくて…。 」
「退治屋ならちったあ自制心を持て!」
ヤンキーにしては至極まともなことを言う艮くんの肌に毎回絶えず生傷をつけてるのは僕で、しかもそれがハツラツの素だったりするから始末に負えない。と自分でも思う。
「…つーかよ、」
艮くんが首筋につけられた歯型を押さえ怪訝な顔つきで呟いた。
「鬼退治てこうゆうカンジなのか?」
「…え?」
「…絵本みてえにやっつけねえの?」
艮くんの放つ「絵本」という単語がミスマッチ過ぎて笑えもせず呆然とする。艮くんが続けた。
「退治したいつってたろ、てめえ」
「うん」
だって鬼退治は生業だもの。いまじゃ名誉なことで御家の権力を左右する事柄だ。僕は本家本元の出だから御家に傷はつけれない。そう教わってきた。
「…退治されたい?」
艮くんが望むならそうする。
その髪を鷲掴み泣き叫ぶ顔を地面に叩きつけ首筋に刃物を当てる。皮膚や肉など断つのは容易い。あとは骨を砕くよういっきに力を入れるだけ。確実に、君を、
「…渡辺」
両手で掴んでたフェンスが変形していた。
「俺はまだよく解ってねえんだけどよ…。俺を退治しねえで困ンのは、てめえじゃねえの?」
艮くんが俯いて鼻の頭をポリポリ掻く。
「こうゆうのが退治てンならそれでも良い」
「……」
「…ただ」
「…ただ?」
「…他とも…してんだなあと、」
思っただけ。
「…艮くん」
「あ?…ぅ、ん…ん!?」
乱暴に掴んだ顎を上向かせその唇に噛み付いた。
「な…何すんだ、てめえ!」
「殺したいよ」
「……」
「殺すときはこの手で殺す」
「…渡辺…、」
「でもそれ以上に艮くんが欲しい」
一撃で仕留めるなんて生温い。もっと曝け出して中身を暴いて、心臓を喰らわれても良い、互いの血がぐちゃぐちゃになるまで絡まって。
この気持ちを何と言うの?
「…阿保な退治屋…」
そうかもしれない。
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