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艮くんの貞操。
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***
「…何やってんだ、俺…」
学校を休んだ。一度やるとこうゆうものは中々元に戻しにくいもので、何だかんだでもう二日目。マズイ。非常にマズイ。何がマズイって、担任に逐一連絡を入れてるところとか家からも嘘ついて逃げ出してるところとか。特に家にはしばらく友達ん家に行くとか言ったけど…泊めてもらう友達とかいねえから深夜徘徊とかしちまって。補導されたら洒落にならんのに。
「何やってんだ俺…」
ホント何やってんだ、俺。
特にあいつが探してるという確証はない。学校に行ったって普通かもしれないし、ましてや家を訪ねるなんてしてこない確率のほうが高い。連絡先も知らないヤツが家を知ってる筈もないのだ。なのに何でこんな用意周到に逃げ隠れする必要がある。
探してて欲しいとか思ってんのか…?
いやいや、そんな阿保らしい。
こんなことならいっそもっと遠くへ行けば良かった。踏ん切りがつかなかったからってこんな学校の近所でウロウロしていたら、
「艮!」
絡まれるのは目に見えてたろ。
「昼間に会うなんて珍しいじゃねえか」
「…おう」
「この間の借り、返させてもらうぜ!」
そんなもん律儀に返してたら一生喧嘩し続けなければならない。残念ながら俺にその気はないし、一生付き合わせたい顔でもない。
「勝手にしろ」
こんな奴らに一生付き合うくらいなら一発殴られたほうがマシな気がしてきた。
「…おい」
「何だよ、さっさとやれよ」
「調子が悪いのか?」
「あ?」
「覇気がなくて気持ち悪いぞ」
「ああ!?」
人が親切にしてやればつけあがりやがってブッ飛ばしてやろうかコイツ。
「学校どうした」
「てめえに関係ねえだろ」
「サボりか。お前にしちゃ珍しいな」
この界隈の不良のなかでもとりわけ艮はマメだからな。…と、知った口調で言われ図々しくも隣に腰掛けて来た。ガタイが良いから何とか顔は覚えてるが俺はコイツの名前すら知らない。畜生、放っておいて欲しいのに。やっぱりブッ飛ばすかコイツ。
「…艮」
「あ?」
「お前、香水でもつけてんのか?」
「…は?」
「変な匂いがするんだが…」
おいおい…それってまさか…。
野郎の顔が不意に近づいてきたときだった。
「…これが艮くんの友達?」
「…わ…渡辺…?」
出て来たのは全ての根源。その根源が見たことがないほど不機嫌な顔で突っ立っていた。
「仲良さそうだけど…何してるの?」
「仲良くねえ!つうかお前こそ…、」
「へえ…仲良くないんだ。だったら其処譲ってくれる?」
「誰だ、てめえ!」
渡辺がニコリと笑った。
「聞こえなかった…?艮くんに用があるんだ。譲ってくれる?」
ゾワリと全身の毛が逆立った。渡辺は笑ったままだがその異様な殺気を感じたのは俺だけじゃなかったのだろう。粋がってた筈の男が慌てて立ち上がった。
「じゃ、じゃあ、またな、艮!」
「ちょ、ちょっと待…、」
てめえと居るのも嫌だが、こんな状況で独りにするンじゃねえよ!背中に変な汗が流れる。
「…艮くん」
怖くて人の顔が見れないなんて生まれて初めてだ。
「今まで何処にいたの?」
「…か、関係ねえだろ」
「あの男と一緒だったの?」
「馬鹿言え!あいつは…、」
「…あいつは?」
渡辺の静かな怒りが手に取るように解って上手く言葉が紡げずに思わず閉口した。何で俺がこんな責められなきゃなんねえんだよ。…あ、逃げてたからか…。
「つ、つうか、てめえは何で此処に…、」
「クラスの子がこの辺りで見たって言ってたから」
だから探しに来たてゆうのかよ。
それを聞いたら訳の解らない熱が身体中を走ってかぶりを振った。顔が熱い…意味がわかんねえ。
「…艮くんは何で此処にいるの?」
「それは…」
「仲良くない男と何してたの?」
「べ、別に何も…」
何ださっきから矢鱈と同じ質問を…。あのヤンキーと知り合いなのだろうか。そうは見えなかったが。…あ。
「あの男も退治屋じゃねえのか?」
「…なぜ?」
「あいつも俺から変な匂いがするって…、」
「多分違うよ。彼からは何も感じなかった。鬼でもなかったし普通の人間だ」
じゃあどうして…。
「艮くんが誘ったんじゃないの?」
「は…はあ!?」
「人間をお引きよせる餌でも撒いたとか」
「人を色情狂みたいにゆうな!」
「…だったら、どうしてそんなに色香が増してるのさ」
空が見えると思ったときには既にベンチに押し倒されていた。押さえ付けられた手首がビクともしない。完璧にマウントをとられてる。
「誰を誘ってるの…?」
誰も、と反論しようとする口を荒々しいキスで塞がれた。呼気すら奪おうとする口づけに息が追いつかなくて開いた口から舌が割り込む。口ん中を熱い舌で掻き回されて食まれて。逃げるように捩る後頭部を押さえつけられ、舌先を舌先で突かれ、唾液が口端を伝う。
獲物を決して逃がさない狩人の瞳。…俺が求めてたのはこれだ。こんなやり取りだけど、
「僕だけ見てればいいのに」
そんな純粋なものを垣間見せるから、
「…っ、…するからだろ…、」
「…え?」
「てめえがそんな顔するからだろ…!」
自由になった手が自然と渡辺を突き飛ばしていた。ベンチから起き上がり手の甲で乱暴に唇を拭う。
「俺らは本能に従ってるだけだ、そうゆう関係じゃねえ!」
言ってて心の中にポカリと穴が開いた気がした。何も言わずに尻餅をついたままの渡辺を見てさらに穴が広がった。正論を言ってるのに。なんだか無性に泣きたい。
「…そうゆうことだから」
どうゆうことだ。自分でも謎だったが泣けない身体に鞭打って踵を返した。これで家に帰れる。学校にも行ける。
だけど今日よりもっと重たいモンを背負った気がした。
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