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艮くんの突発。
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***
屋上に行くのをやめた。
だから何と言われればそれまでで、特に変わった事もなく今まで通りの生活を過ごしている。毎日喧嘩は絶えないし物理は相変わらず面白くない。ただ、
「艮、てめえ学校のヤツと手を組んだらしいなァ」
他校の奴らに変な噂だけが流れてる。
「…組んでねえよ」
「嘘つけ。熊谷が言ってたぜ。変に凄味のある軟派な野郎を連れてるってよ」
「熊谷って誰だ」
「いつもてめえに喧嘩ふっかけてる大男だよ!」
「…ああ」
あの公園の野郎か。そんな名前だとは知らなかった。
「てめえが徒党組むなんてよォ」
「…組んでねえ、つってンだろ」
「だから今日は大勢で来てやったぜ」
話を聞かない奴らは有難迷惑にも宣言通り十数名を引き連れて俺の行く手を阻んでいる。どうやら中には素手じゃない奴らもチラホラいて、正直不利だ。
「寂しかったらお仲間呼べよ」
「だから…いねえ」
「あ?」
「仲間なんざいねえよ!」
逃げれば良かったのに喧嘩を買ったのはただどうしようもなく腹が立ったからで、案の定スピードよりも数が上回って、与えるダメージよりも受けるダメージのほうが明らかにデカかった。おまけに相手の鉄パイプはまともに食らうと骨の軋む音がする。
ああ…流石にマズイな。
そう思った。
「艮さん…?艮龍美さんですか?」
猛攻撃が止んだのはふと男の声がしたから。男が俺の名を呼んだからだった。
「誰だ?あれがてめえのお仲間かァ?」
「いや…、」
知らない。あんなボンヤリとした目の、長身の男に知り合いはいない。第一、あれはウチの学校の制服じゃないだろ。
「間違いない…艮さんですね」
「あんた誰だ」
「喧嘩…加勢しましょうか?」
「関係ねえだろ」
「…俺なら簡単に倒せます」
「な、なんだと、てめえ…!」
こっちが頼む前に勝手に喧嘩を売ったそいつはいとも簡単に数人をのして、それから次々と襲いかかる奴らを倒した。凄まじい反射神経とパンチ力。大半のしたところでヤツが落ちてた鉄パイプを拾った。
「…鬼に金棒」
男が鉄パイプを振り上げた。
「うわあああ…ッ!」
そうゆうやいなや不良どもは一目散に走り出しクモの子を散らすように逃げ帰った。その場に俺とそいつだけ残される。男が鉄パイプを投げ捨てた。
「…冗談です。面白かったですか?」
「…は?」
「自己紹介が遅れました…小角玄といいます」
「オヅ…ヌ…?」
「貴方と同じ鬼です」
「…」
懐かしい響きだと思った。と同時に忘れかけていたことが次々と思い出されて混乱した。
「退治屋とは離れたようですね…。貴方を初めてお見かけしたときは…匂いがしたものですから」
小角と名乗る男は特にこっちの様子も窺わず淡々と話す。何を話してるんだろうと思った。散々聞かされてた話なのに、アイツ以外の口からそれが発せられるのは初めてで、頭がその事実を受け止めきれないでいる。
夢物語にまた引き戻されてく感覚。
「貴方を…迎えにきました」
「は?」
「俺らは種を保存する義務がある…」
「何言ってンのかサッパリなんだけどよ」
「つまり…退治屋なんかに殺らせられないって事です」
男がゆっくりだがハッキリとそう言った。
「勝手なこと言わないで」
今度こそ聞こえてきたのは知っている声だった。知っててあまり聞きたくなかった声。
「艮くんを見つけたのは僕だよ?」
「本家の…。諦めたのかと思いました」
「諦めれる筈がない」
「折角見つけた鬼ですもんね…」
男が渡辺に自分の手を差し出した。
「なら…俺をどうぞ」
「お、おい、」
「…君、純血?」
「はい…自分で言うのも何ですが貴重種です」
どうぞ、と差し出した手を渡辺は黙ってみていた。ヤツにとって誘われる匂いがするのだろう。俺も微かに体内の血が湧き立つ気がした。初めて自分以外の鬼と出会って触発されているのだろうか。それとも純血の力か?
「…嫌がる者を押さえつけたら駄目ですよ」
「…」
「どうぞ」
渡辺が手を取って口を寄せた。
「……艮くん…?」
渡辺のシャツを引き寄せたのは無意識だ。引っ張られた渡辺は目を白黒させている。男も驚いていた。
「…勝手に進めんじゃねえよ」
「…え?」
「小角!」
「ハジメでいいです…玄で」
「玄、俺は誰ともツルまねえ」
「黙って食されるつもりですか…?」
「そのつもりもねえけど…、」
解らない。自分は一体なにがしたいのだろう。奴についていけば良いのに。ついていけばこんなモヤモヤからも解放されるって解ってんのに。
「俺を最初に見つけたのはコイツだから…俺は最後までコイツに付き合う義務がある」
渡辺が俺以外のヤツに痕を残そうとするのはさらにモヤモヤする。
「今なら助けられます…」
「いい」
「そうですか…俺も上からの命令なんで簡単には諦められないんですけど…」
ヤツが笑った。
「艮さんが良いなら…俺は良いです」
「…お前…」
「失礼します」
頭を下げた顔がやけに優しくて印象に残る。小角玄、最初から最後まで穏やかで正直また会いたいと思った。
「…艮くん」
それだけ初対面で気にいったヤツに誘われたのに。手の中に残ってるのは。
「最後まで付き合ってくれるの?」
「…」
「…よろしくお願いします」
「……うるせえよ、浮気者」
俺も大概馬鹿だ、解ってる。
でも教室で食べる昼食より屋上で食べる昼食のほうが美味いのを知った。
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