アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
艮くんの修練。
-
***
まん丸とした黒目に小さく色づく唇。サラサラとした髪と白い肌に映える桜色の頬。その作り物のように整った顔は、まるで人形で。
「だからァ、集中して器に収めろ、この阿呆」
そりゃ口から飛び出す言葉も上品だ。
「やってンだろ」
「出来てねェ」
「もう少し具代的な、」
「サッサとやれ」
コイツ……殴りたい…。
思わず握りしめた拳をぐっと抑え、自分より遥かに小さいその男を睨みつけるよう見下ろした。
「もっとグッとして、ガッだよ」
「だからそれが解ンねーつってンだよ!」
出会って二日。俺に救いの手を差し伸べた玄の用意したのがこのチビで、まだ自身をコントロール出来ない俺にそのイロハを教えるべく派遣された。玄の兄貴で、そこそこ有名な鬼らしい。
「全てはイメージだ。自分の中に器を作れ。そこに鬼の部分を収めて、それで終い」
特訓初日、目の前の男はそれだけを言うとあとはお好きにと言わんばかりに口を噤んだ。いや正確にいえば噤んだのではなく野次を飛ばすだけになった。
「解ンねえヤツだな、グッだよ、グッ」
「教える気ねえだろ…てめえ」
具体的な指示はそれ以外なく、もう二日も費やしているが方針を変える気はないらしい。
とっくに我慢の限界はきている。が、なまじツラが女みてえなだけに手が出せずにいたりして、それがまた腹立たしい。
しかし、ずっとこんな感じで進むもんだから全く要領を得ないまま時間だけが過ぎてゆき、さっさと覚えてコイツから解放されたいのに、進めず戻れずでまさに地獄。
「早くしろよ。帰りてェんだけど」
本当コイツ殴りたい。
「…てめえ」
「先生」
「なんチャラってゆう鬼の、」
「前鬼」
「その前鬼つーのの末裔なんだろ!ちったあマシな教育出来ねえのかよ!」
勢い任せにまくしたてると相手は塀に腰掛けたままジロリとこちらを見上げた。チビの割りにはメンチに迫力がある。
「駄犬を躾ける為の血筋じゃねェ」
「あァ!?」
「オレァ、玄に頼まれたから来ただけだ」
「…」
「第一、」
睨みつけてる男の眉間にシワが寄った。
「退治屋と連んでるヤツに関わりたくねェ。」
つっけんどんにそう言われ、咄嗟に反論が出来なかった。本音を言われた。そうとも思った。
「…何で、だよ」
「『何で』?…意味が解んねェな」
「渡辺がてめえに何かしたのか」
「されてたら今頃どっちか死んでる」
「俺は死んでねえ」
「それはお前に殺す価値がねえのか、」
「あ?」
「生かす理由があるか、」
「?」
「あの退治屋がバカって可能性もある」
「…バ……、」
「お前がどう捉えようとオレにァ関係ねえ」
至極真面目な顔つきで渡辺をバカ呼ばわりしたチビは座っていた塀の上に立った。
「命懸けなんだ、こっちは」
チビが塀の上に立って見下ろしてる。
「冗談で『鬼』やってンじゃねェ」
ビリッと皮膚に痛みを感じた。髪の毛が逆立つような感覚。チビの顔は逆光でハッキリしないのに、一歩もそこを動けない。背中が冷たい。今までそんな空気を感じなかったのに。変わった、一瞬で。変えた、あの一瞬で。
これが、純血…?
「あれが…彼本来の気です」
「…玄…、」
「…普段は抑制して自分の中に収めています」
「あんなもん隠してンのか…」
「そうです。…そして貴方が修得すべきもの」
玄が現れて幾分か落ち着いた俺はもう一度冷静にチビを見た。その気は明らかにチビの体積を超えている。二、三倍とは言わない膨大な気がチビから流れ出ているのだ。それがあの小さい身体に収まっていたとは俄かに信じられない。でも先程まで感じなかった気だ。あんなもん常に出してたら、
「覚…ヤツらが来る」
瞬間、ビリビリと皮膚に纏わり付いてた空気が消えた。
「…抑えたのか?」
あの一瞬で?
「コツを掴めば出来る」
相変わらずチビは塀の上から見下ろしていた。
「あまり艮さんを苛めるなよ…覚」
「阿保には頭より身体で覚えさせたほうが早ェ」
チビが塀から飛び降り俺の前に立つ。
「まずはコレが出来てから文句を言え」
「…」
「出来たらお前の言い分も聞いてやる。退治屋のことを含めて、な」
じゃあな、と踵を返すその後ろ姿を俺はただ黙って見つめていた。見つめるしか無かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
14 / 46