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渡辺くんの覚悟。
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***
「お待ち下さい、綸様!」
無理矢理その間へと進もうとして数名の男たちが僕を強く引き止めた。見覚えはあるが名前は判らない。分家の連中だ。
「退いて」
「なりませぬ!いくら綸様とて許可なくこの間に入る事は出来ません!」
「僕は渡辺家の次期当主だ」
「ですが…!」
「どうした」
騒ぎを聞きつけて駆け寄って来たのは見慣れた顔の友人だった。
「綸?」
「金治様、お助け下さい!綸様が鬼切を…、」
「鬼切…?」
友人が驚いた顔で僕の方を見た。
「鬼切の使用は大殿もしくは四天王家の許可がなくてはなりません。なのに、」
「あの刀はもともと渡辺家の物でしょ?」
ウザったい。許可だの決まりだのそんな事をウダウダ議論する為にこんな所に来たのではないのに。
「退いて。急いでるんだ」
「ですが…!」
「聞こえなかったの?」
「……、」
「急いでるんだ」
ビクリと分家の奴が肩をすくませた。
「やめろ、綸」
「僕はお願いをしてるだけだよ」
「この人たちに鬼切の持ち出しなんか許可出来る訳ないだろ」
戸にかけていた手を強く払われ場の空気が一瞬凍った。それでも僕を睨みつけて引かないのは流石、四天王家のひとりと言うことになるのだろうか。
「鬼切なんて何処に持っていく気だよ」
「…話す必要があるの?」
「…酒呑童子か」
「…」
「さっき討伐命令が四天王全家に下った。だが決して単独で動くなとのお達しだ」
小声で話すという事はまだ下の人間にはオフレコなのだろう。本家だけでこの事案を解決するつもりだ。確かに酒呑童子の復活など他の退治屋がどうこう出来る問題ではない。普段は腰の重い連中が決断を早める程、事態は深刻とゆうことか。
「やめておけ」
「…何が」
「お前が敵う相手じゃない」
「そんなの判らないでしょ」
「解る。この気は尋常じゃない。交えたら確実に死ぬぞ」
友人の色素の薄い目が僕を捕らえる。それは忠告ではなく確信だった。
「…そこを退いて」
「綸!」
「あれを殺せるのは僕だけだ」
「…」
「僕がやらなくちゃ駄目なんだよ」
退治をするのならば相手は僕でなくてはいけない。
「…もしかして…お前が探してた混血ってアレなのか…?」
その問いには答えず微笑んだ。
鬼切の置いてある間に手をかける。
「お待ちください!まだ許可は…!」
「待て!」
「…」
「………行かせてやれ」
「金治様!?」
「確かに鬼切は渡辺家の物だ。…使用するなら彼がいちばん相応しい」
「しかし…!!」
抗議の言葉を友人の通る声が遮った。
「碓井、卜部の両家には俺が話をつけておく。これは坂田家嫡男、坂田金治としての言葉だ。…責任なら取ってやる。通してやれ!」
分家の連中が押し黙りさざ波のように引いていく。最後のひとりが黙ってその戸を開けた。
「…流石だね」
「馬鹿にしてんだろ」
行こうとする背中を友人の声が止めた。
「いいか、俺が止めれるのは精々半日くらいのもんだ。それ以上は庇いきれなくなる」
半日貰えれば充分だと思った。
「綸!」
「なに?」
「…お前、退治する気か?」
デジャヴだ。
「…さあね」
死ぬなよ、と友人が零したのを背中で笑った。
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