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艮くんの成長。
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***
「私の下僕になれ、酒呑童子!」
目の前をうろつくキツネ野郎の横っ面を思いっきりグーで殴った。
「…ねえ、何でアレがいるの?」
「おいおい。アレでもお前らの救世主だろがァ。敬ってやれ」
「救世主、ボコボコだけど」
「あの程度の術者ではもう敵わない…コントロールを完璧に覚えましたね、艮さん」
「のほほんと話してねェでコイツ何とかしてくれよ!」
いつもなら渡辺と二人きりのはずの昼休みに、あのチビと玄、そして訳の解らないキツネ野郎の三人が屋上にいた。しかもキツネ野郎に至っては、初対面で開口一番にほざいた言葉が「下僕になれ」だったから、何度殴っても殴り足りない。
「つか、お前誰だ!」
「安倍晴樹。あの偉大な陰陽師、安倍清明の末裔だ!」
「…おんみょ…うじ?」
また聞いたことのない単語のオンパレードが始まった。
「平たく言やァ退治屋のお仲間」
「鬼を使役するのが陰陽師です」
「……。へえ」
「…解ってねェな」
「俺らの主ですよ」
「コレがあ!?」
目の前で踏ん反り返るキツネ野郎をまじまじと見る。前々からチビや玄がゆう「主」てのが気にはなっていたが、まさかアレだけの力を持つ二人の主がこんな阿保面のキツネとは。
「嘘だろ?」
「残念ながらホントだ」
「こら、覚!残念とは何だ残念とは!」
横で五月蝿く咎めたてるキツネをチビが蹴りあげる。どうやら俺の想像した主従関係とは少し違う様だが、二人のゆう「主」には間違いないらしい。
「どうでも良いけど早く帰って欲しいなあ。久々にゆっくり出来る昼休みを邪魔されたくないんだけど」
迫り来るキツネから俺を引き離し、渡辺がそう呟いた。ちゃっかり肩を抱かれて思わず渡辺の横面も刎ねる。
「艮くん…まだ肋が…」
「あ、悪いつい」
「なるほど。君もまだこの酒呑童子を手懐けてはない様だな」
ふむふむと頷くキツネ。つか手懐けるて何だ。ペットじゃねえんだぞこっちは。
「この私の術も効かぬし中々手強い」
「それはオメェが弱ェだけ」
「え?」
「ほら、解ったら帰るぞ」
「仮にも他校の生徒ですから見つかると面倒です」
「そうだな」
帰れ帰れ。しっしっと犬のように追い払う。この場合は犬でなくキツネだが。
「また来るぞ、酒呑童子」
「もう来んな!」
「あ。そうだ」
帰りかけてたチビが思い出したように声を上げ振り返った。
「暫くは安倍家の威厳で退治屋は動かねェと思うがァ、鬼どもは解らねェぞ。なにぶん、首領様のお目覚めだ」
肩を抱く渡辺の手に力が篭った。横を見れば随分と真剣な表情でチビを見ている。
「退治屋の屋敷を訪ねた時から嫌ァな空気を感じンだよ。用心しとけよ」
何に用心すればいいのか解らず頷く事が出来なかった。三人が去ったの確認して肩にあった手を払い除ける。
「…いつまで抱いてンだよ」
「あ、ごめん」
離れた瞬間ふと目が合って思わず視線を逸らした。何でもない筈なのに妙に静寂が際立って気恥ずかしい。何か話さねば。
「しゅ…酒呑童子てこの前の」
「そう。艮くんの祖先」
「じゃあ、親や兄弟も…」
「簡単に言えばそうだけど、艮くんの場合は隔世遺伝だね」
隔世遺伝て飛び飛びで遺伝するってゆうアレのことか?つまり俺の世代で遺伝が色濃く出たとゆう事か。まあ俄かに信じ難い話だが俺の中の鬼が強いのは本当だし。あれが酒呑童子とゆうボスなんだろう。
「この間ので艮くんの存在がバレちゃったから確かに他の鬼が接触してくるかもね」
妙なカンジだった。チビや玄も鬼の筈だが、どうやら渡辺寄りの立場らしいし、つまりは本当に純粋な「鬼」てのがやって来るかもしれない、て事だ。何をしに来るかは知らないが、それはそれで怖い気もする。
「僕が居るから心配ないと思うけど」
普段通りにっこり笑う渡辺。何故かその笑顔に安堵する。意味もなくその言葉を信じてしまう。
「…たぶんね」
「あ?」
「ううん。何でも」
渡辺の顔が近くなった。
「ねえ、艮くん」
「な、なんだよ」
「二人きりだね」
その淫靡な顔を見るのも久しぶりだなとか頭を駆け巡ってブンブンと首を横に振った。そんな悠長なことを考えてる場合じゃない。頬に渡辺の手が触れる。
「いい加減、艮くん不足」
「な…なに言っ、」
「触っていい?」
もう触ってんだろ。てツッコみたいけど全然身体が動かない。渡辺が肩に顔を預ける。スンスンと首筋を犬みたいに嗅ぐ。
「…艮くんの匂いだ」
心臓がバクバクと早鐘のように鳴った。首筋にピリッと痛みが走る。それがキスマークを付けられた痛みだと解った時には渡辺と目が合っていた。
……あ、ヤバ…い。
「…艮くん」
甘い声が脳内に響く。唇が、近い。触れ、る、
「ま…待った!!!」
「痛ァ!」
ぎゅっと目を瞑ったまま渡辺の身体をおもいっきり突き飛ばした。肋骨付近を押さえて渡辺が蹲る。
「だ…ダメだ!何か見られてる気がする!」
「だ…誰もいないけど…、」
「この間の鬼とか!」
「いやあれは艮くんの内面の話で、」
「かもしんねェけど!」
親に見られている様な感じで居た堪れない。
「……禁止」
「え?」
「そ…そうゆうの禁止!」
「……え?」
愕然とした渡辺が鬼や退治屋よりも先に片付けないといけない問題を発見し、俺はそれに気付かず声高らかに宣言したのだった。
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