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渡辺くんの内情。
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***
「いい子だな」
艮くんが帰路へ向かうのを見送り姿が黙認出来なくなったところで友人がそう言った。
「名前なんて聞かなくても情報はあがってるクセに」
「まあね。でも目は通してない。今日会ったのは綸が紹介してくれた子であって『対象』じゃないから」
「律儀。…そうゆうとこ艮くん好みでホント嫌」
「心狭ッ!…てか、ウシトラ君てゆうんだ」
「呼ばせないけど」
「はいはい」
失笑を無視して周りを見渡した。境内の周りは鬱蒼とした木々があるだけでカラスの一羽すら見当たらない。
「安部の所有してる社だっけ?彼らの結界術もなかなかのもんだな。正直ちょっと息苦しい」
「本来は他者を排除する術らしいからね。安部の加護下にない僕らにも効く。主人はポンコツだけど従者は優秀らしい」
「この中を平気な顔して喋ってるから焦ったわ。知らないんだろ?ここが鬼たちから護るための社ってこと」
「教えてない」
「…監視が外れない訳だ」
結界のおかげで艮くんや僕らについた監視もこの中には入らない。入れないと言ったほうが正しいか。入るにはそれなりの精神力と体力を兼ね備えていなければ呼吸器を潰される。生半可な人間では到底無理だ。だからここを選んだ。
「だけど正直厳しいと思う」
「…」
「確かに力はあるよ。けれど本家と渡り合うには優しすぎる。連中はそんなに優しくない。優しくないどころか…容赦なく潰される」
「…かもね」
「かもね、て…」
確かに艮くんの優しさはいつか身を亡ぼす優しさだ。決断を下さねばならぬ時、あの優しさがきっと邪魔をするだろう。僕もそう思っていた。今もそう思っている。
「でも艮くんは潰れないよ」
「…」
「僕が潰させない」
欠点であるあの優しさには同時に彼の…僕らの、芯を強くする動力源となっているのを僕は知っている。だから僕は共に進むと決めた。だったら僕が出来る事はただひとつ。
「守るよ、絶対」
ただそれだけ。
「…綸」
「とゆうか、艮くんを蹂躙していいのは僕だけだし、他の奴らが手を出すとか論外でしょ?」
「…どっちに転んでも不憫だな…彼」
「それに案外艮くんは手強いよ。本気出さなきゃ殺されるくらい」
酒呑童子の血が侮れないのは身を以て証明した。折られた古傷を指してそう言うと友人は暫くキョトンとして「確かに」と呟きゲラゲラ笑った。
「でさ、葛城小町の辿ったルートに覚えはある?当時、誰がこの話を渡辺家に持ってきたか」
「上からとしか聞いてない。実際それも祖父様から聞かされただけだし」
「だよな。でも四天王である渡辺家に命ぜれる人間は少ない」
「…あの二人にも協力求めるの?」
「貞春と季行?無理でしょ。二人とも鬼に肩入れするはずないよ。特に貞春は先代らの事件を鬼の仕業と思ってる」
「ま、そうだね」
我ながら間抜けな質問だ。この目の前の友人がたまたま変なだけで自分たちの世界に協力だとか仲間だとか存在はしない。それが同じ源氏に仕える次代の四天王家当主らだとしても。
「二人に協力得たいワケ?」
「別にそうゆう訳じゃないんだけどね。…なんか」
ひとりで立ち向かおうとしてる彼の姿を見てると何だか本当に自分たちが「何」なのか解らなくなってくる。四天王なんて名ばかりだ。肩書きは立派なクセに命令なしでは何も出来ない烏合の衆。
「仮にオークションの件は話せても練さんの名前は…流石に出せないだろ。ましてや鬼と組んでるなんて口が裂けても言えない。むしろ二人に知られない内にカタをつけた方が俺は良いと思う」
そうだね。たぶんそうなんだけれど。
「カタ…付けれれば良いけど」
葛城小町のルートを調べオークションの元締めを探して葛城三弥と…もとい渡辺練と決着を付ける。ただそれだけ。それだけなのに。
何故こんなに胸が騒つくのか。
「珍しく弱気だな」
弱気で済めば良いけれど。
踏み込んだら後には引けない。何か途轍もないモノを引き当てそうで。そう出掛かった言葉を飲み込んで薄暗い空を見上げた。広がる曇天はまるで世界の終わりを告げているかのようだった。
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