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渡辺くんの妬心。
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***
「茨城童子が艮くんに気づいてた?」
「そ。俺、てか酒呑童子の血にな」
いつもの屋上で話があると真剣な顔をした艮くんの口から飛び出したのは意外にも葛城三弥の話ではなかった。
「コレ、野郎から貰ったもんなんだけど」
「…うん」
「柊の葉らしい。親父が知ってた」
艮くんの手にあるのは例の鬼の匂いを消すもので袋の中に乾燥して砕いた植物の葉が入っている。それが艮くんのお父さん曰く「柊の葉」とゆう事で、艮くんのお父さんも小さい頃に見知らぬ女性に教わったらしい。
「つまり茨城童子の一族は酒呑童子の子孫にいち早く気づいてたって事だ。気づいてて黙り決め込んでた。なのに…突然接触してきてミヤの店へ連れてかれて、」
「うん」
「ミヤに捕まってからは音沙汰なし、」
「うん」
「お前らにミヤのアジトを伝えた奴がいて、」
「うん」
「もし、全部アイツが…、」
「うん」
「アイツが全部仕組んでたなら、」
「…艮くん」
「…あ?何?」
「もしかしてだけど、」
「…?」
「割と本気でショック受けてる?」
「え?」
艮くんの目が点になってる。
自覚は無かったらしい。その顔、鏡で見てくれば良いのに。
「前にも小鬼ちゃんたちと話したよね?茨城童子は怪しいって」
「そうだけど…」
「だってわざわざ僕と一緒のときに会いに来たし、自分の首領が会合中に消えたのに未だ姿を見せないのはおかしいよね?」
「た…確かに」
初めて気づいた、てカンジで僕の言葉に小さく驚く艮くん。今の今まで気にならなかったのか、葛城三弥から解放された後も音沙汰なしだった事を怪しいとは微塵も思ってなかったらしい。軽く頬を叩かれたような顔をしてる。
「家族とか仲間とか…まあまあらしいことホザいてたから…全部信じた訳じゃねえけど」
全部信じたワケじゃないけど、それなりに気を許しちゃったワケね。
「艮くんは無条件に人を信じ過ぎ。それで痛い目見たのは誰?」
「だ、だから全部信じたワケじゃ…」
「じゃあ次から九頭神弥彦は敵視出来るね?怪しいのには変わりないんだから」
「お…う」
なにその歯切れの悪い返事は。
「…不服?」
「いや、じゃねえけど…決め付けンにはまだ早いかなって」
なにそれ。
「信じたいの?」
「え?」
「信じたいんでしょ?彼の事」
「そりゃまあ…疑うよりは」
悪気がないんだってのは解ってる。それが艮くんの素直な気持ちとゆうのも。解ってはいるけど。
「親父がこの匂い消しを『お守り袋』て呼んでたんだ。厄除けだって。それって身を守る術を密かに教えられてた、て事だろ?」
あ、マズイ。マズいよコレは。
「…そう思ったら。」
ダメだって、艮くん。
「信じたい、て」
あー。
言っちゃった。
「…」
「…どうした?」
黙り込む僕を不思議そうに覗き込む艮くん。どうしたらそんな無垢な顔を僕に向けられるんだろう。
「…ワザとなの…それ」
「え?」
天然とか無垢とか本来の言葉に悪い意味合いはないんだろうけど今の僕には最高に悪い意味しかない。
「解った…なら仕方ないね」
今まで詰め寄ってたのを止めて踵を返す。そろそろ昼休みが終わる頃だ。扉の取っ手を掴もうとした手が掴まれ後ろに引き摺られる。
「ちょ、待て、何キレてんだよ!?」
「…」
ド直球の質問。流石は捻りを知らない天然記念物。いっそ拍手を送りたい。
「…キレてないよ」
「嘘つけ、明らかに機嫌悪ィだろが!」
「別に。話終わったなら教室戻りたいんだけど」
「終わってないだろ、九頭神の…、」
パシッ
騒がしい口を手のひらで抑えて言葉を閉じ込めた。
「…あのね、理解してるつもりなんだ。君にとって茨城童子は純粋に仲間かもしれないってこと。それを信じたい君の気持ちも。解ってる。解ってるよ。けど、…けど、」
ああ、いつからこんなに我慢の効かない人間になったんだろう。昔ならもっと上手く消化してた。もっと上手く誤魔化してた。昔の自分なら、
「ムカつくよ」
こんなこと、言わなかった。
「僕以外に君にそうゆう顔をさせれるヤツがいる、てこと。ムカついてムカついて仕様がない」
こんなカッコ悪いコト言わなかったのに。
「……あ、の…、」
艮くんが困ったような複雑な顔して僕を見上げている。僕の言ったことを飲み込めないのか吐き出す言葉に迷いがある。そりゃそうだ。だってこれって、
僕の醜い嫉妬心。
「…なんてね」
「え」
「ごめんね。忘れて今の。茨城童子のことは様子見にしよう。敵か味方もまだ判断が難しいし」
「渡辺、俺は…、」
「聞きたくない」
「…、」
「かも…ごめんね」
これ以上、君の口から何かを聞けばきっと情け無い言葉しか出てこない。心が女々しくて狭すぎて笑える。だって、知らされただけだ。
(…結局、僕は君の何にも、)
「教室、帰るね」
「…渡辺!」
ああ、大人ていつになったらなるんだろうね。こんな自分を忘れられるなら早く大人になりたい。
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