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艮くんの着信。
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***
目が覚めると身体が痛かった。
身体は割に丈夫なほうだけど内臓は別。ケツがジクジクして朝から違和感しかない。けど、まあ、
「おはよう、艮くん」
そう悪い気はしない。
「あ〜〜〜〜やだやだやだ」
境内の向こうでブロンズ青眼の美形が手足をバタバタし明らかな駄々を捏ねている。未就学児以上でも地面に突っ伏して駄々を捏ねる事があるらしい。
「…坂田サン」
「あ〜〜知りたくない!聞きたくない!気づかないフリしてるのに!」
「坂田サン」
「あのムカつく浮かれ顔〜!」
「坂田サン」
「優越感垂れ流し!しかも最悪な事に無意識!」
「坂田!!!!」
美形の喚き声がピタリと止む。暫しの沈黙の後、むくりと起き上がるとコートにびっしり付いた落ち葉を両手で払った。
「OK、大声出したら落ち着いた」
「…おい、大丈夫か。お前の幼馴染み」
「庇いたくはないけど、僕もアイツと肉体関係のある人間と行為に及んだ場所に呼び出されたら発狂しちゃうかな」
「…は?」
「俺は最初知らないフリ決め込むつもりだったんだからね?なのに何で此処でシちゃうわけ?此処でしか密談出来ないって解ってるじゃん!」
「あは。成り行き?」
「それ!その顔だよ!俺が一番発狂してる理由は!」
ニヤニヤしている渡辺を見て、ぴぎゃあ、と癇癪を起こした坂田サンが落ち葉を蹴り散らかす。紅葉した葉が舞って綺麗だ。……じゃなくて、
「……いま、何て?」
「僕の顔に苛ついてるんだって」
「いや、そうじゃなくて何で…」
「そりゃこれだけ匂えば解るよ。綸のマーキングがえげつない」
「……」
「あは☆」
可愛い子ぶった渡辺の顔面を境内にめり込ませる。
「…………殺す」
「待って待って待って!俺的には賛成だけどそれ以上は戦争になっちゃうから!そんなヤツでも四天王家の御曹司だから!」
坂田サンに宥められ何とか拳を下げる。殴っても殴り足りないが、事これに関しては俺も共犯だ。
「俺から始めた事だけどさ、赤面しながらどんどん遠ざかるのはやめてよ」
「殺してくれ」
「いやいやいや。心配せずとも普通は解らないから」
「……本当に?」
「本当本当!(退治屋と鬼にはモロバレだけど)」
社の陰から半身を出して境内に正座をすると坂田サンは今日呼び出したであろう本題を切り出した。
「それで前に話した葛城小町の事なんだけどね」
「連れてきた人間、解ったんスか!?」
「いや、流石に解る人間が限られてて…。けど当時、葛城小町の見張り番だった男たちの居場所は解ったよ」
その坂田サンの言葉に、境内に突っ伏したままだった渡辺が顔を上げた。
「………生きてるの?」
「ああ。葛城小町に腹は掻っ捌かれたけど一命は取り留めていたみたい。二人ともね」
それを聞いて渡辺が俯き短かな息を吐く。俺からは背中しか見えなかったけれど、その背は安堵している様に見えた。俺には彼女に対する渡辺の気持ちを推し量る事は出来ない。それでも彼女が人を殺めていなかったと言う事実は渡辺にとって「良かったこと」なのだけは解る。
「何処からの派遣?」
「坂田と卜部の分家。でも結構末端だった。何で当時の頭はこんな末端に任せたんだろう…子供だからか?」
「あの頃ならお前と季行が既に本家の家長だったろうけど…」
「俺は11…季行でも15歳だからね。分家が仕切ったのかな」
「家長って…坂田サンの親父さんはもう引退してんスか?」
「……」
俺の素朴な疑問に坂田サンは一瞬目を見開くと渡辺をチラ見して寂しく笑った。
「…亡くなってるんだよね。父親」
「あ……すんません、不躾な事聞いて」
「良いの良いの、随分前のことだし」
いやでも…何かいま変な間が。
「で、二人は何処に?」
「碓井記念病院」
「まだ入院してるの?」
「どうも一人は昏睡状態。もう一人は記憶喪失らしい」
「……」
「…会ってみる?」
命は取り留めたものの、普通の生活は送れていないという事か。昏睡状態は言わずもがな、記憶喪失だと言う方も話が出来るか怪しい。
「……会ってみる」
「俺も…、」
「今回ウシくんは難しいかもしれない。碓井記念病院って俺ら四天王家が管轄している病院なんだ。言わば退治屋の巣窟」
「僕が行くよ。艮くんは待ってて」
ジリリリリ…
黒電話のけたたましい音が辺りに響いた。俺が携帯の着信音に設定しているものだ。表示は母親から。おかしい。この時間はまだ仕事中の筈だが。俺の微妙な反応を読み取ったのか渡辺と坂田サンが電話に出るよう促す。
「……はい」
『アンタいま何処にいるの?』
「何処って別に…」
『警察から電話があったわよ。アンタと連絡が取りたいって』
「………警察?」
思いもよらぬ単語に渡辺たちも目を丸くしている。そうとは知らない母親はなおも話を続けた。
『アンタのお友達が誰かに襲われて大怪我したんだって』
「その件で警察がアンタと話がしたい、て」そう付け加える母親の声は思ってるよりずっと冷静で、自分の鼓動だけが早鐘のように煩かった。
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