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雨の止む日◇02
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大きなビルの二階にある、比較的広めのカラオケボックス。そこに着くと、すでに南高校の女性たちは集まっていた。扉から漏れ聞こえる歌声はあまり上手いとは言えないが、それでもこの場所に来ると少しばかり胸が高鳴る。
五分ほど経つと遅れて中村と熊谷が現れた。遅刻するんじゃねえよ、とからかいながら、フライドポテトと唐揚げの盛り合わせを奢らせてようやく歌いだす。
「前に遊んだことあるけど、はじめての人もいるよね」
仕切り役の真守が話を進めてそれとなく自己紹介を終わらせる。
はじめは男子と女子で塊をつくっていたが、三曲目くらいからは自然とツーショットになっていた。もちろん俺は、雪菜ちゃんと。女の子といられる嬉しさよりも気まずさのほうが大きかった。なるべく不自然じゃないように曲選びに夢中なふりをするが、彼女もまた顔を近づけて話題をふる。
「小田くんは、どんな曲歌うの?」
「バンドとかが多いかな」
「バンドかあ。私も少しなら聴くよ。小田く
ん、よければ歌ってよ」
女の子とカラオケに行くと必ず言われるから話の前は身構える。歌うのは好きだが誰かに言われて歌うとなると、失敗してはいけない気がして妙に緊張するからだ。
仕方なくあまり難しくなさそうな曲をチョイスして歌うと、嘘か本当か知らない褒め言葉が飛び交う。こういう素直になり合えない関係、俺は苦手だ。
「熊谷も歌えよ。お前うまいじゃん」
とにかく自分から注目を外させたくてバトンタッチをすると、無口な熊谷は嫌そうに眉間にしわを寄せた。ごめん、熊谷。
「小田くんの歌う姿、はじめて見ちゃった。嬉しいな」
へへ、とはにかむ彼女が可愛いと思わないと言えば嘘になる。栗色の髪を肩下まで伸ばし緩く巻かれたヘアスタイルは、撫でたくなるくらい愛らしい。小さな身長も小動物みたいで目を惹かれるし、決して意識しないわけではない。
それでも恋愛対象としては、どうしても見てやれなかった。
「宮崎さんも歌いなよ、せっかくだからさ」
下の名前を知ってはいたけれど、さほど親しくない女性を名前で呼べるほど、俺は女慣れしていなかった。
じゃあ歌おうかな、と画面に目を向けたのを確認して、小さく溜息をついた。ふと辺りを見渡すと、横目で真守がにやにやしてくる。嫌な顔。なんだよ、と声は出さずに問うと、ヒューヒュー!と口元だけで茶化された。そんなんじゃないのに。
笑い話をするのが得意な中村は恋人というより友達といった感じ。熊谷は相変わらず愛想がないが眉間にしわは寄っていないし、もちろん真守は一人浮かれている。
楽しめていないのは俺だけかと思うと、物凄く場違いな気がしてきた。適当なタイミングで「用事ができたから」と言って帰ろうかなと考えていると、また真守が余計なことを言い出した。
「なあ涼太、お前雪菜ちゃん連れて外に出てろよ」
「なんでだよ」
「だってお前、なんか人に酔った顔してるぞ。少し外の空気吸ってこいよ。雪菜ちゃんについててもらって」
適当なことを言いやがって。真守は気遣ってしてくれていることだろうから、怒るに怒れない。
「小田くん、大丈夫?」
「いや、俺は全然…」
言ってしまっていいのか分からない言葉を濁しながら答えた。
「お言葉に甘えて、外に行こっか」
本当に心配そうな表情を浮かべてくれる良い子だから、断るに断れず、真守を睨みながらカラオケボックスを後にした。
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