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雨が止んだその日◇01
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二度目の雨が降ったあの日、彼は帰り際に言った。
「またおいで」
やっぱり返事ができずにいると、「涼太くん。もう呼んでしまっているけど、これからもそう呼んでいいかな」と目を細めて微笑した。
嬉しくて恥ずかしくて苦しくて、小さく頷くだけの返事をした。
「私のことも好きに呼んでくれて構わないからね。気を付けてお帰り」
時刻は九時を回ろうとしていた。今日も何も聞けずに家に帰るのかな。悔しいな。男は色んなことを教えてくれたけど、俺は本当に知りたいことを聞けないでいる。少し距離が近付いたように見えて、結局は遠いまま。
奥さんとはどんな恋をしたんですか。
今はどんな気持ちでいるんですか。
これからまた誰かを愛すのですか。
俺はあなたを、好きでいていいですか。
口に出してしまいたいことは山ほどあったけれど、彼にとって俺の言葉は軽すぎる。
死という事実が彼に付き纏う限り、俺の想いは幼すぎる。
「涼太くん?どうかしたの」
「……はい。はい、大丈夫です」
大丈夫です。帰ります。
「あの、」
帰りたくないな。もっと話がしたいな。
「桑原さんって、呼んでもいいですか」
あの味の、カレーライスが食べたいな。
「うん、いいよ」
好きだって、言いたいな。
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