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E p i s o d e . - D A N N -
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──高い高い、遠吠えが月夜にこだまする。
まだまだ人々の足となるものは、馬が一般的な時代。
人々が一日の労働を終え、そのねぎらいと銘打った酒盛りも終わり、酒瓶を抱いて安らかな眠りに着く時間。
とある田舎の片隅で、ガス灯ひとつない道を、ひとりの少年が駆けていた。
あぁ、月が、もうあんなところにある。
つまらないことに手間取って、約束の時間にずいぶん遅れてしまった。
時折周囲を気にしつつ、たどり着いたのは、もうすでに使われていない農家のボロ小屋。
今にも全壊しそうな小屋の中へ、半開きの扉に触れないよう、少年は体をねじ込んでいく。
「リオ、リオ!きたよー…!」
それと同時に最小限まで声を絞り、少年は狭い小屋の中へ呼びかけた。
しかし、呼びかけに反応するものは、進むごとに自分が踏みつける、乾いた藁の音だけ。
カサ、カサ。小さく足音を響かせながら、少年は小屋の奥へと入っていく。
そこには、待ち人どころか、人影すら、ない。
「あれ…リオ…?」
少年は思う。もしかしたら、入れ違いになったのかもしれないと。
でも今晩、確かにここで会おうって手紙を書いて入れたはずだ。
手紙を見ていないか、あるいはあちらに何かない限り、絶対にここに来るはずなのに。
あちらに、何か。
その“何か”を想い浮かべ、少年は表情を険しくした。
しかしすぐに首を横に振り、さらに奥へと向かっていく。
壊れた農具や藁があちこちに散らばる中、少年は壁板の隙間から射す僅かな月明かりと、昼間の記憶だけを頼りに進んでいった。
意外と奥行きのある小屋の中──薄暗い中に、何かが動く気配はない。
と、何かに掴まろうと伸ばした少年の手に、何かががらくたでないものが当たった。
その瞬間、
「──わっ…!」
どんっ、と体に何かがぶつかり、少年は後ろによろめいた。
大した衝撃ではなかったが、不意打ちにバランスを崩し、藁の散らばった地面に叩きつけられる。
と同時に、少年の首筋に、何かがぐさりと突き刺さった。
とっさに声をあげそうになり、ぐっと堪える。
自分に襲いかかってきたものの正体に、気づいたからだった。
「──…んっ、ンッ…ふぁ…」
ぴちゃぴちゃと、何かを舐める、小さな音。
「んっ、んっ…ふ…んん…っ」
そして小さな、本当に小さな、少しくもった吐息の音。
もとより、少年は抵抗する気など全く無かった。
ただ運命に身を任せ、自然と、自分に乗りかかってきたものに手を伸ばす。
ふわり、と、やわらかな感覚が手のひらに触れた。
自分の首に埋まっているのは、小さな頭。
それを撫でながら、少年は静かに時を待つ。
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