アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
E p i s o d e . - SYLVAINE -
-
リオがロイドの小屋の玄関に再び現れたのは、朝日が昇ってすぐのことだった。
目を赤く腫らし、申し訳なさそうにケープのフードを下ろしたリオを、ロイドは笑顔で「おかえり」と迎えた。
ダンに引き留められたこと。自分も本当はこの村に居たいこと。自分の“とある事情”で、村人を危険な目に合わせるかもしれないから、それが解決するまでしばらくはここで雑用をさせてほしいということ。
リオは朝食に出してもらったベリーのジュースと固焼きのパンを持ったまま、ぽつりぽつりとロイドに話した。
昨晩、一体何があったのか。ダンに忠告された通り、一番大事なところを省いたリオの説明を聞きながら、ロイドはトントンとペンで机の縁を叩いていたが、リオが口を閉じてしばらく経った頃、ふふっと笑みを零した。
その笑みが何を示すのかわからなくて、リオは首を傾げる。
すると、ロイドはいつもの笑みを浮かべたまま、リオの頬に手を伸ばした。
「ロイド…さん?」
「うん、ごめん。それで、リオちゃんは、ダンのことが好きなの?」
何が、それで、なのか。
ロイドの問いかけに、リオはきょとんとしたが、小さく一つ頷いた。
「好き…です。ダンは、優しくしてくれたから…」
「そうじゃなくて。例えば…そうだな。その“好き”は、俺や、ディック君や、ウェストさんに向けられる好きと同じもの?それとも、特別な“好き”なの?」
特別な、好き。
頬に触れられたまま、リオは眉を下げ、しばらく考え込む。
そういえば、昨晩、ダンも同じようなことを言っていた。
ダンに向けたこの感情は、ディックやクリス、ロイドを慕うものと、何が違うのか…。
ダンは親切にしてくれた。身分の知れない自分を介抱して、仕事を世話して、ましてや文字通り身を削ってリオを生かしてくれた…。
そこに浮かぶ気持ちは、他の世話になった人たちに向ける気持ちと、何が違うのか…。
「わ…わかりません…ごめんなさい…」
リオはしゅんと肩を落とし、申し訳なさそうに返事をした。
その返答を聞き、ロイドの笑みが微かに深まる。
「そう…じゃあ、リオちゃんはまだ一番を決めてないんだ」
「いちばん…?」
「うん。いいんだよ。リオちゃんはそのまんまで」
ぽんとリオの頭を撫で、ロイドは心なしか上機嫌で立ち上がる。
何か隠し事をされている気分だった。子供扱いをされているようで、リオは少しだけむくれながら、ロイドの背中を見つめていた。
*
リオが帰ってきたという知らせは、たまたま相談をしにきた村人によって、ルーナ村に届いた。
馬車を借りてヴィナスまで走っていたクリスが帰ってきたのは深夜のことで、リオが雇い主と再会できたのは、その翌朝のこと。
ただただ頭を下げることしかできなかったリオを、クリスはただ一度抱きしめ、無事でよかった、すまなかった、と何度も呟き、双方を許した。
ロイドが“心の傷”を理由にリオを預かることを告げると、一度は渋ったが、人の目のないここが静養には一番いいと納得したのか、クリスはリオがここに残ることを承諾した。
リオは昼間は掃除洗濯や採取の手伝いといった雑用をこなしながら、夜になると、ロイドの薬を届けることを理由に、ダンに会いに行くようになっていた。
求められるまま毎夜体を重ねる日々を過ごしながらも、二人で、今後のことについて話し合った。
まず、血液の代わりに、ロイドが与えてくれるベリーのジュースを試してみようということ。
これはリオのほうからの提案だった。あれは不思議と渇きを癒してくれる。ロイドに頼んで、レシピを聞き、定期的にとるようにすれば、乾きが我慢できるかもしれない。
もうひとつは、ダンの提案。リオに与える血液の量を増やそうということ。
これにはリオは頑なに首を振っていたが、今まで三日に一度でよかった摂取がここのところ毎晩だということを指摘されると、もう何も言い返すことができなかった。
そして最終的には、二人で村を、出ていくということ。
これは最終手段だとしながらも、ダンの中では一番明確な未来の図になっていた。
この小さな村で我慢を続けていても、何も発展はしない。世界は広いのだ。もしかしたらどこかで、人間を殺めず血液をもらいながらも、上手に暮らしている吸血鬼がいるかもしれない。
二人で旅をしながら、リオが奇特な目で見られない場所を探して、二人幸せに暮らすのだ。
森の中に小さな家を建てて、二人きりで生きていく。
毎日キスをして、ただいま、おかえり、というやりとりがしたい、とくすぐったそうにダンが話すと、リオもつられて微笑み、何だかその時間がとても、とても幸せだった。
しかし一週間も経たないうちに、二人の夢は暗礁に乗り上げる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 83