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戦が近いらしい。
降伏勧告を持って来たっていう、隣国の使者が不敵な態度で去った後、大人たちは大急ぎで集まって、会議室に閉じこもった。
戦争はきっと避けられないんだろう。隣国がなんでそんな強引な態度に出たのかは分かんないけど、それなりに自信があるのには違いない。
うちの国は歴史が古くて、大昔は随分な大国だったらしいけど、今はもうそんな面影はない、普通の国だ。周辺からは「古王国」って呼ばれてるけど、誇れるのはその歴史だけ。
領土だって年々縮小しちゃってるし、産業もそんなに発展はしてない。
逆に隣国はっていうと、最近勢いを増して来た軍事国家だ。あちこちに戦争を仕掛けては、その領土と覇権を拡げてる。軍隊の数も、うちより相当多いんだって。
軍隊が大きくなると、その分食い扶持を増やさなきゃいけない。だからそれを、隣国は戦争で賄おうとしてるらしい。
数年前までその国との間にあった小さな国も、飲み込まれてしまってなくなった。そんで、次はうちの国? うちを征服した後は、今度はどこを攻める気なんだろう?
周りの国々にとっては迷惑な話だ。けど、だからといってその国々が、被害者同士で同盟を組むってことも難しいみたい。
うちと組んで、軍事国家の進軍をせき止めるか。軍事国家と組んでうちの国を攻め、征服した領土を分け合うか。そんな思惑が蠢いてて、味方を見つけるのは簡単じゃなさそうだった。
オレは王族とはいえ、王位継承権も19番目と低いし、力も何もない。
国や民を守るため、できることは何でもしたいって思うけど、何ができるのかも分からない。頼りにされることもない。
軍を率いて戦うことはさすがに無理だけど、剣を持って戦うことなら、オレにも少しはできるかな?
城の裏庭で剣を持ち、1人でひたすら素振りを続ける。
大人たちの会議はまだ終わらない。
城中の空気がピンと張りつめてる。使用人たちも近衛兵たちも、みんな不安そう。
降伏勧告なんて、受けるハズないと思うけど、対等に戦える程の戦力がないのは明白で、会議の行方も想像つかない。無礼な使者を斬って捨てる程のこともできない時点で、もう終わってるのかも知れない。
何か、この状況を打破できるような切り札があればいいのに。
そんなことを漠然と考えながら、ひたすら剣の素振りをしてると、侍従が1人やって来て、会議室へ行くように言われた。
会議には成人しないと参加できない決まりだから、オレが呼び出されたのは不思議だった。
「オレが会議? なんで?」
侍従に訊いたけど、その侍従も理由までは聞かされてないみたい。首をかしげながら、「お急ぎください」って急かされた。
剣を持ったままの、汗だくの格好じゃ失礼になるんじゃないかとか思ったけど、着替える時間も貰えないみたい。
走るように廊下を急ぎ、そうして会議室に入ると――出席してた王族のみんなや、大臣たち重鎮が、揃ってオレを振り向いた。
「ルーク、隣国の使者が来た話は聞いているか?」
国王であるじーちゃんに尋ねられ、入り口に突っ立ったまま「はい」と答える。
「降伏勧告されたって」
「そうだ。だが、そう簡単に降伏する訳にはいかん。分かるな?」
「はい」
会議室の大きなテーブルを囲む大人たちは、みんな黙ったままオレたちの会話を聴いている。
重々しい空気。いつになく厳しい、じーちゃんの表情。
「そこでお前には、地下封印の鍵を開けて貰いたい。できるか?」
「え……っと、地下封印……?」
言葉を詰まらせながら、じーちゃんの言葉を繰り返す。
地下封印。何百年も前に、城の地下に封印されたって言われてる、伝説の救国の勇者。
子供なら誰だって聞かされるおとぎ話に出て来る勇者は、ホントに実在したらしい。そんで、ホントにうちの城の地下深くに封印されたままらしい。
その封印の鍵を開けられるのは、王族だけなんだって。
かつて、その勇者を封じる最初の鍵になった、勇者の親友である王子の子孫。オレもその子孫の1人で、だから、鍵を開ける資格があるらしい。
かつてこの世には、ホントに魔王がいたらしい。
魔族と、その魔族に率いられた魔獣によって、多くの町や村が全滅させられ、人々は困窮してたらしい。
その状況を打破するために、異世界から召喚されたのが、勇者「ナギ」だ。
けど魔王を斃したからって、この世に平和は訪れなかった。魔族の脅威が去った後、人間たちは人間同士で争うようになった。
今、うちの国が立たされてるのも、そんな争いの延長だ。
もしまだ魔王がいて、魔族が脅威を振るってたら、今みたいに国同士で戦争する事もなかったのかな?
戦争の脅威と魔族の脅威と、どっちが恐ろしいだろう?
けど、この世に魔族はもういないし、オレは魔族がどんなモノか知らないから、考えたって仕方ない。今目の前にあるのは、軍事国家による侵略の恐怖、だ。
その状況をもし打破できるなら、その可能性があるんなら、やらないっていう選択肢はなかった。
「オレ、やります! やらせてください!」
張り上げた声は、気合が入り過ぎて上ずってて、ちっとも格好つかなかった。けど、じーちゃんも他の王族のみんなも、そして大臣たちも一様にホッとした顔してたから、引き受けてよかったと思った。
なんでオレが、とは、思わなかった。
王位継承権19番目の、いてもいなくてもいいような王子。城住みの王族としては末席に近くて、権力もなく人脈も持たない。そんなオレが選ばれたのは、他に「鍵」の担い手がいなかったから、で。
勇者に捧げる事実上の生け贄だったんだって、その時のオレには分かんなかった。
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