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10 (R15)
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「剣を取れ」
ツグト君の強気な発言に、隣国の大使は一瞬イラッと顔をしかめたけど、すぐにまたバカにしたような笑みに戻った。
「私がこれを手にして、勇者殿はどうされるのですかな? まさか私に、丸腰の者を相手に剣を取れと?」
「別に、素手で十分だと思うけど?」
大使の挑発に、挑発で返すツグト君。オレからは堂々と立つ背中しか見えないけど、きっと皮肉気に唇の片方だけを上げてるんだろうと思う。
勇者様が、まさかケガとかしないと思うけど。どうするんだろう?
何とかしなきゃって思うけど、動くに動けない。じーちゃんの側でハラハラおろおろ見守ってると、やがて近衛兵の1人が槍を置き、ツグト君に剣を差し出した。
ツグト君はちゅうちょなくそれを取り、すらりと再び剣を抜く。
「手合せしてやろう。剣を取れ」
2度目のツグト君からの誘い。他の大使たちが怯えたような顔で脇によけ、カーペットの上に立つのはツグト君とその大使の2人だけ。胸に勲章をいっぱい着けた大使は、顔をしかめてツグト君を睨みつけたけど、結局手を伸ばし、床に落ちた剣を拾い上げた。
おとぎ話によると、勇者様は召喚された当初、剣の扱いも知らなかったっていう。それが剣を習い、訓練を繰り返すごとにめきめきと上達して、あっという間に達人の域になったんだとか。
オレが知ってるのはおとぎ話でしかなかったから、ホントのことはよく分かんない。剣の指南はして貰ったけど、試合をした訳じゃないし。そのスゴさまでは知らなかった。
ツグト君と軍人らしい大使が、向かい合って剣を掲げる。最初にカツンと打ち合わされる剣。
謁見室の中にはひたすら緊張が走ってて、誰も口を開く者はない。
オレはぎゅっと胸の前で両手を握って――でもその次の瞬間には、キンッて音と共に、大使が剣を落としてた。
「は……?」
訳分かんないって顔で声を上げたのは、剣を落とした大使だ。オレには何があったか、どんなやり取りがあったか、それすら何も見えなかった。
「何だ、しっかり持っとけよ」
ふん、と鼻で笑いながら、ツグト君が剣を持つ手を下に下げる。
「もっかい。ほら、拾え」
嘲るような彼の声に顔を歪め、大使が再び剣を拾った。
最初にカツンと剣が打ち合わされ、そしてツグト君が剣を振るう。
今度のやり取りはちゃんと見えた。大使の持つ剣にツグト君がひょいっと剣を打ち付けて、そのたった1回で、大使の剣が宙を舞った。
キンッ、と高い音。カツンと剣の落ちる音。
「そんだけか!」
呆然とした顔の大使に向けて、ツグト君がビュッと剣を横に振るう。それと同時にゴウッと風が渦巻いて、大使の体が何メートルか吹き飛んだ。
床にべたんと尻もちをつき、大使が恐れを含んだ顔でツグト君を見上げる。
謁見室の左右に別れてた貴族たちが、驚きにひゅっと息を呑んだ。
「魔族がいなくなったら、今度は人間同士で争いか? まったく、しょうもねーなお前らは!」
怒ったように声を張り上げるツグト君。その手の剣が、再びビュッと横に振られ、尻もちをついてた大使が更に後ろに倒れ込む。
「戦争やるんだって? いーぜ、掛かって来い! その代わりオレが相手になると知れ!」
キッパリとそう告げて、ツグト君が大使に剣をぐっと突き付ける。ツグト君はほとんど動いてないのに、大使は謁見室の入口の扉近くまで飛ばされてて、その手に剣なんかどこにもない。
こわばった顔で、隣国の大使が立ち上がる。
軍服も髪も乱れまくってたけど、気にする余裕はないみたい。ただ、言い返すプライドはあったみたいだ。
プライドっていうか、自信、かな?
「錆びついた勇者が1人いたところで、戦況が変わる訳もない!」
大使は笑みもなく言い放ち、そのままくるっと背中を向けて、大股で謁見室を去ってった。
バタン、と閉じられる扉の音に、ビクッと肩が無意識に跳ねる。
謁見室中にしんと沈黙が広がって、ただその中で、ツグト君だけが「ふん」と鼻を小さく鳴らした。
「錆びついた、ね……」
自嘲気味の言葉と共に、ゆっくりとカーペットの上を歩き、ツグト君が落ちた剣を拾い上げる。それを腰の鞘に収めると同時に、貴族たちがどうっと一斉に声を上げた。
それは歓声だったかも知れないし、ため息だったかも知れない。大使を挑発したことに対する、非難の声もあったかも。
「静粛に!」
宰相が声を張り上げて、貴族たちのざわめきが鎮まる。
オレは居ても立ってもいられなくて、玉座のある壇上を降り、ツグト君の元に駆け寄った。
「ツグト君っ」
「……ああ」
振り向いた瞬間のツグト君の顔は、ひどく冷たく暗かった。
あの地下室で、鎖から解放された直後みたい。たまんなくなってギュッと彼に抱き着くと、ふっと笑う気配がして、いつものようにポンと頭を撫でられた。
恐る恐る腕を緩め、彼の顔を見上げると、穏やかで静かな笑みを返される。
ツグト君はオレの肩に腕を回し、ぐいっとオレを抱き寄せて、それから持ってたままの剣を、貸してくれた近衛兵に返した。
「用事が済んだなら、部屋に戻る」
オレの肩を抱いたまま、ツグト君がじーちゃんを見上げて言った。その彼の言葉に、誰からも反対は上がらない。引き留める声もなかった。
部屋っていうのは、ツグト君のじゃなくてオレの部屋な訳だけど。それでも、「戻る」って言われたことが、今はちょっと嬉しい。
部屋に戻った後、興奮を鎮めるように抱かれたけど、それすらも嬉しいと思った。
ツグト君、前に暴走がどうとか言ってたけど……さっきみたいに挑発めいたことをしちゃうって意味なんだろうか? 確かにあれにはギョッとしたけど、あの大使はイヤな人だったし。ツグト君をバカにする発言してたから、ダメなことだとは思えない。
「ルーク、オレの側にいろ」
オレをベッドに縫い付けて、上から幾つもキスを落とし、ツグト君が耳元で囁いた。
体の中心を彼の肉に貫かれ、うなずいて広い背中に爪を立てる。
「オレの側から離れんな」
切羽詰まったような声は興奮が滲んでて掠れてて、それを聞くだけでぞくぞくした。
パレードもパーティも、ツグト君の隣にいたい。ずっといたい。オレの方こそ離れたくない。
「うんっ」
上ずった声で返事をすると、縋るように抱き竦められて、「ああ……」って甘えたため息が漏れた。
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