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ツグト君の指示もあり、オレとしても離れたくなかったから、それ以降はずっと側にいた。
といっても、ツグト君は図書室に行ったり、庭を散歩したり、オレの剣の稽古を見てくれたりするくらいで、後はずっとオレの部屋にいたから、そう特別なことじゃない。
図書室に行くまでの道中、やっぱり多くの人とすれ違ったけど、オレの隣で堂々と大股で歩く彼に話しかけるような人はいなかった。
あの謁見室にいたらしい貴族と出くわしたりもしたものの、ハッと息を呑まれるだけで、特別に何か言われたりってこともない。オレが一緒にいたからかも知れない。
「オレのこと、なんか噂になってねーか?」
謁見室での一件の後、ツグト君はまたちょっと気にしてたみたいだけど、じーちゃんから箝口令が敷かれてたらしい。侍従に訊いても、「いえ?」って首をかしげられるだけで、噂とかはなさそうだった。
近衛兵はさすがに事情を知ってたみたいだけど、あの場には同僚も多くいただろうし、そのくらいは仕方ない。
ただ、口にしないようにって上の方から言い含められてるみたいで、箝口令のこともそれで分かった。
ツグト君が、どうして噂を気にするのかは分かんない。過去に何かあったのかな?
そう思うと胸騒ぎがして心配で、ますますツグト君の側から離れられなくなった。王都でのパレードの間は、山車の上で手を振るツグト君の横にいたし、その後のパーティでもずっと彼から離れなかった。
パレードは多分、大成功って言えるだろう。
王都の民に向けて、どんな発表があったのかは具体的に知らない。ただ、ものすごく人気で、パレードの間は大歓声に包まれてたのは確かだ。
ツグト君に「笑顔でな」って言われてたから、オレも必死で笑みを作って、山車の上でみんなに手を振ったけど、正直そんだけでいっぱいいっぱいだった。
人々の顔なんて、ちゃんと見れる余裕もない。
オレを差して「あれ、誰?」とか言う声もあるんじゃないかと思ってたけど、そんな呟きなんて聞き取れないくらいの大歓声で、それを考えればよかったのかも。
王族らしい赤いマントにキラキラの格好をして、王族にしか許されない金環も頭に着けてたから、少なくとも王族の誰かだろうってのは分かったと思う。
じーちゃんや他の王家のみんなにとっては、勇者様の側に「鍵」である王族の誰かがいるってことが重要なんだと思うから、きっとオレが無名でも構わないんだろう。
ツグト君の盛装は、黒髪によく似合う漆黒のマントに白銀の衣装で、すごく似合って格好良かった。
銀糸でたっぷり刺繍された衣装は、陽の光を浴びてキラキラ眩しく輝いてた。
ツグト君の笑顔も、キラキラで眩しかった。
パレードの直前まで、陰鬱な固い顔してたのが嘘みたいな見事な笑顔だ。緊張で冷たかった手に力がこもり、すくっと立ち上がる様子は格好良くて、見惚れた。
勇者然とした爽やかな笑顔、堂々とした態度。隣でおろおろしてるオレとは大違いで、さすがだなぁって感心するしかない。
「お前、緊張し過ぎ」
パレードの後、カチンコチンになった頬に触れられ、ぶはっと笑われたけど、それに言い返す余裕もなかった。
自分だって緊張してたくせに。ちらっとそう思ったけど、口に出さないまま、「むう」と唸る。
「けど、側にいてくれて助かった」
ぽんと頭を撫でながら囁かれ、それにはちょっと驚いたけど、結局オレは口下手で。「うん」とうなずくくらいしかできなかった。
オレは、ツグト君の役に立ててるのかな? 「鍵」の役目って、何だろう? ツグト君を解放して、それで終わりってことじゃないよね?
「パーティでも、側にいろよ?」
オレの部屋に戻る道中、念押しされて「分かった」とうなずく。
城の端っこのいつもの静かなオレの部屋に入ると、オレもホッとしたけど、ツグト君もホッとしてたみたいだった。
パーティでもツグト君は、堂々と勇者様らしく振舞ってた。パレードの時と同じ白銀の衣装が、シャンデリアの灯りを受けてキラキラと輝く。
ツグト君の笑顔もやっぱりキラキラで、爽やかで眩しい。
パーティ会場に来てた、豪華に着飾った貴族令嬢たちがきゃあきゃあ騒いでたけど、それに気圧されることもない。
ただ、そういう令嬢方に近寄ることもなかった。
ダンスを求められても「すみません」ってキッパリ断ってたし、話しかけられても素っ気ない。オレの背中にずっと腕を回したっきりで、隙を見せようともしなかった。
前に、結婚できないがどうとか言ってたけど、そのせいもあるのかな?
けど素っ気ない態度でいたのは、令嬢方に対してだけじゃなくて、同年代の子息たちにもそうだった。
「あちらで話しませんか?」
「ルーク殿下も、少し休憩されたいのでは?」
そんな風に言われて、オレと引き離そうとする人もいたけど、ツグト君は「いえ」ってキッパリ断って、オレの側にいてくれた。
王族として無名で、後ろ盾もないオレじゃ、風除けとしては不足なんじゃないかと思ったけど……そんなんでも、いないよりはマシだろうか?
オレはおろおろするだけで、ただ側にいるしかできなかったのが恥ずかしい。
「お前、顔真っ赤だぞ」
ツグト君にからかうように言われ、ギクシャクとうつむく。
こういうパーティは初めてじゃない。ただ、いつもは隅っこで目立たないように過ごしてたから、注目を浴びるのが慣れなくて困る。
「風に当たろーぜ」
促されてバルコニーに出てから、ようやくホッとして息をつく。ツグト君もホッとしたのかな? それとも、オレの部屋くらい静かな環境の方がいい?
「今んトコ、みんな好意的だな」
ふん、と鼻で笑うツグト君の顔を、ちらっと見上げる。
その整った顔は皮肉気に歪められてて――いつかみんなが好意的じゃなくなることを、なんでか確信してるようだった。
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