アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
14
-
前線まで5日の予定だったけど、それは1日早まった。なんでかっていったら、敵が更に王都方面に向けて進軍し、街をもう1つ落としてたからだ。
駐留するハズだった街の大門は閉ざされ、高くそびえる外壁には敵兵がうようよしてて、オレたちに向けて一斉に矢を射ってくる。
街が占領されたっていう報告を受けたのは到着する直前のことで、当然だけど何の準備もできてない。
まさか自分の国内で、攻城戦をするなんて思ってなかった。国内の街の堅固な壁を破らなきゃいけないなんて予想外だ。
どこの国でもそうだと思うけど、こういう主要で大きな街には高くて厚い壁がある。それはかつて、魔族や魔物から領民を守るためのものだったんだって。
森や山に近い町や村から、魔族や魔物は襲ってくる。そういう襲撃に遭い、命からがら逃げてきた町民や村民を、外壁のある街が受け入れる。外壁が高くて厚ければ、魔物も魔族もなかなか街を攻められない。
街門を閉ざし、外壁から矢を射かけたり石を落としたりして、魔族の侵入を阻んだって習った。そうして抵抗を続けつつ、周辺の領地や王都から援軍が来るのを待ったんだって。
勇者様たちのお陰で魔族も魔物もいなくなってからは、その壁は外敵から人々を守るために使われた。
魔族の侵攻すら阻んだものだから、壁も門もかなり強固だ。
敵国の侵攻も防いでくれると思ってたから、まさかそれが自分たちの前に立ち塞がるとは思ってなかった。甘かった。
街をぐるりと囲む外壁の中で、一番弱い部分はって言うと、やっぱり門になるだろう。街門はオレたちのいる王都側と、それから国境方面に向かう反対側とにあったハズだ。
こっち側の街門はびっちり閉じられてるけど、偵察に行った兵士からの報告によると、向こう側は壊され、その破壊跡を瓦礫や丸太なんかで塞がれてるらしい。
街門を破るって、破城鎚とか用意してあったんだろうか? 国境の砦も、そうして大掛かりな攻撃で破ったのかな?
そういう攻撃手段を短期間に用意できるのって、さすが軍事国家、侵略国家だなって思う。
侵略に慣れてる。
そんで、本気だ。本気でこの国を侵略し、取り込もうとしてるんだ。
「どう……したら?」
ここまで同行して来た将軍に恐る恐る意見を求めると、渋くて暗い顔を向けられた。
「攻めるしかありません。だが、街自体に籠城の備えはない。早く開門させ民を救助しなければ、多くの死人が出るでしょう」
多くの死人って聞いて、情けないけどビクッとした。
「敵は、我が国の民の命など気にかけてもいないでしょうしなぁ」
誰かの意見に、「ああ」と顔をしかめてうなずく将軍。そういえば、街から逃げてきた人は見かけなくて、人質になってる可能性もあるって分かった。
何のための人質かって、それは多分、勇者様への牽制だろうって話だ。
多くの民衆の支持を受ける、おとぎ話の主人公。救国の英雄。正義の味方。その勇者様が街の住民たちを見捨てるとか、有り得ないだろう、って。挑発してる意味もあるし、脅してる意味もあるだろう。
或いは、民衆の多大な人気を勇者様から引き剥がす狙いもあるかも知れない。
オレと並んで将軍たちにその話を聞かされたツグト君も、「まあ、そんなとこだろーな」って、予想を否定はしなかった。
街壁からの矢が届かない位置で陣を張り、王都のじーちゃんや周辺の領主たちに事情を報告して援軍を求める。
何人もの使者が早馬を駆って出て行って、最初から少数だった兵士の数はますます減った。
その目の前の街門から隣国の使者がやって来たのは、夕方になる頃だ。
陽が傾き、空が茜色に染まる頃に2人の兵を伴って訪れた使者は、すごく不遜でエラそうな態度で、勇者様の引き渡しをオレたちに申し付けて来た。
「いかに勇者が強くても、1人で1軍を相手にはできますまい。数千の民の命と、勇者1人の命と引き換えです。悩む必要はないでしょう」
将軍にも王子であるオレにも頭を下げるそぶりはなく、その使者はニヤニヤ笑いながら言うだけ言って戻ってった。
勿論、即答はしなかった。
ツグト君を敵に引き渡すなんて有り得ないし、そもそもそんな卑怯な侵略国家が、口約束を守るとも思えない。
使者は「夜明けまでにご返答を」って言ってたけど、そんな一方的な言い分は突っぱねるしかなかった。ただ、それをしなかったのは、時間稼ぎの意味もあるみたい。
こっちはたった50人だし、街の中にいる敵兵の数はまだ分かんない。街壁に詰めてる兵の数だけでも、ざっと見てオレらより多いし、きっと中にはもっといるんだろう。
今、逆に打って出て来られたら全滅もあり得る。
ツグト君がいる限り、さすがに全滅はないかもだけど、数倍の敵に囲まれて全員が無事でいられるとも思えない。
援軍が必要だと思った。将軍もオレと同じ考えだった。
ただ、ツグト君は違ってた。
「夜更けに攻めるぞ」
オレたちの前に立ち、自信満々に言い切った。援軍を待つ必要はないって。敵の言い分を聞く必要もないって。
「門ならオレが破ってやる。敵兵もオレ1人が相手する。お前らは、その隙に民衆を助けりゃいい」
自信に満ちた顔、堂々とした態度。揺るぎない口調はいつも通りで、それがホントにできるって、自分で疑ってもないみたい。
「照明弾もねーし、サーチライトもねぇ。暗闇を明るく照らすこともろくにできねぇ。こっちじゃ、夜に戦うって発想がまずねーだろ? まあ、ちょっと敵の数は多そうだけど、どーせザコばっかだし。夜襲すんのが1番だ」
ツグト君は淡々とそう言って、オレの手をぐっと握った。その手は普段通り温かくて、緊張とか何もしてないみたいだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 32