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周辺の領主からは約束通り、夜明けに援軍が送られて来た。
破られた門を見てざわざわとはしてたけど、敵は撤退した後だし戦闘もなかったから、そんなに混乱はしなかったと思う。
「追撃した方がいーんじゃねーの?」
ツグト君はそう言ったけど、撤退があっさり過ぎたから罠なんじゃないかって意見もあって、決まらない。結局斥候を送って、様子を見てから軍を動かそうってことになった。
こういうトコ、ツグト君はあんま気に入らないみたい。
「及び腰でどーすんだ」
って皮肉気に笑ってて、側にいてヒヤヒヤしてしまう。
「お前は何も意見とかねーの?」
そう言われても、オレには指揮権も何もないし、実戦経験すらないから、口を出す事すら難しい。
一応王族ではあるけど、成人と同時に臣籍に下るつもりでいるから、王子としての振る舞いにも慣れてない。人を従わせるとか、無理だ。
オレのそんな態度ももどかしく思うんだろうか。ツグト君に「ふーん」ってため息をつかれて、じわっと胸の奥が痛んだ。
将軍たちには長年の勘とか経験による考えとか、いろいろあるのかな? 兵士のみんなはどうなんだろう?
ツグト君の戦いぶりを見て、さすが勇者様だって感心した?
王子であるオレが側にいるせいか、みんな遠巻きにするだけで近寄って来ない。別にちやほやされたかった訳じゃないし、ツグト君もそんなの求めてないだろうけど、なんだか変な感じ。
戦闘終了後、わあってツグト君を囲んだりするのかと思ったけど、そんなこともなくて、正直肩すかしだった。
でもツグト君にとっては、そんなみんなの態度の方が当たり前なんだって。
「ツグト君っ、スゴイ!」って笑顔で抱き着くオレみたいな反応の方が珍しいって言われて、意味が分かんなかった。
「分かんなくていーよ。お前はそのままでいろ」
ふっと苦笑して、オレの頭を撫でるツグト君。周りから遠巻きに見られてることも気にしてなくて、オレの方がハラハラする。
ただ、助けられた民衆はあちこちで「勇者様バンザイ」って騒いで称えてて、それだけはホッとした。
街の住民たちは、自分ちにずっと閉じこもりきりで無事だったみたい。
領主一家は残念ながら死体で見つかったけど、何の責任もない住民たちが無事だったのはよかった。
敵が去ってから改めて街を巡回すると、攻め込まれた時にも激しい戦闘があったのが分かる。ツグト君が破壊した門ほどじゃないけど、国境側の街門も大穴が開けられ、打ち壊されてた。
なんで住民たちが、他の街に避難しなかったかも分かった。街が攻め込まれてすぐ、王都に近い側の、つまりツグト君が壊した方の門も敵兵に制圧されて、門を開けて貰えなかったんだって。
領主一家を逃がさないようにっていう措置だったのかも知れない。敵の考えはよく分かんない。
国境側にある街門や街壁、門に近い建物はひどく壊されてて、蹂躙戦があったんだなぁって分かるくらいだ。
近隣から来た援軍の兵士たちは、数人ずつのグループに分かれて巡回し、敵の残党がいないかどうか調べてる。
この解放戦の結果を、王都や近隣に知らせるための早馬の使者も出た。
将軍たちは、援軍の将軍たちと朝から軍議に入ったままだ。
時間だけがじりじりと過ぎる中、国境側の街壁に登って、周囲を見る。敵の姿はもう見えない。敵陣が張ってるのも見えないから、きっとこの街を再び攻める気はないんだろう。けど。
「妙だな」
ツグト君の呟きに、ドキッとした。
「そんなあっさり撤退するようには見えねぇ。今頃進路を替えて、他の街を襲ってんじゃねーか?」
「他の街って……」
ドキドキしながら頭の中で、この辺りの地図を思い浮かべる。
国境からまっすぐ続く街道上には、ここ以外に大きな街は他にない。周りには小さな町や村が幾つかあるけど、侵略の拠点にはなりそうにない。
それとも、近隣の領土が今度は襲われるんだろうか?
「避難民が少な過ぎんのも妙だ」
ぼそりと続けられるツグト君の呟き。
「避難民?」
「広場の焚き出しに集まってる連中が少ねぇ。近くの町や村からは来てねーのか?」
ツグト君の問いに、答えられる程の情報は持ってなかった。
彼の横に立ち、街壁の上から戦闘の終わった街を見渡す。オレ、敵兵の姿がないかどうかしか見てなかった。なのにツグト君は別のことを考えてたみたいで、さすがだなぁって思う。自分が情けないなぁとも思う。
オレも軍議に顔を出して来た方がいい? ツグト君の考え、将軍たちに知らせた方がいいのかな?
やっぱりツグト君の言う通り、すぐに敵軍を追い駆けて追撃した方がよかったかも?
せめて後を追い駆けて、敵の動きを調べればよかった。ああ、でも、それは斥候が調べてくれてるのかな? 報告はまだなのか?
「あ……」
ツグト君の声に振り向くと、彼は街壁の外側の方に目を向けてた。慌てて駆け寄り側に向かうと、彼の視線の先に遠く、馬が1頭こっちに駆けて来てるのが見えた。
斥候かなって分かったのは、王都から一緒に来た兵士たちと同じ軍服だったからだ。
マントを翻し馬を早駆けさせたまま、味方の兵士が街門をくぐる。破壊されたままの門には、今は兵士が見張りに立ってるだけで、馬を止める扉はない。
「行くぞ」
ツグト君に促され、急いで街壁の石段を降りると、その兵は軍の本部の建物の前で馬を降り、慌てた様子で本部の中に入ってった。
兵を追うように後に続き、本部に入ったオレの耳に届いたのは、「報告します!」って叫ぶ兵の声。
「近くの町、村はことごとく蹂躙され全滅! ほぼ同時に襲撃を受けたようで、避難できた者はいない模様です!」
斥候の報告に、将軍たちが次々イスから立ち上がる。
「何だと……!?」
将軍はそう言ったっきり絶句して、言葉も見付からないみたい。けどオレも、何も口に出せなかった。頭が真っ白になって、今聞いたばっかの報告がちゃんと理解できてない。
ただツグト君が、オレの隣でちっと小さく舌打ちする音が鼓膜を打った。
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