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斥候からの報告を聞いて、すぐに近くの町に馬を走らせた。
町はヒドイ状態だった。町を囲う石壁は打ち崩され、家々は焼かれて、あちこちから煙の嫌なニオイがする。街門近くの建物もヒドく壊されてたけど、ここの破壊はもっとヒドイ。
穀物庫らしい建物も襲われてて、食料が奪われたんだって分かる。
なんで? 撤退に必要だからかな? でも、だったら破壊しないで穏便に、物資だけ徴収することもできたハズだ。そうしなかった理由はオレには分からない。それがあの国のやり方なのかも。
周りの国々に次々侵略戦争を仕掛け、国土を拡げてった軍事国家。侵略を続けるって、こんなに無慈悲にならなきゃできないんだろうか。そうまでして、なんで国土を拡げたいんだろう?
逃げようとした町民たちの死体が、通りのあちこちに倒れたまま放置されて転がってる。焼かれた家の中にもある。逃げ遅れた人が多いのは、夜の内に襲撃されたからだろうか。
「生存者はいないか?」
「我々は王都から来た軍の者だ!」
兵士たちが大声を張り上げ、馬を走らせて町を回る。
幸い、路地裏や破壊を免れた建物の中から生存者は見つかったけど、赤ちゃんや幼子を含めて十数人しかいない。
「魔物の襲撃よりヒデェ……」
ツグト君がぽつりと呟いた言葉が、すごく印象的だった。
他の町や村も同様だった。近隣を全て見て回った訳じゃないけど、2つ3つこの目で見れば、他も一緒だろうって悟らずにはいられない。
血の浸みこんだ大地、煙混じりの嫌なニオイ。破壊された門、焼かれた家。それぞれ生存者は少数ながら見付かったけど、「よかったね」なんて言えなかった。「仇を取る」とも言えない。
こんな時はホントは、おとぎ話の勇者様から勇気づけて貰うのがいいのかも知れない。けど、暗い顔で黙り込んじゃったツグト君に何もかも押し付けるのはイヤだったから、オレが王子として頑張った。
名前なんて知られてない王族の端くれでも、王家の紋章の入ったマントや金環があると、それらしく見えるみたい。
将軍に、何も話す必要はないって言われたから、ただ黙って生き残ったみんなの手を取った。
「ああ……王子殿下」
「見捨てられた訳じゃないんですね……」
涙ながらに訴えられて、精一杯笑ってうなずいて見せる。
無力だなって思った。みんなに何の約束もできないのが辛い。オレたちにできるのは、荷車に彼らを載せて街へと連れてくくらいだった。
街に戻ることはしなかった。
無言で国境の方へと向かおうとするツグト君を、引き留めることは誰にもできない。王都から一緒に来た将軍や兵士と一緒に野営をし、そのまま馬を走らせる。
街に集まってた援軍も、後から合流して来た。
これからどうするのかなんて、誰も口にしない。ただ、暗い顔で前を見るツグト君に付き添うしかない。
「ツグト君……」
彼の横に立ち、そのヒジを軽く引く。ツグト君の手はぎゅっと固く握られたまま、かすかに震えててぞくっとする。恐怖に震えてる訳じゃない。怒りに震えてるんだって分かる。
敵への怒りかな? 無力な自分への怒り? それとも……人間に対する怒りなんだろうか?
「しょーもねーな」
ぼそりと短く呟かれる言葉が、まるでオレに言われたかのように胸に刺さった。
「人間ってヤツは、どこまでもしょうもねぇ。平和な世界なんか、どこにもねぇ」
「う……ん」
ツグト君を宥めるように、こわばった拳をそっと包む。その手を振り払われることはなかったけど、握り返しても貰えない。
顔を上げ、前を見つめ、濃い眉を険しくひそめて、ツグト君は淡々と低い声でオレに言う。
「オレはこっちに来るまで、ただの普通のガキだった」
「うん」
「力もなかったし、剣を握ったこともねぇ。剣自体、見たこともなかった」
「うん……」
淡々と告げられるツグト君の過去。それは前に聞いたことがあったけど、あまりに遠くて難し過ぎて、よく分かんない話でもあった。
ツグト君の世界でも、人と人の戦争はあるんだって。バクダンとかジライとかタイリョーハカイヘイキとかで、もっと被害はヒドイんだって。でも、ツグト君は実際に自分の目で、それを見たことはないんだって。
「この世界に呼ばれて、勇者だなんだって勝手なこと言われて、剣を持たされて、毎日稽古させられた。元の世界には帰れねぇっつーし、魔族を倒しても倒してもキリがねーし、夜もろくに寝られなくて、ヘトヘトだった」
ツグト君の言葉に「うん」とうなずく。
「随分恨んだこともある。っつーか、今でも恨んでる」
「う……ん」
恨み、って言葉にドクンと心臓が跳ねたけど、それを口に出すことはできない。
この場にいるのはオレと彼の2人だけで、その恨み言を聞く人はいない。
「でも、ちょっとは感謝しねーとな。敵を屠れる」
ぼそりと告げたツグト君の声は、すごく冷たく厳しかった。おとぎ話の勇者様にふさわしいとは思えない、冷酷な一面。けど、魔族や魔王を斃すためには、そうでなきゃいけなかったのかも。
敵にはきっと、容赦しないんだろう。しちゃいけなかったんだろう。当時の敵は魔物や魔族で。言葉も心も、きっと通じ合ったりはしなかった。
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