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目を覚ますと、天幕の中だった。
体のあちこちが軋むように痛い。起き上がると下半身、特にお尻のあたりは痺れたようになってて、何が起きたかを思い出す。
「オレ……っ、ごほっ」
声を出そうとすると、ノドが枯れてて声がおかしい。オレ、叫び過ぎだった? 無意識にノドに手をやると、そこには包帯が巻かれてて、手当されたんだなぁって分かる。
服も、窮屈な軍服を脱いだラフな格好だ。
よく見ると布団代わりに被ってたのは、王家の紋章の入ったオレのマントで、枕元にはちゃんと軍服もあってホッとした。
……ツグト君はどこだろう?
まだ体は痛むし目眩もするけど、彼の事を思うとゆっくり寝てもいられない。
もそもそと軍服を着込み、そっと天幕の外に出る。そしたら周りは瓦礫だらけで、あの崩壊した砦の近くなんだって分かった。近くには、警備の兵もいたみたい。
「ルーク様、起きてよろしいのですか?」
心配したように声を掛けられて、食事の支度をしてくれた。
食事っていっても砦はこんな状態だから、簡素なスープと固パンだけだ。スープを飲むと、ますます体が空腹を思い出したみたいで、ぐぅ、とみっともない音が鳴る。
兵士は笑ったりしなかったけど、ちょっと気まずい。
考えてみれば、昨日の朝に街を出立してから、ほとんど何も食べてなかった。それどころじゃなかったんだし、当然だ。
「あの、ツグト君は?」
気まずさを誤魔化そうと訊くと、兵士は「勇者様は……」って言葉を詰まらせ、ためらうように目を伏せた。
その顔に恐れが浮かんでるのが分かって、じくっと胸が痛くなる。
ツグト君は、まだあそこに鎖で繋がれたままでいるらしい。でも、周りには誰もいないって。
「1人にしてくれと、おっしゃられたようで……」
兵士の言葉に「そうか……」とうなずく。居ても立ってもいらんない気分だったけど、まずは食事を取らないと動けそうもなくて、固いパンをスープで流し、もくもくと腹に詰め込んだ。
食事が終わる頃、王都から一緒に来た将軍も顔を出した。
「ルーク様、ご気分は?」
痛ましそうな目を向けられると、どんな顔すればいいのか分かんなくなる。
「贄が必要とはいえ、まだご成人もされていないのに……」
ぼそりと呟かれた「贄」って言葉に、ドキンとした。贄ってオレのこと? 「鍵」になるって、生け贄になるってことなの、か?
まさか将軍に、面と向かってそんなことは訊けない。けど、なんでオレが選ばれたのか、そう考えると納得もできる。オレが、都合のいいヤツだから、だ。
王位継承順位も低くて、権力もなくて後ろ盾もなくて、成人したら王族の籍を抜けることになってて、そのくせ直系の血は引いてて。生きてても死んでても、誰も文句を言うことはない。生け贄にするのに、こんなに都合のいいヤツはいない。
じーちゃんは、オレのためにもなるって言ってたけど……その真意は分かんない。
けど、でも、「鍵」になったことに不思議と後悔がないのは確かだった。だって、「鍵」にならなければツグト君に会えてない。あの時ツグト君を止められたのは、オレが彼の「鍵」だからだ。
隣国との戦争は、一時休戦って状態らしい。侵略軍はほぼ壊滅したし、うちの方の追撃もあって、こっちに有利で講和に持って行けそうだって。
ツグト君の暴走は幸か不幸か、かなりの抑止力になったみたい。でも、「お陰様で」って言われると複雑だ。
このまま国境に留まる気にもなれない。ツグト君はどうだろう? どうしたいって言うだろう?
将軍との会話を終えると、オレは痛む体を引きずりながら、瓦礫を越えてツグト君の元に急いだ。
ツグト君は、昨日オレが彼を引き留めたあの場所に、鎖に繋がれた状態でヒザを抱えるようにして座ってた。
城の地下室のあの狭い空間で、闇の中で、同じようにして座ってたの思い出して胸が痛む。このまま鎖で繋いだままになんて、できる訳がない。
「ツグト君っ」
声を上げて駆け寄ると、ちゃりちゃりと音を立ててツグト君が顔を上げた。
「何だ?」
暗い声での返事にドキッとしたけど、構わず駆け寄り鎖に触れる。地面から伸びてた太い鎖は、地下室の時と同じくオレが触れた途端に砕け散り、跡形もなく消え去った。
「ツグト君っ!」
彼が立ち上がるのを待たずに抱き着くと、「おいっ」って焦ったように文句を言われる。その声にさっきの暗さはなくて、ちょっとだけ嬉しい。何もかも安心したって訳じゃないけど、ツグト君がツグト君のままで嬉しい。
「ごめん」
ぎゅうっと首元に抱き着いて謝ると、「何がごめん?」って静かに訊かれた。
鎖にごめん、1人にしてごめん、戦争にごめん、止めたこともごめん。何より、あんな顔させたことにもごめんって謝りたい。けど、それをどう言えばいいのか分かんなくて、再び「ごめん」と繰り返す。
「謝んのはオレだろ?」
静かにそう言われたけど、それには首を振って否定した。
ツグト君が謝ることなんか、何もない。もしかすると、昨日の無理矢理のアレのことかも知れなかったけど、「対価」なんだから当然だ。
それに、イヤじゃなかったからイイ。
「オレが怖くねーの? 見ただろ、大量破壊兵器だぜ」
ふん、と皮肉気に鼻を鳴らすのが聞こえたけど、それにもオレは首を振った。
「ツグト君はツグト君、だ」
オレの言葉に返事はない。
「……帰ろう?」
抱き着いたまま口にすると、「どこへ?」って訊かれて、今度はオレがそれにうまく答えられなかった。
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