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暗殺とか毒殺みたいな事件は幸い起きなかったけど、その代わりオレの部屋にまで押しかけようとする人は多くなった。
名前もよく知らないような貴族とか商人、有力者、今までオレに見向きもしなかったご令嬢。こっちに忍び込もうとした女官なんかもいたらしい。
オレ、成人して王族でなくなるまで結婚とか、そういうのできないハズなんだけど、みんな分かってないのかな?
それとも、臣籍に下ることもできなくなるんだろうか?
ツグト君に面会を求める人については、今までじーちゃんが止めてくれてた。けど、オレに面会を求める人は、じーちゃんなんて関係なしに現われて、部屋の外にまで押しかけてくる。
ツグト君の存在がお披露目されてから随分経つし、オレもツグト君もしばらくこっちにいなかったから、その間にオレたちの居場所が知られちゃったのかも。
ここは王城の隅っこで、静かでひと気もなくてのんびりした場所だった、のに。ここ数日は騒がしくて、なんだかオレの部屋じゃないみたいで落ち着けない。
素振りしようと庭に出るのもためらうし、部屋にばかりいると気が滅入る。
オレ付きの侍従や、部屋の外に立つ近衛兵にも申し訳ない。
オレの部屋を訪れようとする人と、「お約束がないので」と断る侍従や近衛兵とが揉める声が、部屋の中にまで聞こえて来て、ため息しか出ない。
そんな中で事件は起きた。
夜中、オレが眠る部屋に、こっそり忍び込んで来た女の人がいたんだ。オレの寝室にまで入り込み、オレの眠るベッドに入り込もうとしたところで――そこに一緒に寝てたツグト君に阻まれた。
刺客だったのか、夜這いだったのかは分かんない。薄いネグリジェ姿だったけど、夜這いに見せかけた暗殺者かも知れない。
ただ、ツグト君が一緒だって知らなかった時点で、事情通って訳じゃないのは分かる。
彼女が忍び込んで来てすぐ、オレはツグト君に起こされてた。
「誰だ?」
ひどく冷たいツグト君の声。
ベッド脇の燭台に火を点けると、闇の中にオレたちの姿が浮かび上がる。
ツグト君に剣を突き付けられたその女性は、ツグト君の姿を見るなり、「キャアアア」と大声で悲鳴を上げた。
「化け物! 化け物がなぜ殿下の部屋に!」
彼女の叫び声を聞いて、侍従や近衛兵が遅ればせながら駆け込んでくる。
「ルーク様!」
「何事ですか!?」
「侵入者だ!」
重なるように部屋に響く怒声。灯りが1つ2つと持ち込まれ、闇が薄くなっていく。
駆け付けた近衛兵たちに、侵入者の女性はあっさり掴まって連れて行かれた。けど、その間も「化け物!」って大声で罵るのはやめなかった。
「お前なんか人間じゃない」
って。
「出てけ!」
って。
「出て行くのはお前だ。一体どうやって侵入した!?」
近衛兵が女性を怒鳴り付けながら、オレの寝室から引きずり出して行く。兵の1人は寝室の窓を改め、ドアや納戸を改めて、安全を確認してから頭を下げて去ってった。
「ルーク様、ご無事ですか?」
部屋付きの侍従が気遣うように声を掛けてくれたけど、曖昧にうなずくくらいしかできない。
化け物、って言葉がショックだった。
剣を構えた格好のまま、固まったように動かないツグト君の姿に不安が募る。
ツグト君は今、外で何て噂されてるんだろう? 隣国の侵略軍を撃退してくれた勇者様のこと、化け物なんて罵る人なんて、そんなにいないよ、ね?
侍従とツグト君とをを前に何も言えないで戸惑ってると、侍従は何かを察したように、黙って礼をして出て行った。
「ふん……」
ツグト君が鼻を鳴らして笑ったのは、2人きりになってからのことだ。
「……まあ、そーだよな」
吐き捨てるような言葉には絶望と嘲笑と、それから諦めが垣間見えて、胸が痛む。
「ツグト君っ」
思わず抱き着いたけど、抱き返しては貰えない。
「1人にしてくれ」
「やだっ」
苦々しく告げられた願いを反射的に断って、抱き着く腕に力を込める。ツグト君はそんなオレに、また「ふん」と鼻を鳴らして頭を撫でてくれたけど、やっぱり抱き返してはくれなかった。
王族の会議に呼ばれたのは、そんな事のあった翌日だ。
「ルーク、昨夜は大変だったようだな」
じーちゃんには労われたけど、会議室の空気はひどく冷たい。オレに向けられる視線も冷たい。
一緒に呼ばれたツグト君の手をギュッと握ったままだったけど、そのツグト君の手も冷たくて、足元がぐらぐらした。
そこで聞かされたのは、近衛兵に連れて行かれた侵入者の女性のことだ。
「彼女は勇者殿に襲われたと証言している」
それを聞いてビックリした。
「ええっ、でもそれはっ!」
さすがに反論したけど、「分かっておる」っていなされる。
じーちゃんも、そして会議室に集まってる王族のみんなも、大臣たちも、あの女性の言い逃れだってちゃんと分かってるみたい。問題はそれじゃないんだって。
問題は、ツグト君を危険視する人々がいることなんだって。
「勇者は封印すべきだ」
カタンとイスから立ち上がり、王族の1人が固い声で言った。確かお父さんのイトコだったか、オレ程の末席じゃないけど、王位継承順位の低い人。
「ルーク王子に『鍵』が務まるとは思えない。現に国境で暴走させたというではないか」
「『鍵』の役割から外すべきでは」
「城の中で再び暴走したらどうなる?」
数人の王族が次々とイスから立ち上がり、拳を振り上げてオレを見る。
ビクッと肩が跳ねるのを止められない。
ツグト君の手は冷たいままで。
「あの、オレは……」
必死になって絞り出した声は、情けないくらい掠れてた。
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