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どうしてみんな、ツグト君をそんな風に悪く言うのか分かんなかった。
「放っておけば、新しい魔王になりかねん」
とか。
「コントロールできない力は持つべきじゃない」
とか。
「でもそれは、戦争だったからで……」
必死に言い募ろうとしたけど、元々オレは喋るの得意じゃないし、大勢の前でうまく説明なんてできそうになかった。
「あの地割れを見て、まだそんな甘い考えをしてるのか!」
大声で怒鳴られて、びくりと肩が跳ねる。
あの地割れって。じゃあもう何人もの人が、あそこに見に行って来たんだろうか。確かにオレたちが戻ってからかなり経ってるし、戦後処理もあったから、不思議なことではないのかも。
「でも……」
胸の中にモヤモヤが募る。
ツグト君のことは強く非難するのに、町や村を蹂躙した敵国のことは避難しないの? 人をいっぱい死なせたのは、その原因を作ったのは、あっちなのに。ツグト君を怒らせたのだって、そうなのに。
「じゃあ、なら、侵略された方がよかったんですか? そういう意味ですか?」
納得できない感情がぐるぐる胸にうずまいて、いつも以上にうまく喋れない。言葉が詰まって、息が詰まる。
「っ、敵より、彼の方が悪いとでも言うんですか?」
じわっと浮かぶ涙をぬぐい、ツグト君の手をぎゅっと握る。
オレの隣に立ったまま、さっきから何も言わないツグト君が遠い。舌打ちもため息も聞こえない、彼の気持ちが分かんなくて怖い。
でもそれより、会議室に立つ王族たちの言い分が怖い。
「どちらがより危険かを考えれば、そうだ」
って。
「暴走の可能性がある限り、安心はできん」
って。
拳を振り上げながら強い口調で非難する彼らを、どうすれば言い負かせるか分かんなかった。ただ、腹が立ったし悔しかった。
「ツグト君は危険じゃない! 彼は人間だ。タイリョーハカイヘイキじゃないし、魔王でもない! 敵対しない限り、ツグト君が敵対することはないのにっ!」
感情のままに叫び、立ち上がってる王族じゃなくて、1番奥に座ったままのじーちゃんを睨む。
「敵対とは……」
「やはり恐ろしい……」
誰かが口々に言ってたけど、もうオレの耳には入んなかった。耳に入れる価値もない。
うるさい。それ以上喋んないで。ツグト君を非難しないで。
自分たちの都合で、ツグト君を元の世界から呼び出して魔王と戦わせて。今度だって、戦争を回避するためにって利用して。なのに、敵の脅威が去ったら、またツグト君を封印しようとしてる。
そんな勝手なこと言っていいの? 許されるの? そしてまた封印したツグト君を、いつか同じように利用するの? 永遠にそれを繰り返すの?
ツグト君は伝説の勇者様なのに。
もしかしてこれが、魔王の呪いなんだろうか?
「ツグト君は、誇っていい……」
もう涙を我慢することができなくて、ぼろぼろと頬が濡れた。片手でぬぐってもぬぐっても追いつかなくて、情けなくて悔しかった。何の力もないのが悔しかった。
王子だっていったって、権力も何もない。
19番目から5番目に上がったとしても、きっとそれは同じだろう。オレの言葉なんて、誰も聞いてない。
「ああ」
こそりとオレだけに聞こえる声で、ツグト君が低くうなずく。
ツグト君は誇っていい。勝ち誇っていい。その武勇を。その力を。その正義を。勝ち誇っていい。
ぼろぼろと溢れる涙で、視界が歪む。じーちゃんの顔も、もう見えない。
「オレは、ツグト君を信じてる」
キッパリと告げたオレの言葉に、「分かった」と応えたのはじーちゃんだった。
「もうよい、この件は終わりにする」
じーちゃんの宣言に、ツグト君を非難してた王族がざわめき、じーちゃんの方に向かう。彼らに囲まれながらじーちゃんはオレに手を振って、ここから下がるよう合図した。
オレもこの部屋にはいたくなかったから、素直にそれに従った。
丁寧に一礼する気も起きなくて、ツグト君の手を握ったまま、ぷいっとその部屋を後にする。
実際は泣き泣きだったし、そんな格好いいモノじゃなかったけど。でも、気持ちだけでも高くありたかった。
「ありがとな」
静かに礼を言うツグト君の声が優しくて、胸が痛んでどうしようもない。
廊下を進む間も、みんながオレたちを遠巻きにしてるのが分かる。それは王族であるオレが一緒だからでも、オレが泣いてるからでもない。ツグト君を避けてるんだと――予想がついて、ズタズタな気分に陥った。
オレ付きの侍従や近衛兵が、態度を変えないのだけが救いだった。
「すぐに湯の用意を致しましょう」
泣き顔のオレを見て、侍従が急いで準備を始める。
冷たいタオルで顔を冷やしても、さんざん泣いた顔や目元はヒリヒリしたまま、なかなか治まってくれなかった。
ぬるいお風呂に入ってようやく息をついたけど、気持ちがホントには休まらない。
これからどうしよう?
……どこに行こう?
どこに行ける訳でもないのに、ぼんやりとそんなことを考える。ここじゃないどこか、遠くに行ってしまいたい。
「ルーク、来いよ」
ツグト君に誘われて、真っ昼間だっていうのに一緒にベッドに横たわる。侍従も近衛兵も、部屋からは既にいなくなってて。
「ツグト君……」
オレは甘えるように、彼の力強い腕に縋り付いた。
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