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28 (R18)
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「ツグト君?」
とろんとしつつ、目の前の整った顔に手を伸ばす。頬に触れると、すかさず顔を寄せられてキスされる。
泣きたいのに泣けないみたいな、そんな顔に見えた。
「んっ、ん、ツグト君……」
舌を絡めながら、オレを抱く彼の名前を呼ぶ。
ツグト君からの返事はない。広い背中から手を放し、両手で彼の頬に触れようとしたけど、ツグト君はオレの首元に顔を伏せ、そうさせてはくれなかった。
「……っ、くそっ」
小さな悪態と、息を詰める気配。
背中をすくうように抱き締められ、折れそうなくらいに力が籠められる。
「あっ、あ……」
背骨が軋んで、息が詰まった。けどすぐに腕が緩められ、代わりにずんっと奥を突かれる。
前に国境で――封印の鎖の渦に覆われながら、首を絞められたのをふと思い出した。
あの時と同じ気持ちなんだろうか? 絶望と自嘲と諦めとが、彼の瞳の色を暗くする。
ホントに泣きたいのはツグト君の方だ。なのにオレばっか泣いて、逆に慰めて貰って情けない。そう思うのに胸がいっぱいで、慰めや励ましの言葉なんか出てこなかった。
そんなのは口にできない。
オレにできることなんて、何もない。
「ツグト君。どこにも行かないで」
そう言った瞬間、耳元でふんと鼻を鳴らされた。
応える代わりにべろりと舌を這わされて、耳たぶを甘噛みされる。
「あ、だめ……」
ぞくぞくとする快感。奥を突き込まれたままぐりぐりと腰を回されて、「んんっ」と甘えた声が出る。
「ん、ねぇ、ツグト君……、あっ」
更に口を開こうとすると、今度はアゴの下を舐められた。そのまま首筋に舌を這わされ、ちゅうっと強く吸いつかれる。
「あ、は……っ」
目を開けていられなくて、顔を背ける。
「ねぇ、行かないで。ん、側にいて」
ぎゅっと目を閉じたまま訴えると、また「ふん」と鼻を鳴らされた。
「行かねーよ。どこにも行くとこなんかねぇ」
静かな声に、ドキンとする。
望んだ答えなのに、これじゃないって思った。でも考える間もなく抜き差しが早くなり、翻弄されて喋れなくなる。
「まっ、ああっ」
待って、って言いたいけど言わせて貰えない。
どこにも行かないで、って願いも口にできない。「行かない」って言葉、信じていい?
ツグト君を封印するようなコトしたくないけど、今はオレの持つ「鍵」に縋りたい。鎖じゃなくて、絆だって思いたい。
「ナギ、サワ、ツグ、ト……っ」
切れ切れに彼の名前を呼ぶと、「ああ」って応じられて、鎖骨の下がピリピリした。
「ルーク……っ」
唇を乱暴に重ねられ、ぐっと脚を押し開かれる。
ずんずんと中を擦られ、感じるトコを穿たれて、閉じた目の奥にチカチカと星が散らばった。
「お前はっ、そのままでいてくれっ」
荒い息の中で、ツグト君が言った。
返事はできなかった。互いに射精しても、その行為は終わんなくて。意識がもうろうとするまで喘がされた。
目を覚ますと、朝だった。
妙にベッドが広く感じて、寝返りを打ち起き上がる。ツグト君がいないってすぐ気付いた。すっかり添い寝に慣れちゃってて、こんな風に1人だと広いベッドが寒々しい。
「……ツグト君?」
朝日の眩しさに目を細め、ぼんやりとしながら部屋の中を見回したけど、彼の姿は見えなかった。
昨日さんざん啼かされたせいか、ノドが痛くて咳が出る。ついでに身体のあちこちも痛んで、まだ少し名残がある。
よろめきながらベッドから降りて、ふらふらとサイドテーブルの水差しを取る。水を飲んで息をつき、改めて部屋を見回したけど、やっぱりツグト君はいなくて――ふいに恐怖に襲われた。
「ツグト君?」
もう1度名前を呼んだけど、返事はない。
鎖骨の下を見ると、鍵と鎖の痣はちゃんとそこにあって、ホッとはしたけど安心できない。
ツグト君、消えた訳じゃないよね? どこにも行かないって言ったよね? 正確には「行けない」みたいなニュアンスだったけど、それでも側にいて欲しい。
ツグト君はどこだろう? 先に起きてることはたまにあるけど、オレを置いて部屋から出るなんて、なかったのに。
お風呂に入ってるの? それとも図書室? 剣の稽古じゃないよね?
「ツグト君?」
ふらつきながら部屋を出ようとしたところで、侍従が慌てて駆け寄って来た。
「ルーク様、お目覚めですか」
お着替えを、って部屋に再び戻されながら「うん……」ってうなずく。
「ねぇ、ツグト君は?」
渡されたシャツに首を通しながら訊くと、侍従は困ったように眉を下げた。
「勇者様は、夜のうちに……」
言葉を濁しながら侍従が教えてくれたのは、ツグト君がオレの部屋を出てったこと。
そのまま彼は地下に降り、元のあの狭くて真っ暗な地下室に自分から戻ったんだって聞かされて、ざあっと一気に血の気が引いた。
「え……なんで?」
震える声での問いに、侍従は首を振るだけで答えない。理由は聞かされてないみたい。
じーちゃんなら知ってるのかと思ったけど、じーちゃんも理由までは聞いてないみたいだ。先触れも出さずに執務室に押しかけたオレを見て、じーちゃんが暗い声で「ルーク……」と呼ぶ。
「勇者殿は、再びの封印を望んでおる」
「イヤだ!」
ぶんっと首を振ると、強く肩を掴まれた。
「お前がイヤでも、民には封印されたと伝えねばならん。強過ぎる力は毒になる」
「イヤ! だ!」
じーちゃんの言葉の意味が分かんない程子供じゃない。
ツグト君を化け物だって呼んだ令嬢、ツグト君の排除を望んだ王族、ツグト君を恐ろしげに避けてた兵士たち――そんな厳しい現実が、彼を孤独な暗闇に追い詰める。
ツグト君は危険じゃない。
ツグト君は化け物でもない。
どうしてみんな分かってくれないんだろう? ツグト君自身も、それを分かってないのがもどかしい。
じわっと浮かぶ涙を乱暴に手でぬぐい、バッと踵を返してじーちゃんに背を向ける。
「ルーク!」
「オレ、ツグト君がいないなら何もいらないっ」
感情のままに告げて執務室を飛び出し、それから真っ直ぐ地下に向かう。
ツグト君を封じるべき「鍵」は、まだオレの中にある。つまりツグト君はまだホントに封印された訳じゃなくて、今はそれだけが頼りだった。
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