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俺がボーッとシアンが出ていった扉を見つめていると、「カナ」と渋い声でアルファムに呼ばれた。
「なに?」
「いや…、シアンが気になるのか?」
険しい表情で俺を見るアルファムに、「うん」と頷くと、ますます凶悪な顔になって、本当の鬼みたいだと心の中で思った。
「ああいう奴が好みなのか…?」
「は?え?いやいや、確かに優しそうだとは思うけども…。そうじゃなくて、この国の人達って、アルは赤い髪でシアン…さんは橙色の髪で、綺麗な髪の色だなぁって思ったんだよ」
「カナがいた国は違うのか?」
「うん。みんな黒い。だから色んな色に染めてる人もいる。俺は、髪が傷むし黒が好きだから染めなかったけど」
「尊い黒を染めるなど、なんと罰当たりな。国の中でも、カナはきっと優れた美しい黒をしていたに違いない。色も綺麗だが、髪もとてもサラサラとして美しい」
「え、あ…ありがと…」
未だかってこんなにも髪の毛を褒められたことがあっただろうか?
いや…、まあアイツには、『手触りが好きだ』と褒められたことがあったな…。だから俺は、決して染めたりはしなかったんだ。
アルファムは、よほど俺の髪の毛が気に入ったのか、さっきからずっと撫でたり指で梳いたりしている。
俺は好きなようにさせていたけど、だんだんと恥ずかしくなってきて、止めるように言おうと顔を上げた所で扉が開いて、シアンが戻って来た。
「アルファ厶様、カナ様のお食事の用意が出来ました」
「わかった。カナ」
名前を呼ばれて、コテンと首を傾ける。
アルファムがフッと笑うといきなり俺を抱き上げて、そのまま歩き出した。
「ちよっ…、じっ、自分で歩くから…っ!」
「ダメだ。カナは3日間眠っていたのだ。足が弱ってるから大人しくしてろ。ほら、そんなに暴れるから皆に見られているぞ」
アルファムの腕の中でバタバタと暴れる俺の背中を、アルファ厶が小さい子をあやす様にポンポンと叩く。
廊下にいた鮮やかな髪色をした数人に注目されて、俺は顔を熱くして、アルファ厶の胸に顔を埋めた。
頭の上からクスリと笑う気配を感じて、顔を上げれずにいると、「着いたぞ」という声がした。
そっと顔を上げた俺の目に、広い部屋の中央に大きな長方形のテーブルがあり、その上に様々な料理が並んでいる光景が映った。
「…わぁ…」
料理を見て匂いを嗅いだ途端に、ものすごい勢いで食欲が湧き上がる。
俺の様子を見ていたアルファ厶が、窓の近くの席に俺を下ろした。
アルファ厶は、俺とテーブルの角を挟んで座ると、皿に肉や野菜を乗せて俺の前に置く。
「これは美味いから食え。体力も回復する。カナは、何が好きだ?」
両手を合わせた俺を不思議そうに眺めながら、アルファ厶が酒らしきものが入ったコップを持って聞いてくる。
「ん~…、肉も好きだけど、果物が好きだよ」
「果物か…。じゃあ、甘い物が好きなのか?」
「うん!好きっ。え?デザートがあるの?」
もぐもぐと肉を咀嚼しながら、俺はアルファ厶が少し離れた場所に立つ人に何かを指示するのを見ていた。
ーー俺…、目が覚めてすぐに腹が鳴ったからご飯を食べて…。すごく良くしてもらってるのに、アルファ厶が何者なのか、まだ聞いてない…。それに、いきなり過ぎて頭が回ってなかったけど、ここは日本ではない国らしいのに、何で言葉が通じるんだろう…?てか、普通に日本語に聞こえるんだけど。
ひたすら口を動かしながらアルファ厶を見つめていたからか、視線に気づいたアルファ厶が、フッと破顔した。
その太陽のように眩しい笑顔に、口いっぱいに頬張っていた事が恥ずかしくなって、慌てて目の前のコップを掴んで中に入っていた飲み物で一気に流し込んだ。
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