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泉を出て新しい服に着替え、アルファ厶に抱き抱えられて連れて来られた部屋は、最初に俺が寝かされていた部屋だった。
アルファ厶は「監禁する」と言ったけど、この部屋には大きな窓がある。食事をした部屋と同じように窓の外にはバルコニーもあって、また俺が海へ飛び込もうと思えば飛び込める。
この国の部屋着らしい丈の長い上着の裾を持ち上げて、俺は窓へと近づいた。
ガラスに手を当てて押すけど、ビクとも動かない。鍵が掛かっているのかと窓を見るけど、どこにも鍵らしきものが見当たらない。
チラリと俺の後ろに立つアルファ厶を見ると、ん?と首を傾げられた。
「アル…、鍵はどこにあるの?」
「鍵などない」
「じゃあなんで開かないんだよ」
「術をかけて開かないようにしてある」
「術…?」
俺は窓を開けるのを諦めて、アルファ厶に向き直って聞いた。
「さっき、炎みたいなのを出してたよね?それも術?術って何?」
「術とは魔法のことだ。この国は炎の国だと言っただろう?国の中で、身分の高い者だけが、炎を操る術を使える」
「炎を操る…。じゃあ窓の鍵は?」
「これは、まあ言わば結界みたいなものだ。逃がしたくないものを閉じ込める術だ」
「これも…誰でも出来る訳じゃない?」
窓の側の椅子に腰掛けたアルファ厶に手を引かれて、アルファ厶の膝の上に座らされる。
横向きに座った俺の頭を自分の胸に抱き寄せて、アルファ厶がそっと俺の髪を撫でながら話し続ける。
「炎を操るのは身分の高い者だけだが、例えば物を飛ばしたり結界を張ったりは修行すれば出来る」
「へぇ…誰でも出来る?」
「いや、向いてる者とそうじゃない者がいるからな。誰でも出来るわけではない。ん?カナは興味があるのか?」
「うん。だってそんな不思議な力が使えるなんてすごい!俺も使ってみたいっ」
「カナの国では使わないのか?」
俺は、アルファ厶の胸にペタリとつけていた頬を離して顔を上げ、アルファ厶と目を合わせた。
「そんな力、誰も持ってないよ。だからアルファ厶の炎を操る力とか、すごくかっこいいと思う…」
最後はもごもごと小さく呟いて、俺は再びアルファ厶の胸に顔を伏せた。
だってアルファ厶が、とても甘い目をして俺を見ていたから、心臓が掴まれたように苦しくなったんだ。とても恥ずかしくて、アルファ厶の顔を見ていられなくなったんだ。
アルファ厶は、俺の髪に唇をつけて「そうか」と笑う。
「カナの怪我が完全に治って元気になったら、俺が術を教えてやろう。もしかしたらすごい才能があるかもしれないな」
「ほ、ほんと?約束だよ?」
「ああ、約束だ」
少しだけ顔を上げた俺の額にキスをして、アルファ厶が力強く頷いた。
さっきから心臓がドキドキとうるさくて、顔も熱くて恥ずかしい。だけど、とても穏やかな気持ちになって目を閉じようとした時、一番大事なことを聞き忘れたと勢いよく顔を上げた。
「どうした?」
「ねぇ、さっき身分の高い者が炎を使えるって言ってたけど、アルは偉い人なの?」
「ん?言ってなかったか?俺はこの炎の国、エンの王だ」
「………ええっっっ!!!おっ、王様っっ!?」
俺はこの世界に来てからの一番の大きな声を上げて、暫く口を開けたままアルファ厶を見つめて固まった。
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