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俺がアルファ厶の手に触れたからか、アルファ厶が後ろから俺を覗き込んで頬に唇をつけた。
驚いて咄嗟に振り向いた俺の唇にも軽く口付けて、「どうした?」と笑う。
俺は慌てて前を向いて俯くと、ポツリと言った。
「…アル、かっこいい…」
「ん?なんだ?」
また俺の頬に頬を寄せて、アルファ厶が聞き返す。
俺は小さく頭を横に振ると、手綱を掴んで前を見た。
「ねぇ、アル。俺に馬の乗り方教えてよ」
「なぜだ。カナは俺と共に乗るから必要ないぞ」
「え?それって決まってるの?でも俺…乗ったことないから一人で乗ってみたい…」
しゅん、と俯いた俺の頭を撫でて、「わかった」とアルファ厶が笑う。
「今夜泊まる予定の小さな町がある。そこで、明日の朝、少し早起きをして練習しようか」
「ほんとっ?ありがとうアル!大好きっ……あ…」
「…ったく…」
嬉しくてつい口走ってしまった言葉に照れて、俺は両手で口を塞ぐ。
アルファ厶は、大きな溜息を吐くと俺のつむじにキスをして、手綱を握り直して少しだけ速度を速めた。
「うぅ…、腰とお尻が痛い…」
俺は、今夜の宿泊場所である部屋のベッドにうつ伏せに寝転んで、重く痛む腰に手を当てていた。
昼食を摂る為に一度だけ休憩をして、後はずっと馬に揺られ続けた。
途中、あまりにもお尻が痛くなったからアルファ厶に訴えようと思ったのだけど、俺の様子を見て馬の速度を落として進んでいると分かっていたから、我慢した。
結果、宿に着いて自力では馬から降りることも出来ず、アルファ厶に抱き抱えられて部屋に連れて来られた。
「カナ、もう少し我慢してくれ。すぐに治してやるからな」
腰に当てた俺の手を退けて、アルファ厶が優しく撫でる。暫く撫でてから俺の隣に寝転んで、立てた肘に頭を乗せて俺の顔を見つめた。
「…なに?」
「カナ…、辛くなったら言えと言ったのに、なぜ黙っていたんだ?」
「だって…、本当はアル達は、もっと速く進むことが出来たんだろ?俺の為にゆっくりと進んでいたんだろ?たぶん、いつもよりも時間をかけて進んでくれているのに、これ以上俺のせいで遅らせたくなかったんだ…」
顔だけをアルファ厶に向けて、情けない自分に半泣きになりながら言う。
アルファ厶の手が伸びて、俺の頬を優しく撫でた。
「なぁ、カナ。俺はおまえを大切だと言ったぞ?大切なものの為なら、どんなに時間をかけても労力を使っても、なにも惜しくない。それよりも、カナが辛い思いをする方が嫌だ。これからはもっと俺に甘えろ。もっと我儘を言え。いいな?」
「…うん。ごめんね、アル…」
そう言うと、俺はアルファ厶と反対側を向いた。
だって、鼻の奥がツンとして、涙が溢れそうになったから。
前の世界では、俺は気を使ってばかりいた。自分の気持ちを押し殺して、相手の気持ちを優先してきた。
でもアルファ厶は、俺の気持ちを一番に考えてくれる。大切だとはっきり言ってくれる。
それがすごく嬉しくて、幸せで、泣きたくなったんだ。
ポロリポロリと流れ落ちる涙が、ベッドの生地に吸い込まれてシミを作る。
垂れてきた鼻水を音を立てずにすすろうとしたら、背中から大きな腕に包まれた。
「何を泣いてる?泣きたい時は、俺の腕の中で泣け…」
頭の上から囁かれる優しい声に、せっかく止まりかけた涙がまた溢れ出す。
俺は、身体を反転させるとアルファ厶にしがみつき、アルファ厶の胸に顔を押し付けてグズグズと泣き続けた。
「カナ、カナ、そろそろ起きろ」
「んぅ…?」
肩を揺すられて、俺は目を擦りながら意識を浮上させる。
すぐ目の前にアルファ厶の顔が見えて、俺を笑って見ていた。
「カナ、明日も一日移動で疲れるからちゃんと飯を食え」
そう言われてテーブルを見ると、肉料理やパン、湯気の立つスープが並んでいる。
俺は手をついて身体を起こし、違和感に気づいて大きな声を上げた。
「あれっ?痛みが消えてる!」
腰やお尻を触ったり押したりしても、全く痛みを感じない。
アルファ厶に手を引かれてベッドから降りると、アルファ厶を見上げて「なんで?」と首を傾げた。
「ふっ、城の泉の水を持って来ていたのだ。カナが寝ている間に、腰と尻に泉の水を含んだ布を暫く当てていた。後で見るといい。赤くなっていた尻が、元通りに真っ白になっているぞ」
「へぇ~、用意がいいというか…。でもありがとう!助かっ…た…。え?尻?おっ、俺のっ、お尻…見たのっ!?」
「見ないと治癒が出来ないだろ」
「だっ、だけど…っ」
「何を恥ずかしがることがある。とても可愛らしい尻だったぞ?」
さすがにあの腰とお尻の痛さで、明日も馬に乗るのは辛いと思っていた。だから治ってすごく嬉しい。でもっ、アルファ厶にお尻を見られた…っ!
俺は、前の世界では、裸で温泉にも入って他人にお尻を見られたこともある。
なのになんで、こうもアルファ厶だと恥ずかしいのだろう…。
チラリとアルファ厶を窺うと、あの太陽のような笑顔で俺を見ていた。
俺は小さく溜息を吐くと、『いつか俺もアルファ厶の尻を見てやる!』と心に決めて、食事が並ぶテーブルの椅子に腰掛けた。
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